『夫 死亡 生命保険 いくらもらえる』
私は幸せ者だ。30代後半を迎えるこの歳になって、自分より遥かに若い女性と結婚できるなんて。
妻は共働きにも関わらず、家事を率先してやってくれる。それでいて容姿もいい。文句の付けようがない。
私は過去に1度も女性と交際したことがなかった。甘酸っぱい青春も、私からしたら遠い世界の出来事だった。
このままでは一生独身だと思い、私は半ば自棄糞気味に結婚相談所に入会した。そこで紹介されたのが妻だった。
彼女ほどの女性であれば、私のことなど見向きもしないだろう。そう思っていたのだが、出会ってから結婚まで、あっと居う間だった。
人生の初のモテ期が来たのかは分からないが、妻は「素直なあなたが好き」と私を選んでくれた。彼女と結婚できたのは、私は奇跡だと思っている。
「あなたー、洗濯機動かなくなっちゃった」
「またか……」
あれよあれよと事が進んだせいで、色々なものが追い付いていない。家電もその1つだ。
独身時代に使っていた洗濯機を、そのまま新居に持ってきたのが良くなかった。買った当初は中々の値段はしたが、今ではオンボロだ。
新しい物に買い換えなくてはいけない。だが、量販店で店員に言われるがままの値段で、買ってしまっては大損する可能性がある。
次に買う物は丈夫なものがいい。変に安い物を買って、また壊れてしまったら面倒だ。
家計管理のため、通販サイトのアカウントを共用で使っているノートPCを立ち上げる。そして検索エンジンで検索をかけようと文字を入力したところ――。
『丈b 洗濯機』
打ち間違えてしまう。bのところを消して、再度入力するも中々変換できない。
やむなくメモ帳に夫と入力して、検索ボックスに貼り付けることにした。
だがそれも誤って入力した文字を全て選択してしまい、“夫”という文字だけが検索ボックスに入力されてしまった。
『夫 死亡 生命保険 いくらもらえる』
検索履歴に妙な文言が表示された。
私はこんなワードで検索した覚えはない。このノートPCは妻も使っている。恐らく妻が検索したものだろう。
ははは、彼女も心配性だな。いくら歳が離れているからと言って、私が死ぬのは何十年も先だと言うのに。
「…………うっ!!」
急に喉の奥から、酸っぱいものが込み上げてきた。今日は酒を飲んでない。何か変なものでも食べただろうか。
あれ? そう言えば、さっき食べた妻が作ってくれた夕飯はいつもより苦かったような……。
妻への疑念が生まれるのとほぼ同時に、私の意識は遠退いていく。
彼女がこんな冴えない私と結婚してくれた理由、それはもしかして――。
「いい夢見れたでしょ。あんたみたいな男が、結婚できると本気で思ってた? アハハハ!」
ああ……そういうことか……。
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