付き添ってくれた白衣の子は、ほんのり甘かった。
白衣というワードを見て、真っ先に想像するものは何であろうか。大方、研究職か医療職に就いている人たちを思い浮かべるのではないだろうか。
白衣には、きちんとした意義がある。何も、オシャレさを出すための白ではない。清潔感を出すことで患者を安心させ、また異物が衣類に付着した時に気付きやすくするための色なのだ。
「……うう……」
広樹は、目を覚ました。同時に、頭痛も訪れた。
何があったのかは、よく覚えている。体育祭中、体調不良なのにもかかわらず炎天下に出ていき、見事に意識が吹っ飛んだ。
「……」
体を起き上がらせようとしても、力が上手く入らない。
「……起きた?」
遠くの方から、おそらく広樹に問いかけているのであろう声が飛んできた。
……この声の持ち主は、瑠美だな。
「……俺は、倒れてここに……?」
「そうだよ! 担架で運ばれてきたときは、びっくりしたんだから!」
全身に白衣を纏った、広樹よりも一回り体格の小さい彼女は、付き添うようにすぐそばの椅子に座った。
「……水分補給もしないで、日なたに出て行ったらだめだよ? 聞いてる、広樹?」
名前呼びをしているからには、最低限の付き合いはある。学期初めのレクリエーションで割り振られたペアが瑠美であり、一日だけの仲に留まらず、しょっちゅうおしゃべりが飛び交う縁にまで成長したのだ。
瑠美は、記憶が正しければ救護係。白衣を着なければならないというルールは無かったはずだが、好んで着用する分には一向に構わなかったようだ。
「……病院にいるナースさんみたいだな」
「そう? こんな姿で広樹の看病をしてみた……。やっぱ何でもない」
広樹の手当をするためだけに、白衣に着替えてきたのだろうか。
「とーにーかーく! しばらくの間は安静にしておくこと!」
「分かったよ」
手足は氷で冷やされているが、体の熱気は抜けきっていない。完全に覚醒しているわけでもなく、また灼熱の太陽に照らされると今度こそ危なそうだ。おとなしく、瑠美に従っておく。
瑠美がテントの外へ頭を出し、すぐに戻って来た。
「近くに人はいなかったから、二人だけの時間になったよ?」
……つまり……?
『つまり』から先の言葉が出てこない。
広樹は、前々から瑠美に対して落ち着かない感情を持っていた。知られて幻滅されたくないと、その事実を隠してきたわけだが、それがどうなるか。
「……期待しちゃった? ざんねーん、何もなーいよー」
「冷やかしかよ」
……そりゃ、そうだよな。都合がよすぎる。『瑠美も、自分の事が好きなのではないか』なんて……。
「……寝て無きゃダメだよ、広樹。寝付けないなら、私がいてあげるから」
何を思ったか、瑠美が靴を脱ぎ、空いていた広樹の左側のスペースに体を持たれこんだ。勢いで発生した風に白衣が持ち上げられ、ファサっと広樹の顔を覆う。
柔軟剤だろうか、ローズの香りがする。それに付け加えるかのように、ほんのり甘い桃の匂いも漂ってきた。
「……んん……」
瑠美は、もう熟睡してしまっていた。看護すべき患者を差し置いて寝るとは事件だが、それほど疲れが溜まっていたのだろう。
……これじゃ、寝られない……。
ふんわりした瑠美のにおいに包まれて、脳の活動が活発化していく広樹なのであった。
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