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第1話 格差婚約+強制執行?

「決めたわ。シルヴィオ。あなた、私と婚約なさい」


 私の発言に、あきれて心底いやそうな顔でこちらを見返すのは、黒髪碧眼で凛々しい顔立ちが素敵なシルヴィオ、12歳。

 私の大好きな初恋の王子様だ。

 ええ、この場合、王子様は比喩です。

 むしろ彼が王子様だったら私の恋はとても簡単だったのに。


「お前……また一体、何を思いついたわけ?」

 彼は、サロンの長椅子のひじ掛けに足をのせて、お行儀悪く寝そべったまま、顔だけをこちらに向けている。

 私は、よくぞ聞いてくれたとばかりに、シルヴィオの転がっている長椅子に座り、彼の顔を上からのぞき込む。彼の青い目に、私の肩からこぼれる赤毛と緑の目が映った。そこに映る私の顔は、以前とは違いすっきり整っている。それなりに可愛い。

「昨日聞いたのよ。私、どうも第三王子殿下の婚約者候補筆頭らしいわ!」

「……ふーん。それで? いいんじゃね-の? お前、公爵令嬢だし」

 いやよ。あんな人。私の大事なものを平気で捨てるような人よ! というより、誰でも嫌なの!! 私が好きなのはあなたなんだから!

 ――なんて言えるはずもなく。


「わ、私に王族なんて務まるわけないでしょ!!」

「……まあ、そうだな」

 ――色々思うところがあるけど、まあいいわ。

「だから……あなたに婚約を頼んでるの! 分かってると思うけど、これは、巷で流行っている婚約破棄前提の格差婚約と言うやつよ!」

「んなの、言われなくても分かってるよ」

 可愛くない言い方をしたのは自分なのに、少し位誤解してくれてもいいのに、なんてちょっと思ってしまうあたり、私も救いようがない。


「ってことは、第三王子の婚約が決まるまででいいんだな」

「まあ、そうなるわね」

 彼は、いつも私の我儘に嫌な顔をしながらも応えてくれる。

 でも、悪いわね、シルヴィオ。残念ながら、この婚約は、結婚するまで。一生よ! 

「はいはい、お嬢様。どうせ断る権利なんかないんだろう? お付き合いしますよ」

「光栄に思いなさい!」


 こうして、公爵令嬢である、私、フランチェスカ=ジーナ=アゴスティネッリと子爵令息であるシルヴィオ=ロメロ=クレッシェンツィの格差婚約は為されることになったのである。


 そして、12歳の私は、この格差婚約の裏で、とある決意を固めていた。

 この婚約期間中に、既成事実を作り、婚姻を強制執行させ、彼を絶対にものにしてやるのだ。



  ◇◇◇◇◇◇



 最近、婚約破棄が流行っている。

 爵位の高い貴族家の令嬢令息達の流行りらしい。


 ここ、ティント王国では、夜会などの王室行事において、パートナー同伴が推奨されることが多い。

 パートナーなしで参加できなくもないのだが、周りからちょっと白い目で見られる風潮があるのだ。


 そしてこの国では、戦後の人口増加・結婚促進戦略のために作られた「3回同伴したら婚約申し込みしなければならない」という慣例が今なお残っている。

 貴族の間では夜会に参加できる17になると男女ともに婚約せざるを得ない状況に陥るのである。


 そこで、平和になりつつあるこの時代、逃げ道として格差婚約+婚約破棄が流行りだした。

 まだまだ遊びたい、決めたくないという爵位の高い方々が、形式だけの為に後で婚約破棄しても問題の出ない爵位の低い家から婚約者をたてるのだ。


 ということで、その悪循環のしわ寄せは、周りまわって爵位の低い貴族令嬢令息たちへと来ている。

 特に、外見もそこそこよくって、おとなしくって文句も言わなくって、家の力もなくって、ちょっとの慰謝料ですむと思われるような家の子が被害にあいやすい。

 そこそこ慰謝料がもらえるのでWin-Winな気もするから被害といっていいのか微妙なのだけれど。


 でも、破棄された令嬢令息になんのダメージもないわけではない。

 破棄された側(特に令嬢)は、その後どうなるかは、推して知るべし。ちょっとした社会問題になっていたのだ。


 しかし、最近裁判で、ある画期的な判例が出されたのだ。

 二例。


・婚約期間に()()()()()()()()()()は、片方の申し出により()()()()()()()される。

・婚約期間があまりに長く婚姻適齢期を過ぎた場合は、片方の申し出により婚姻が強制執行される。


 ()()()()()()()


 なんて素敵な響き。


 というわけで。


 私は、この流行りを利用して、大好きなシルヴィオを手に入れるために、彼と格差婚約をすることに決めたのだった!

5月中旬ごろまでに完結予定です。

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いらっしゃいませ さようなら 旦那様

結婚がテーマのロマンスファンタジーです。

遺産相続の条件は、一年間の結婚生活。
けれど彼には、愛し合う恋人がいた──。
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