音の相殺
シュレイノリアは、パワードスーツに乗り込み、体を動かす。
体を捻ると、いつもなら腹部に取り付けた複数の金属装甲が擦れる音や、腕や足を動かす時に関節部の擦れる音がするのだが、耳を済ませれば聞こえる程度にししか聞こえない。
完全に打ち消すまでにはいかないが、他のパワードスーツの音を聞いていたので、それと比べたら格段に金属の擦れる音やパワードスーツが発する音が聞こえてこない。
少し歩いても腰周りの装甲と太腿の装甲の擦れる音も、床を踏んだ時にでる音すらもかなり軽減されている。
通常であれば、動く度に金属の擦れる音が聞こえるのだが、静かな工房で、わずかに何か聞こえる程度になる。
完全に音を相殺とまではいかないが、金属の擦れる音がわずかに聞こえるかどうかと言ったところである。
工房内で誰も音を立ててない状態なら聞き取る事ができるが、大通りを歩く人の足音や話し声、馬車の音などが有るところでは、聞き取る事が出来ないほど小さい音になっている。
先程のカミュルイアンの時の音に比べたら遥かに小さな音になっている。
「にいちゃん、これなら、草原を流れる風の音より低いから、音で見つけられる事はかなり低くなる。 それに奇襲する時にも目視されなければ、かなり近くまで近づけるよ。」
レィオーンパードがジューネスティーンにいう。
「ああ、いいな。 これ。」
ジューネスティーンの様子を見てシュレイノリアは、もう良いだろうと思い、パワードスーツを止めて背中のジョイントを開くと、外に出ようとしてジューネスティーンの顔を見る。
その顔は、こっちに来てパワードスーツから出して欲しいと、目で訴える。
ジューネスティーンは、飾りボタンの効果について考えながら、シュレイノリアをパワードスーツから出す為の手助けに行く。
後ろに回って、脹脛の跳ね上がった第二装甲板の上に登ると、パワードスーツに腰まで入っているシュレイノリアの脇に手を入れて持ち上げようとするのだが、飾りボタンの事を考えていたので、脇の下から前に手を伸ばしてしまう。
すると、シュレイノリアは自分の胸を、ジューネスティーンの指が自分の胸の半分に掛かっている感覚に襲われる。
シュレイノリアは、自分の胸の半分にジューネスティーンの大きな手が掛かって顔を少し赤くする。
何なのかと思って、ジューネスティーンの顔を覗き込むと、飾りボタンの事を考えて、上の空でシュレイノリアを引き出しているので、何気に手が前に行ってしまったのだろう。
「おい、お前は、その手の感触が何なのか分かっているのか? さぞ、気持ち良い感覚なんだろうな。」
シュレイノリアに聞かれると、ジューネスティーンは、握っているシュレイノリアの胸を軽く揉む。
シュレイノリアは、恥ずかしそうにして、更に顔を赤くするが、そんな事に気にもせずにジューネスティーンは答える。
「そうだな。 柔らかいけど、対して大きくないから直ぐに筋肉や肋に当たる。 その感じがいい。」
それが自分の胸に対するジューネスティーンの評価なのかと思うと、少しイラつく。
「お前は、女子の胸は大きい方が良いのか? 」
そう言われて、また、手を揉む。
「うーん。 手に余るのは、一度触ってみたいとは思うけど、でも、手に余るのは、一度触ったら終わりだな。 大きいのは、そのうち胸焼けしそうだけど、手の中に入るこの位が丁度良い。」
微妙な評価に何とも表現し難い物がある。
自分の胸のサイズが好みの様な事を言ってたのだが、大きな胸も興味本位で触りたいと感じいているのか、シュレイノリアは、どうリアクションしたら良いのかと思っていると、ジューネスティーンがパワードスーツから引き上げる。
ジューネスティーンは、自分の手のひらに柔らかい感触を感じるが、女の子の体は柔らかいとは思った程度なのだ。
その感覚よりも、それ以上に飾りボタンの方が気になっていたのだ。
シュレイノリアをパワードスーツの腰に座らせる様にすると、シュレイノリアから手を離す。
「確かにそうだ。 その飾りボタンって、全員分作れるか。」
ジューネスティーンは飾りボタンを人数分用意できるか気になり、シュレイノリアを見る。
シュレイノリアは、両手で胸を隠すようにしながら体を丸めてジューネスティーンを見上げている。
その顔は、赤くなって、少し恨めしそうに見ている。
ジューネスティーンには、シュレイノリアが何でそんな顔をするのかと不思議に思いつつ首を傾げる。
「どうかしたのか? 」
自分のした事について、記憶に無いのか、シュレイノリアの態度が何でなのか理解できてない事がシュレイノリアには分かるのだ。
ジューネスティーンは、上っていた脹脛の第二装甲板から後ろに下りる。
シュレイノリアは、これがジューネスティーンなのだと感じるのだった。
自分の世界に入ってしまうと、それ以外の事について全く意識がいってない事を思い出して諦めてしまう。
シュレイノリアは、ジューネスティーンはこんな男なのだと思い出すと、諦めモードになってから顔付きを元に戻すと仕方がないと思いつつ、ジューネスティーンの問いに答える。
「問題無い。 生地さえ用意すれば直ぐに作れる。」
「生地は何でも良いのか。」
ジューネスティーンは、パワードスーツの後ろから、飾りボタンの事を考えつつ、シュレイノリアの背中を見ている。
シュレイノリアは、パワードスーツの開いた背中に手を当てて足を引き抜き、開いた腰の淵に足を乗せると、腰を上にあげる。
腰が曲がった状態になるので、腰の高さが、ちょうど、ジューネスティーンの顔の前になる。
短いスカートなので、腰を曲げた状態では、シュレイノリアのお尻が丸見えになっているのだが、その姿をジューネスティーンは、飾りボタンの事で頭がいっぱいの様で、その姿をジーッと見ているだけだった。
体全体を覆うスーツを着ているとはいえ、その生地は体にピッタリと吸い付くようになっているので、スカートの下は、スーツを着てるとはいえ、体の線が丸見えの状態である。
それを見ていたアンジュリーンは、1人だけ顔を赤くしていた。




