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魔王様の恋人  作者: 波 七海
第1章 混乱の魔帝國
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第1話 妖精王の資格

 ここは鬱蒼とした大森林が広がるミッドヘイム。

 緑溢れるこの妖精の国に、今まさに危機が迫っていた。

 人族連合軍による魔族領侵攻である。

 世界の北にある魔大陸と呼ばれる大地に魔族を名乗る者たちが国家を作っていた。ミッドヘイムが戦禍に撒き込まれていないのは、妖精族の領地が魔大陸の北側に位置しているため、人間の攻勢の手が及んでいないだけであった。


 現、妖精王のリンレイスは在位137年を超える名君として妖精族の頂点に君臨していた。人間や精霊族たちと親密な関係を築いていた時期もあり、徹底抗戦派の多い魔族の中では少ない融和派の1人であった。


 シャーロットはミッドヘイムに迫る危機は知っていたが、個人で何とかできる問題ではないので普段と変わらない生活を送っていた。

 森を愛し、自然と戯れ、友と交流し、巨木の家の中で魔法や神話の研究をしながら、ハーブティーを楽しむ日々である。


 たまにリンレイスに呼ばれて王城に赴くこともある。

 そこでシャーロットはとある噂を耳にした。

 リンレイスが妖精王を譲位すると言う話だ。


 妖精王は世襲制ではない。その地位は魔力と血統、家柄で決まると言っても過言ではない。とは言え、大抵の妖精族は大きな魔力をその身に宿しているので、特に重んじられるのは血統である。かつての神の末裔が連綿と受け継いできた純血は、強力な血統魔法を行使することを可能にし、その奇跡は神の再臨とまで言われるほどだ。


「あら、シャーロットじゃない。来たのね」


 王城の執務室へと足を踏み入れたシャーロットをリンレイスが出迎える。

 城は有史以来、同じ場所に立ち続けている超弩級の巨木――神星樹ヴァンドスラシルがその役割を担っている。


「そりゃ呼び出されれば来ますよーだ」

「久しぶりね。最近は何をしていたのかしら?」

「いつも通りですよ、リンレイス様。魔法と神話、歴史なんかの本ばかり読んでますが?」

「あらあら。籠りっきりは体によくないわよ?」

「流石に自然には触れてますって、風と共に舞い、火と共に怒り、水と共に心を落ち着け、土と共に大地の施しを得てますねー」

「偉いわね。妖精族の本分と言っても良いわ」


 軽口はここらで良いだろう。

 早速本題に入らせてもらおうとシャーロットは口を開いた。


「それで本日は何のご用ですかー?」

「まぁ……ね」


 リンレイスの様子を見てシャーロットは察する。

 ここからは妖精王としての話だ。


「妖精王陛下、戦争の話でしょーか?」

「ええ、よく分かりましたね」

「分からないわきゃありません!」


 シャーロットが思わずツッコミを入れるが、リンレイスは動じる気配も見せず淡々と話し続ける。


「状況は厳しいわ。既に何か国かは人族連合軍の手に落ちてしまいました……」

「そこまで強いのですか? 人間たちの列強同盟や人族連合軍と言うのは」

「手が付けられないそうよ。特に勇者が現れてからは、魔帝國軍は敗退に敗退を重ねています。今や不死族の都イヴィルにまで到達しようと言う勢いよ」

「魔王様は大丈夫なのでしょーか?」

「イルビゾン陛下は歴代最強レベルの強さだから大丈夫だとは思うのだけれど」

「不死族の王と言うほどですから、やはり不死なのですか?」


 不死なら死なない(無敵)じゃんと思いながらもシャーロットは思い直す。

 そんな都合の良い話はない、と。


「寡黙な方ですし、自らの力を話すこともないですからね」

「それはそうですね」

「シャル、貴女に話しておくことがあります。貴女はわたくしの姪であり一応王族でもあります。妖精王は世襲制ではありませんが、血統と家柄には文句のつけようがありません」

「あらら。あたしの性格に難があるとでも?」


 取り敢えず軽口を叩いて和ませようと試みるシャーロット。


「ふふ……そうではありません。わたくしの政治基盤は随分と脆くなってしまいました。このままでは強硬派を抑えられません。」

「って言うと?」

「わたくしが王を辞すると言うことです。そして、我が娘リーンノアや貴女にも影響が出る可能性があるのです」

「陛下がご譲位を? またまたご冗談きついんだが? 治世100年以上にもなる名君ですよ?」

「あら。随分評価してくれているのね?」

「そりゃそーですよ」


 少なくともぐだぐだ、物ぐさ、いい加減のシャーロットには真似の仕様がない。

 彼女には自身が妖精王になった時の想像すら出来ない。


「とにかく、わたくしのせいで貴女に何かを負わせることになるかも知れないのです。王としても叔母としても情けない話ですけれど……ごめんなさい」

「謝られても困りますよー?」


 おどけた口調で言うシャーロットに、リンレイスは少し自嘲気味に微笑んだ。

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