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「この物語はさゆさんがいかにかわいいかと言うことを伝えるための物語です。日常の会話だけのような話なので特に展開とかもなくてつまらないかもしれないけど楽しんでくれる人がいたらいいなーと思っています」
「ナルシスト、独り言長い」
「ごめんなさい」
「電波受信してもそれをわざわざ言葉にしなきゃ迷惑にならないから黙っててよ」
さゆさん結構辛らつ。
ナルシストこと筬那 悠は眉をハの字にして肩をすくめる。
基本的にいつもこうだ。
そばにいること自体には特に何も言ってこないけどしゃべるとすぐ黙れと言われる。
しゃべるのが大好きなユウにとっては残念なことながらさゆさんはあまり話すのが好きではないらしい。
仕方ないのでぼんやりとさゆさんを見つめる。
ユウのことを超美形とか言うけどなんだかんだでさゆさんも顔は悪くない。
むしろ普通よりかわいい部類に入るだろう。
少し色素の薄い、天パで毛先がくるくるしたセミロングのボブ。
標準より大きめのパッチリおめめに小さめで薄い唇。
化粧はあまり好きじゃないのかリップ以外は目立つほどの化粧はしていないのにすごくかわいく見える。
さゆさんは教室でよく読書をしていた。
ハードカバーの本を机に置いてひじを突きながらゆっくりとページをめくる姿はなんだか様になっていて邪魔したくなくなる。
「・・・・・・何」
「ん?どうかした?」
「何か用?さっきからやたらとこっち見てる」
「んーん。さゆさんかわいいなーと思って見てただけ」
「嘘だよ。ナルシストはそんなこと考えない」
「さゆさんさゆさん。ぼく本当はナルシストじゃないんだけど」
「知ってる」
「だからマジです」
「ナルシストっていうのはギリシャ神話に出てくるナルシスという美少年が語源となっているんだよ。
ナルシスは誰からも愛される少年だった。ユウみたいにね。
ニンフ、森の妖精エコーもそんな彼を愛していた。
けれどエコーは、女神ヘラに憎まれて他人の言葉をそのまま返すことしか出来なかった。ナルシスが『愛している』と言ってくれなければエコーの想いは伝わらない。
けれど他人を愛すことが出来ないナルシスにどんなにあこがれても願っても絶対に叶うことはないエコーの想い。
最後にはエコーはナルシスに呪いをかけてしまう。泉に映った自分に恋してしまうように。
そして自分の姿を見続けたナルシスはやがてきれいな花へと姿を変えた。それがナルキッソス、水仙と言うわけ」
いきなり饒舌に謎の知識を語り出すさゆさん。
どうやら照れているらしい。
ユウは経験上そう判断する。
照れると何故か難しい知識を語り出す癖があるらしいのだ。
「かわいいなぁ、さゆさんは」
「何故そうなるの」
「何故かな」
「ナルシストと会話していると疲れる。黙ってて」
「ごめん、怒らせた?」
「別に」
せっかくこちらを見てくれていたのに再び本に目を落としてしまったさゆさんを見てユウはしょんぼりする。
「放課後に図書館に行くんだけど」
「え?」
「ナルシストも来る?」
「いや、図書館に特に用事はないけど」
「ハードカバーって重いんだよね」
「・・・・・・あぁ、わかった。ついていくよ」
「ん」
ユウは鈍感なのでなかなか気付かない。
ほとんど明言しているような状態になってやっと気付く。
それゆえさゆさんもいろいろ苦労しているようだけど。
なんだかんだで仲良くすごしているようだった。