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プロローグ
ちゃぷちゃぷ。
ちゃぷちゃぷ。
涼やかな水の音がする。
新緑の季節に渡る風が、そよそよと水面を揺らしている。
青々とした木々が茂る森の中に、ぽっかりとそこだけ切り取られたような、大きな湖があった。
陽の光が水面に反射してキラキラと輝いている。
あまりに美しく、あまりに長閑だ。
ちゃぷちゃぷ。
ぷかり。
その絵画のような景色の中に、ひとつ。
おかしなものが浮いている。
ちゃぷちゃぷ。
ちゃぷちゃぷ。
ぷかり。
ぷかり。
金に少し灰を混ぜたような髪が、水面に広がっている。
青白い頬。
色を失った唇。
長いまつ毛が縁取る瞳は、そっと閉じられたまま、動かない。
まるで、あの有名な戯曲の一場面のようだ。
この長閑な世界の中で明らかに異質なもののはずなのに、
何故か風景に溶け込んで、まるでそこにあるのが当然のようにすら感じる。
ちゃぷちゃぷ。
ちゃぷちゃぷ。
ぷかり。
ぷかり。
彼女は何故、この風景に取り残されてしまったのだろう。
誰が、マリー・ロビンを殺したのだろうか。