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「雨ひどくなってきたね」
「まだひどくなるとは思わなかったよ」
さゆさんに入れてもらったコーヒーを飲みながら二人でお菓子をつまんでいたら突然降り出した雨。
夕立だろうしすぐに止むだろうと高をくくってのんびりしていたらどんどんひどくなる雨足にたじたじとしてしまう。
「困ったな。まさか降るとは思ってなくて傘も持ってないよ」
「貸そうか?」
「いや、それだと明日まだ雨降ってたらさゆさんが困るでしょ」
「まぁ傘一つしかないけどわたしは構わないよ」
「ぼくが構う。とは言え止むか弱くなってくれないと厳しいなぁ」
とは言えどう見ても止む気配はないのである。
だから立ち往生しているのだから。
突然天気が崩れたものだから予想外で何の対策もしていなかった。
「まぁゆっくりしていきなよ。どうせわたし一人の部屋だしくつろいでくれて構わないから。いざとなったら泊まっていけばいい」
「ごめん、それは無理。そうなる前にどうやっても帰るから。ただ、今はお言葉に甘えさせてもらうよ」
「本当に構わないんだけどね」
「ぼくが構う」
「オトコノコは大変だね」
「女の子も大変でしょう」
「そだね」
「そんなものだよ」
さゆさんは特に表情もなく外の雨を見ていた。
ユウはそんなさゆさんを見つめる。
「ナルシストは誰にでもやさしいよね」
「だからナルシストじゃないんだけど。そうかな、そんなつもりはないんだけど」
「意図的ではないんだろうけどね。八方美人に見えるよ」
「あー、それはあるのかもしれないね。ぼくは人に嫌われるのが一番怖いからさ。無意識で誰にも嫌われにくいように行動しているのかもしれない」
ユウは自身を弱い人間だと認めている。
誰にも嫌われたくない、特に問題なくすごしたい、そんな考えから八方美人になり外見もあいまって多くの人々に愛されるユウ。
一人では生きられない弱さ。
しかしそれは強さともなりえるということにユウは気付いていない。
そして一人でも平気で誰にも心を開かず、ほとんど一人ですごしているさゆさんのことをユウは強いと思っていた。
しかしそれはユウとは真逆の生き方であり、やはり強さと弱さ、両方持ち合わせているのだ。
この世界というのは往々にしてそんなものなのかもしれない。
視点が変われば真逆になるようなものは多々あるのだから。
「誰にでもやさしいって、残酷だよね」
「わかってるんだけどね」
「それでもユウのそういうところが好きな人、結構いるんだろうね」
「そうなのかな。さゆさんはどうなの?」
「めんどくさいし好きじゃない」
「ひどいなぁ」
「でも」
ユウのはそんなに嫌いじゃない、そんな風に表情もなくさゆさんに言われてユウは赤面する。
さゆさんの嫌いじゃない、は好きと同義だし。
そんな素直じゃないさゆさんのことをあまり好きじゃない人が多いのだけど、ユウはさゆさんのそんなところが好きだったりするのだ。
「さゆさんってさ」
「何」
「やっぱりかわいいよね」
「わけがわからないよ」
「それでいいと思うんだ」
「あぁ、わかったよ」
「うん?」
「ナルシストはやっぱり電波だね」
「なんでそうなったの・・・・・・」
「わけのわからないことをよく言うし」
「そんなに変なこと言ってないと思うんだけど」
「いきなり変な電波を受信してしゃべり出したりするじゃん」
「電波なんて受信してませんが」
「いきなり妙なことを語り出したりしてるよ」
「そうは言われましてもあれは作者的な説明で・・・・・・」
「そういえば雨止んだみたい」
「あ、ホントだ、ってぼくの電波疑惑は晴れないまま
終わりですか!?電波じゃないよ!?」
「また降り出さないうちに帰った方がいいんじゃない?」
「いやそうなんですけど納得が行かないと言うか」
「一晩語り明かすと言うのならわたしはそれでも構わないけど?」
「帰ります帰らせていただきます」
「ん」
少しだけ寂しそうな色のある笑顔でさゆさんがうなずいた。
ずるいなぁ、なんてユウはため息をつく。
「またお邪魔してもいいかな」
「また重いものがあったら呼ぶよ」
「そっか」
素直じゃないなぁ、でもそんなところがなんだかかわいくて。
これだからさゆさんの頼みとか、絶対に断れないんだよなぁ、と苦笑い。
「ばいばい。また明日ね、さゆさん」
「ん」
見送りさゆさんはなんだかさっきより満足げな表情で。きっとまた来てもいいかというユウの質問が効いているんだろう。
手を振って見送ってくれるのが嬉しくてユウもぱたぱたと手を振る。
名残惜しいけれど、また明日会えるのだから。
今日のところはバイバイ。
またね、さゆさん。