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「さゆさん、マジで重いです」
「だからナルシストに頼んだんじゃない」
荷物持ちという名目でついてきたユウだったが本気でかなり重かったので弱音を吐いてしまう。
慰めるために誘ってくれたのだとばかり思っていたのにまさか本気で荷物持ちで呼ばれたのだとは。
「そうだけど、これもし自分ひとりだったらどうしてたの?」
「数回に分けて借りるしかないよ。資料だから一度に借りたいのだけど、自分では運べないから」
「そう。なら今度からもぼくを呼んでくれれば手伝うよ。必要な力は遠慮せずに使ってくれて構わないし」
「ん、ありがと」
そっけない返事だったがそこにユウは感謝の気持ちを確かに感じ、満足げに笑う。
さゆさんはいつもだるそうであまり気持ちを表に出さない。
そんなさゆさんの気持ちになかなか気付けないけれど、一緒にすごす時間が増えてきてユウにもだんだんわかるようになってきていた。
鈍感だけど、ユウは頭まで悪くはない。
経験して考えればわかることならだんだんわかってくるのだ。
「これで最後」
「はい。これ何に使うの?」
「小説」
「そう。新作でも書いてるの?」
「先週からね。今は設定を組んでる」
「そのための資料ね。ファンタジー?」
「そうだよ」
「この資料を使ってどんなのができるのかすごい気になる」
「出来たら読ませてあげるよ」
「ありがと。楽しみにしてる」
「ん」
さゆさんは小説を書いている。
とは言えまだ趣味のレベル。
せいぜいネットで発表するか家族に見せるくらいで終わり。
しかしそのためにでも資料をきちんと集めているさゆさんの作る話の設定は本当にきちんと練りこんである。
ユウは前に一度プロは目指していないのか聞いてみたことが
あるのだがさゆさん曰く、『わたしは『書く側』ではなく『読む側』の人間だから』とのことでプロになる気はないらしい。
ユウとしてはさゆさんの書く話は非常に面白くてたくさんの人にそれをわかってもらえたらいいのになんて思うのだが本人にその気がないのなら仕方ない。
「どこまで持っていけばいいの?」
「家まで」
「そう。――って、えぇええ!?いいの!?」
ユウはうなずきかけて途中で飛び上がらんばかりに驚きの声を上げる。
なにせさゆさんは一人暮らしである。
そんなさゆさんの家に上がりこんでいいのやら。
「何?その一冊持つのに限界な本をわたし一人で部屋まで運べって言うの?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
「ならお願いね」
「わかったけど」
それっきりさゆさんは黙ってしまうのでユウも反論できない。
大丈夫なのかなぁ、心配だなぁ、なんてぐるぐると考えながらもさゆさんに言われてしまうと断ることが出来ないユウ。
さゆさんの実家は知っているけれど現在住んでいるアパートの場所までは知らなかった。
そのためあとをついていくしかないのだが。
いまだ心配で気が乗らない。
女の子にモテはするものの女の子の部屋になんて上がったことがない。
微妙に緊張してきてしまう。
「ここだよ」
「おぉー」
「何の変哲もないアパートだよ」
「いや、結構きれいだと思うけど」
「最近出来たらしいね」
「家賃は親が?」
「うん。ありがたいことに。あと少しバイトしてるからそれも当ててる」
「バイトしてたんだ」
「内職だけどね」
「なるほど」
「こっちだよ」
アパートにしては結構しっかりとしている、ユウはそんな風に感じた。
アパート自体あまり知らないのだがユウにはなんとなくイメージで
古そうな二階建てくらいの建物のイメージがある。
このアパートは六階建てで各階に四つほどの部屋があるようだ。
それぞれが結構広いスペースを持っている。
さゆさんの部屋は四階の一番奥の部屋だった。
「上がって」
「おじゃましまーす」
扉を開いてくれたさゆさんに続いてユウは部屋に上がる。
中は殺風景だった。