カミューの調整
シュレイノリアが、魔法紋の呪文を唱え終わったタイミングで、ジューネスティーンが尋ねる。
「カミューの足の装甲はどうなっている? 」
「カミューの足の装甲ならもう出来ている。」
そう言って、その装甲を指し示す。
「じゃあ、これだけ先につけるから、持っていく。」
「分かった。」
そう言って、カミュルイアンの装甲を手に取って、
「カミュー、足の装甲を取り付けてしまえば、直ぐに乗り込める。」
カミュルイアンに装甲を2枚渡す。
カインクムも手伝って左右のふくらはぎの装甲を取り付けると、その装甲を踏み台にしてスーツの中に入る。
両足を入れてから両腕の穴に腕を差し込むと体を逸らす様にして直立する。
スーツも一緒に直立になりながら背骨のジョイントが閉まると、シューっと空気の入る音がして内装が膨らみ体とスーツの隙間を埋める。
装甲はふくらはぎだけが下に下がりふくらはぎをガードするが、それ以外は内部パーツのみの外装骨格が剥き出しで、体と外装の隙間を埋める内部パーツも所々から見えており、頭もカミュルイアンの頭が見えている。
小兵の相撲取りが金属で固定されている様な出立になってしまった。
「その状態でスーツ着けると何か笑える。」
レィオーンパードが茶化す。
ジューネスティーンはそんなレィオーンパードを気にせず指示を出す。
「身体を少し動かしてみて、違和感とか感じないか。」
そう言われて、足踏みや腕で弓を引くシャドーを行ってみたり、居合抜きのシャドーをしてみたりしている。
カミュルイアンは実戦を想定した時のことを思いながら体を動かしてみる。
「まあ、脇と股は開き気味なの以外はそれ程問題は無いかな。 後は慣れて仕舞えばなんとかなると思う。 でも、肘の位置は少し調整した方が良いかも。 ちょっと肘の曲がる位置が腕の方にある様な感じ。」
そう言われて、ジューネスティーンがカミュルイアンの右側に行く。
「こっちの腕か? 」
そう尋ねると、カミュルイアンは、微妙な感じを伝える。
「両方共、微妙に短い様に思える。」
「なら、調整するからちょっと待ってろ。」
そう言うと、前回はジューネスティーンが調整をした事を思い出した。
(今回の調整は、カインクムに試してもらった方が良いかな。)
調整を行おうとしていた手を止めると、カインクムに尋ねる。
「腕の長さを調整しますが、試してみますか? 」
カインクムは何だろうという顔をしながら、ジューネスティーンの方に近寄って来るとジューネスティーンは説明を始める。
「前回は前衛の二人は、自分が行いましたけど、今回は調整を行ってみませんか? こいつは細かいところまで気がつくので長さの調整は結構うるさいと思いますけど試してみませんか。 方法を教えますので、ちょっとみていて下さい。」
そういうと、二の腕の外装骨格に付いているダイヤルを示す。
ダイヤルは二の腕の中央より少し肘側に付いており、ダイヤルの内側のギアが回ることで肘側の骨格のパーツのネジ山を動かして微調整出来るようにしている。
カインクムは、ジューネスティーンに言われるがまま、左の二の腕のダイヤルを回して5mm程長くした。
その調整が終わるのを確認すると、ジューネスティーンは、カミュルイアンに指示を出す。
「ちょっと動かしてみろ。」
カミュルイアンは腕を下に下げた状態から肘を閉じたり開いたりしながら腕を徐々に上げていくと、
「少し長すぎたかも、今の半分とちょっと戻してみて。」
そう言われて3mm程短くする。
今度は、ダイヤルを逆に回して短くする。
指示された長さになったので、声をかけるとカミュルイアンは、腕を動かしてみて納得した様に答えた。
「この位かな。」
そう言われると、今度は右腕に移動する。
カミュルイアンは、動かした時の感覚から、長さを指定してくる。
「こっちは、さっきより気持ち長めでお願いします。」
カミュルイアンの注文にジューネスティーンは、3mm程かと考え、カインクムに指示を出すと、カインクムは、左腕の時と同じ様にダイヤルを回して、長さを調整していく。
指示された長さになると、合図を送る。
カミュルイアンは、左腕と同じように動かして状態の確認を行うと、今度は両腕で弓を引く仕草や腰から剣を抜く仕草をすると、納得した様に答えた。
「大体こんなもんだと思う。」
2mm・3mmの調整を見ていたレィオーンパードが、うんざりしたような顔をすると、愚痴の様な呟きを言う。
「その位なら問題無いだろう。 神経質すぎるんじゃない。」
そう漏らすと、カミュルイアンが、ムッとした顔で答える。
「お前は雑だから、その寸法の違いが判らないんだろ。」
レィオーンパードも自分が雑だと言われて、面白くなかったのか口答えをしてきた。
「ふん、下手な考え休むに似たり。 だろ。」
「僕は何時でも完璧を目指すんだ。小さな事の積み重ねが成果に繋がるんだよ。 まっ、大雑把な奴には判らないだろうな。」
言い返すと、睨み合う二人に、ジューネスティーンが割って入る。
「そこ迄だ。 人の顔が人それぞれ違うように、考え方も人それぞれなんた。 相手の価値観を貶す奴に未来は無い。 相手の価値観を見て聞いて、理解出来ないのは自分が未熟だって事だ。 その微妙な感覚が有るから、見えない物も見えて来るようになる。 それを貶すような事は言うんじゃ無い。」
ジューネスティーンが、レィオーンパードに言うと、少ししょげたように返事をする。
「はーい。」
返事をするその声と姿を見て、レィオーンパードに、少し言い過ぎたかと思いフォローする。
「そのうちお前にも1mmと2mmの違いが分かるようになる。 お前には経験が少し足りないだけだ。 もう少し経験を積んだら、お前は、0.5mmとか、それよりも短い違いだって分かる様になるさ。」
エルフのカミュルイアンは、見た目は人属の16歳程度に見えるが、長命のエルフなので実際には44歳程になる。
亜人の見た目年齢と実年齢は、人属と変わらないので、見た目15歳なら15歳である。
見た目は同じ年齢に見える亜人とエルフだが、実年齢の違いが、経験の違いを生み、その経験は、中々埋まる物では無い。
その事をレィオーンパードに言ったのだが、どれだけの事が伝わったかと考えていると、レィオーンパードも少し考えたのか、ジューネスティーンの言葉に答える。
「そうだね。 俺も、もっと経験を積んで、カミュー以上になるよ。」
ジューネスティーンは、レィオーンパードに笑顔を向ける。
「お前は、みんなの中で一番成長するな。 その何でも吸収しようとする気持ちを忘れるなよ。」
そう言われて、顔を綻ばせる。メンバーの中で1番になれると思いうれしくなっている。
落ち着いたと思ったジューネスティーンは、カミュルイアンに向き直って、パワードスーツの状況を確認する。
「腕以外はどうだ? 」
尋ねると、ジューネスティーンとレィオーンパードが話を続けていた中、別の部分も確認していたので、カミュルイアンは直ぐに答える。
「後は、このままで、使いながら様子をみる。」
「そうするか。」
そう言うと、シュレイノリアが、ジューネスティーンに声をかけてきた。
「全部のパーツに魔法紋を描き終わった。」
ジューネスティーンに言ってくる。
「それじゃあ、装甲を取付けるか。」
ジューネスティーンは、カミュルイアンにパワードスーツから出るようにいうと、その指示に従ってパワードスーツから出る。




