第1話 俺の妹は現役アイドル
俺の妹、七海零奈は、アイドルと言うやつをやっている。これは芸名だが、本名を少しいじった程度だ。
妹は、アイドルの時はなんでも出来てクールなイメージで通っているが、家では真逆だ。兄である俺にめちゃくちゃ甘えてくるし、家事スキル万能というイメージで通っているが、実際は全然できない、だから俺が家事をやっている。
さっきも言った通り玲華は家事が全くできない。それで仕方なく一緒に住んでいる。
「玲華、朝だよ起きてー」
「んん……あと五分……」
玲華と言うのが、妹の本名だ。
五分後……
「五分経ったよ、起きてー」
「ふぁ〜、おはよ……」
あと五分でちゃんと起きれるのは普通に凄いと思う。それ以外のことが欠点だらけだが。
基本は玲華も学校に通っている。俺と同じ学校だ。ただ、アイドルの仕事で休んだりする事が多々ある。そこで、話のわかる親戚が勤務している学校を選んだ。そして、俺と玲華に血の繋がりは無い。と言うのも、お互いの親が再婚して兄妹になったからだ。
朝食を作り、リビングのテーブルに並べる。
「いや〜、優くんがいないと私はもうダメだよ〜」
優と言うのは俺のことである。奈良優。おそらく、俺の学年で俺の名前を知らない人はいない。家事もできる上に試験では毎回上位五位には食い込むほどの学力を持っている。我ながら、ここまで完璧な男子高校生がいるだろうか。とよく思う。一方玲華は、勉強は出来ないがアイドルでダンスをやっていることもあり、体育は得意だ。
「玲華、そろそろ学校行く時間だぞ」
「え!?もうそんな時間!?早く準備しないと!」
とまあ、こんな風におっちょこちょいと言うか、慌ただしい様な性格をしている。もう少し、ゆとりを持って生活して欲しいものだ。
「今日って、何の授業があったっけ?」
「今日は、体育あったな確か」
「お!やった!」
「まあ、座学らしいけど」
「そうなんだ……」
「あと、家庭科では調理実習らしいな」
「ええ……、今日行くのやめようかな……」
「ちゃんと行け」
更に言うと、俺と玲華は同じクラスで隣の席だ。
学校に到着した。
「おはよ、二人とも」
「おはようございます、愛美さん」
「おはよう、お姉ちゃん」
今声をかけてきたのは、西村愛美。ここの学校の教師であり、俺達の親戚の人だ。俺は丁寧に会話をしているが、玲華は本当の姉の様に接している。
「玲華って、今日ライブだっけ?」
「うん。だから、今日はお昼頃には早退かな」
「おっけー。じゃあ、頑張ってね」
「うん」
「優もね」
「はい」
教室に着くと――
「よお、優。おはよう」
「ああ、おはよう。大幹」
今話しかけてきたのは、東雲大幹。こいつの妹も俺の妹と同じグループでアイドルをやっている。
「今日はライブだな」
「そうだな。大幹も来るのか?」
「ああ、一応な」
「てか、優も大変だよな。マネージャーなんて」
そう。俺は玲華が所属しているグループのマネージャーなのだ。
「まあな」
と、たまたま玲華と同じアイドルグループに所属している人の兄が同じクラスにいた訳だ。本当にたまたま一緒なだけで、この学校は芸能学校とかでも無く普通の学校だ。
昼休みになり、俺と玲華は今日はここで早退。会場に行き、打ち合わせや本番前リハーサルなどを行う。
会場に到着すると、他のメンバーも既に集まっていた。他のメンバーも同じ高校に通っている。が、ライブの日は丸一日休みにしたりなどメンバーによってライブの日の予定は違う。
「今日も頑張ろうね、零奈」
「ええ」
ここから、玲華のクールモードが始まる。まあ、学校から始まってはいるが学校では、あまり友達がいないから基本素のままでいる。と言うのも、玲華は学校では愛美さんか、玲華の素を知ってる友人としか話さないから、変にクールぶる必要も無い。そして、グループ内ではクールな玲華でいる。グループのメンバーくらいには素を見せてもいいもんじゃないかと思う。
打ち合わせと、リハーサルを終えもう間もなく本番だ。
今日のライブは、ワンマンではなく、何組かの合同ライブだ。
「いいか、ここに来てる客はお前らのファンじゃない奴もいる。知らない奴もいるだろう。今日のゴールは、お前らに興味が無い奴をお前らの虜にすることだ。俺から言えるのはこれだけだ。頑張ろうぜ!」
メンバーは皆頷く。
「よし、行くぞ!」
「「おー!!」」
俺達は、トップバッターだ。興味が無いグループでもトップバッターなら皆聞いてくれるはずだ。そこに漬け込む。あいつらは下手な訳でも無い。それにこのグループの歌はカバー曲がメインだ。オリジナルの曲よりは客の心を掴みやすいだろう。
その後、無事に歌い終わり――
「お疲れ様」
「おつかれ〜、どうだった」
「良かったぞ」
そうだ。ここで、メンバーを紹介しておこう。
まずリーダーが俺の妹「七海零奈」。副リーダーが大幹の妹「出雲葉月」。裏で、グループを支えてくれている「結城華」。ダンスが得意で、いつも振り付けを教えてくれている「佐伯凛」。ちなみにこれは皆芸名だ。この四名で「Best Partners」。まだ、結成してから一年にも満たない新米アイドルグループだ。彼女達の目標は、ドラマやアニメの主題歌を担当すること。俺は、そこまでの道のりを手助けする役割だ。
「今日はお疲れ。すごく良かったと思う。各自しっかりと休んで次のライブに向けて予習してきてくれ。じゃあ、解散」
「ねえ、優くん」
「ん?どうした?」
「帰りに、コンビニで肉まん買って行ってもいい?」
「一個だけだぞ」
「もー、厳しいなー」
「アイドルなんだから、食べ過ぎは禁物だろ」
「むー………」
「……わかったよ、じゃあ二個いいよ。今日だけな」
「やった!」
◇
「肉まん二つお願いしまーす」
「はい、肉まん二つになりまーす。ありがとうございましたー」
「で、結局持つのも買うのも俺なのな」
「え?ダメ?」
「別にダメって訳では無いけどさ、自分で食べるんだし自分で払って持ったらどうだ?」
「でも荷物持ちは、男の子の役割じゃない?」
「なんでそんな、頑ななんだよ」
「まあいいじゃん。ほら、帰ろ」
「………」
◇
「ただいま」
と言っても、何も返ってこない。
「明日休みだからって、夜更かししないで早く寝ろよ」
「分かってるって〜」
本当に分かっているのだろうか。
「じゃあ、俺は先に寝るからな」
「おやすみ〜」
「おやすみ、ちゃんと寝ろよ」
俺はライブがあった日は寝る前に所謂エゴサと言うものをしている。
『Best Partnersって言うグループめっちゃ良かったな。またライブ行きたい』
と言う投稿を見つけた。これが今の目標だ。ファンじゃない人をファンにする。今のBest Partnersにとって、一人のファンでも存在はかなり大きい。
今日は寝るか。
読んでいただきありがとうございます。
ゆるーく連載していきますので、
よろしくお願い致しますm(_ _)m