第5話 ヴァルシュの想い
ヴァルシュは先日出席したパーティで久しぶりに幼馴染のシャーロットと再会した。シャーロットとの関係を知っている竜王ガルガンドルムから、会って来たらどうだと言われたので足を運んだのだ。
そこまで喜怒哀楽が表にでないヴァルシュとしてもよっぽど嬉しかったのか、その日は終始ご機嫌であった。同じ騎士仲間から不審者を見るような目で見られていたのだが、そんなことは知る由もない。
会場に着くとガルガンドルムから離れてシャーロットの姿を探す。
その姿を見つけるのに左程時間は掛からなかった。
ちっとも変わっていない。
この分では中身もさぞ変わっていないのだろう。
およそ1年ぶりだと言うのにここまで変化がないと思わず笑ってしまう。
エメラルドグリーンの髪も瞳も、同じく容姿でさえも。
着ているドレスだって貴族令嬢が好んで着るような華美な物ではない。
「よう。シャル。お前も来てたんだな」
本当は来ると分かっていたから来たのだが、口には出さない。
ヴァルシュは付き合いの同い年で付き合いの長いシャーロットに淡い想いを抱いていたが、それを気取られないようにいつも憎まれ口を叩いていた。
「んあ!? え? は? ヴァル? どどどどうしてここに?」
「ああ、うちはまだ余裕があるからな。ガルガンドルム様のお供だよ」
何故か取り乱すシャーロットにヴァルシュは怪訝な表情を作りながらもやれやれと言った感じで適当な理由をでっちあげる。
「(言い訳なんてみっともねぇな。素直になるべきなんだろうが……)」
「そ、それにしても久しぶりだねー。元気だった?」
「ああ、ガルガンドルム様直々に稽古つけられてたよ……」
「あーね……。ご愁傷様……」
「まぁ人間たちと戦うことになるだろうし損はないだろ」
「そっかー。そだね。ところでここにエリーゼも来てるよ?」
またまた意味が分からなかった。
少し慌てているようにも見えたことも、ここでエリーゼの名前を出すことも。
ひょっとして好意に気付いて遠まわしに拒絶しているのかも知れないと思うと胸が締め付けられるように痛んだ。
しかし話せば話すほど心が温かくなるのが良く分かる。
本当にヴァルシュが知る昔のシャーロットだ。
変な言葉使いだって昔のままだ。
変わらないことがこんなにも嬉しいとは思わなかった。
そんな浮かれ気味のヴァルシュの耳に思ってもみなかった言葉が届く。
それを聞いて奈落の底に突き落とされるような感覚に陥った。
彼はこの妖精王のお披露目パーティが婚約発表の場でもあったのだと知り、思わず悪態を着く。
「チッ……ガルガンドルム様も人が悪いぜ。婚約のパーティだなんて聞いてねぇよ」
本当は最後に悔いの残らないようにと言うガルガンドルムの配慮だったのだが、若い彼はそれに気付かない。竜族と妖精族が如何に親しい間柄だとは言っても竜王たるガルガンドルムが妖精王の即位やその婚約者に口を出す訳にもいかない。好きな女なら自分で何とかして見せろと言うのが偉大なる竜王の考えであった。
妖精王のリンレイスがシャーロットを呼び出している。
慌てて壇上に上がった彼女の隣は、どこか胡散臭い雰囲気の纏う男がいた。
「あの男が次期妖精王か……」
どす黒い感情が一瞬、ヴァルシュの心身を支配する。
彼はそれをブンブンと頭を振って打ち消した。
感情に任せて行動を起こせば、種族間の問題になることは間違いない。
それにシャーロットが悲しむ顔は見たくない。
彼女がこの婚約に納得しているのだと思いたくもないが、リンレイスが絡んでいることからもこの話は既に結論が出ている可能性が高い。
ならば――
取るべき選択肢は決まってくる。
だが怖いのだ。
生死を賭けて、命を賭けて戦うことに恐怖などない。
ヴァルシュが恐れるのはただ1点。
シャーロットに嫌われて近くにいれなくなることだけであった。