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スキップドロップ  作者: 丹㑚仁戻
第一章 吸血鬼、吸血鬼ハンターになる
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【第二話 威嚇】2-2 物理的にね、物理的に!

 オフィスの隅の方から歩いてきたのは若い男の人だった。上はパーカー、下はブーツインしたワークパンツと、軍人さんの格好を街中に適応させた感じのファッション。一瞬壱政様かと思ったけれど、背格好と服装が似ているだけで別人だった。

 色は髪の毛含め全身真っ黒。ただそのお顔には見覚えがある。真っ黒の中で一際輝きを放つそのご尊顔を忘れるはずがない。

 東京タワーのてっぺんで出会った、あの顔の良い彼だ。


「あ、この前の……」


 思わず小さく声を漏らしてしまったけれど、向こうには聞こえなかったらしい。彼は不機嫌そうに顔を顰め、二号の方を思い切り睨みつけた。


「俺達は上位種がここに入り込むことだって納得してないんだぞ!? それをこんなあっさり言いくるめられるなんて、アンタに責任者としての自覚はないのか!?」

「黙れキョウ! お前なんかが偉そうな口を叩くな!」

「なッ……」


 二号ってば酷い。『お前なんか』って結構あれな言い方じゃないか。

 と頭の片隅で思いながら、私は気付けば二号に背を向けずいと身を乗り出していた。


「キョウさんって言うんですか!?」

「……は?」


 顔の良い彼ことキョウさんはぽかんとした表情を浮かべている。さっきまでのキリッとしたお顔も格好良かったけれど、こういう間抜けな顔も可愛いな!


「先日はどうも失礼いたしました! 改めまして浅倉一葉と申します! あ、できれば一葉と呼んでください! 名字はあまり使わないので是非名前で呼んでいただきたい!」


 今度は影にならず一歩一歩ちゃんと足で歩きながら寄っていけば、周りのハンター達がざわざわしていくのが分かった。

 このざわざわはあれだな、ドン引きってやつだ。でも大丈夫、私はめげない。何故なら日頃から壱政様の視線を浴びているからね、これくらい何とも思わないんだ。


「何だよ、アンタ……」


 キョウさんも私に引いている。まるで得体の知れないものでも見るかのような目で私を見ているけれど、そんなお顔もやはり素敵だと思います。


「あなたの! お顔が! 好きです!」

「……は?」


 はい、二度目の『は?』いただきました。でも誰かさんみたいに吐き捨てるようなやつじゃないから全然平気。ていうかあれは叱責と斬撃の前兆だから意味が全く違う。

 そりゃまあ相手に与える自分の印象を大事にするべきだとは分かっているんだけどね、別に私はキョウさんの内面とかどうでもいいからさ。そのお顔さえ見られれば彼に何と思われようと気にならない。


「ですから私、あなたのお顔に一目惚れしまして。あ、付き合って欲しいとかそういうのじゃないんでご安心ください。綺麗な宝石を眺めはしても大抵恋愛感情みたいなものは持たないでしょう? そういうあれです、ラブだけどエロスではなく限りなくアガペーに近いイメージです。ああ、でもだからと言って自分を神だとか、より高位の存在だと思っているわけではありません。だから〝限りなく近い〟と言っているのですけれどもそういえばキョウさんは今カラコンしてます? なんかここの皆さん目がやたら黒い気がするんですよね。他の方はどうでもいいのですけどもしキョウさんが黒いカラコンを入れてるなら元のお色が隠されてしまっているということなので私としては是非とも裸眼を拝見したいと思っておりまして」

「……ちょっと黙ってくれないか」

「はい!」


 キョウさんは理解が追いつかないとばかりに顔を歪め、考えるようにあちらこちらに視線を彷徨わせている。それでも時折ちらちらと私の方を見てくるのは状況を整理するためだろう。とりあえず見てくるのは別にいいんだけどさ、見るたびに顔を顰めるのはなんでだろうね。そんな見られない容姿をしている覚えはないぞ。


「アンタは上位種なんだよな?」

「あなた方の定義で言うとそうですね。私達の方ではただの吸血鬼なんですけれども」

「一応聞くが、何のためにここに来た?」

「今ご説明したとおり、治安維持の協力みたいなものです」

「それは分かってる。だが建前じゃないのか? 本当はハンターの拠点を全部調べて俺達を潰そうとしているとしてもおかしくないだろ」


 なるほど、キョウさんは私を警戒しているのか。

 それは当然だろう。彼らは吸血鬼ハンターなのに、突然その吸血鬼と協力することになったのだ。しかもそのあたりのやりとりはハンター達の上層部でのみ行われていて、現場には結論だけが降ってきた状態。混乱しないはずがない。


 正直なところ、ハンターを潰したところで私達にメリットはない。というか潰したいならとっくにやっている。

 吸血鬼側がハンターに手を出さないのははっきり言って面倒だからだ。いくら対処したところで、吸血鬼の中に人間を襲う者が出てしまう限り私達を討ち取ろうとする人間は出てくる。だから百年ほど前に今のハンター達組織の元となった集団とずぶずぶの関係を築くことにしたのだ。


 ということをここで言うと混乱が起きるから言わないでおく。ていうか壱政様にまた怒られる。

 だからここは大人な対応をしよう。『いえいえ、そんなこといたしませんよ。我々だけでは心もとないので皆さんの協力を仰ぎたいのです』みたいなね。


「いえいえ、そんなまだるっこしいことしなくてもいつでも簡単に潰せるんで」

「は……!?」


 あ、間違えた。


「いやあのえっと……そう! 物理的にね、物理的に! たとえば怪しい場所まるごとどっかーんと爆破してしまえば簡単に潰せる!」

「……本気で言ってるのか?」


 いいえ、苦し紛れです。


「まあまあ細かいこと気にしないでください。先程も申しましたように、最近のモロイ達の増加はこちらも本当に困っているんです。我々としては同胞に法を守らせるというのを最重要視しています。だから好き勝手やる奴らは全員ひっ捕らえて相応の処罰を下したいんですよ」

「……つまり俺達のしてきたことはアンタらの尻拭いだと?」

「えっ……えー……」


 端的に言うとそうなんです――とは口が裂けても言えないから、なんて言えばいいかな。困ったぞ。


「確かにそういう受け取り方もできますが、あなた方の行動によってある種の秩序ができていることも事実です。ハンターという存在は間違いなく我々吸血鬼に対する抑止力になっています。あなた方のように人間を守ろうとする人達がいなければ、私達はもっと人間を軽んじていたことでしょう」


 私が言うと、周りの人達の何人かは満足そうな顔を浮かべた。だけどキョウさんだけは更に眉間の皺を深くしただけ。

 なるほどな、なかなかに思慮深い性格と見た。


「今アンタが言ったことこそ建前に聞こえるんだが?」


 ああもう面倒臭いな。キョウさんってあれだ、良いのは顔だけだ。もっところりと騙されやすい人の方が私は好きだぞ。


「本音ですよ。でも本音だって状況によっては建前に変わり得ます。これを建前とするのであれば、損をするのは誰でしょう?」


 顔はキョウさんに向けているけれど、今のは二号に言った言葉だ。二号はまがりなりにもこの支部のトップ、キョウさんを窘めてくれるだろう。


「いい加減にしろ、キョウ! お前の態度一つでモロイを一掃する機会を潰すつもりか!?」


 ほらほら、二号怒ってるじゃん。


「なッ……正気か!? 今の話聞いてたなら分かるだろ!? こいつらは俺達を利用しようとして――」

「利用するのはこちらも同じ! モロイはともかく上位種はそう簡単に殺せないんだ、上位種同士で始末をつけてもらった方がこちらの被害も少なくて済む!」

「そうかもしれないけど……!」

「大人になれ、キョウ。そんなにこの方が信用できないならお前が見張ればいい! ――浅倉さん、ここでハンターとして活動するにあたり、このキョウと行動を共にしていただくことはできますか? それをこの支部に出入りするための条件とさせていただきたい」

「構いませんよ。私の顔を知らないハンターの方もいるでしょうから、こちらとしてもその方が面倒事を避けられそうです」

「ッふざけるなよ!? 何勝手に決めてんだよ!!」

「支部長としての命令だ!」


 二号の最後の一言でキョウさんは押し黙った。いやあ、トップダウンの組織ってこういう時便利だよね。時代の風潮的には微妙かもしれないけれど。

 で、気になるのが周りの反応だ。味方として受け入れていいか分からない吸血鬼の相手をキョウさんに押し付けられて安心する気持ちは分かるんだけどさ、なんか悪意のある笑い方をしている人達がいるんだ。

 そしてその悪意は私ではなくキョウさんへと向いている。それっておかしくない? この組織の中で彼の立場は相当悪いのだろうか。でもこの間の立ち回りを見ていた限り、彼がハンターとして未熟だとは思えない。

 となるとキョウさん個人の問題かな。うーん、どうでもいいや。だってそれは彼の顔面の良さとは関係ないもの。


 だから私は早々に思考を打ち切って、キョウさんへ向けて満面の笑みを浮かべた。


「というわけでよろしく、キョウさん!」

「チッ……」


 あらやだ舌打ち。しかも握手しようと差し出した手も無視されたものだから、私は肩を竦めるしかなかった。

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