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剣 〜交渉の方法〜


 ジューネスティーンは、申請した陶器用の粘土なのだが、結局、鍛治に必要無いということで許可が下りなかった。


 仕方なく、ジューネスティーンは、寮に戻る事にしたのだが、ギルドのロビーを通りがかった時、その姿がメイリルダの目に止まった。


「ジュネス!」


 メイリルダに呼びかけられると、ジューネスティーンは受付カウンターの方に歩いて行った。


 メイリルダは、ジューネスティーンの表情を覗き込むように様子を伺っていた。


 何かあったのかというより、何となく何があったのかメイリルダは予想できてようだ。


 それは、ギルド支部内では、シュレイノリアの評価は高いが、ジューネスティーンの評価は低いことから、2人が工房を使うにあたり、その評価の違いから、ジューネスティーンの要求は通りにくかった。


 その事をメイリルダも気が付いており、奥から戻ってきた表情から、どんな事になったのかは大凡分かっていた。


 カウンターの前にジューネスティーンが来ると、メイリルダは同情するような表情をジューネスティーンに向けた。


「ねえ、今日は、何かあったの?」


 メイリルダは、朝の冒険者への依頼手続きを終えて事務処理をおこなっていた手を止めていた。




 受付嬢達の忙しい時間は、ギルドが開く時間から小一時間が、冒険者達の依頼を出す手続きのために忙しい。


 冒険者への依頼は、開店と同時に競争で取られてしまう。


 それにあぶれた冒険者は、魔物のコアを狩りに行く事になる。


 そして、閉店前に冒険者は、今日の稼ぎを売りに来るので、その処理に追われるが、今は冒険者は居らず、受付嬢達は事務処理を行うようにするだけなので比較的時間は取りやすい。


 今の時間は事務処理を行う時間帯のため、メイリルダは比較的時間をとりやすかった。




 メイリルダとしたら、自分が担当している転移者が、何やらガッカリした様子で奥から出てきたこともあり声をかけた。


 そして、ジューネスティーンは、奥で担当者との話をメイリルダに話をした。


 聴き終わると、不思議そうな表情をした。


「ふーん、剣を作るのに粘土が必要なの、……」


 メイリルダも、粘土の必要性が気になったが、気になったことは、その事だけでは無かったようだ。


 メイリルダは、ジューネスティーンを見た。


「ねえ、粘土はどの位必要なの?」


 ジューネスティーンは、聞かれて少し考えていた。


 そして、何か、気になるような表情をすると、両手で水を掬うような形を作ると、その手を5センチほど離した状態でメイリルダに見せた。


「あら、大して多く無いわね。お皿一枚程度の粘土なのに断られたのか」


 メイリルダは、不思議そうな表情をした。


(その程度の粘土なら、中黄銅貨3枚から、高くても銅貨3枚程度よね。この金額の要求なのに何で許可されなかったのかしら)


 メイリルダは考えるように上を向いていたのだが、視線をジューネスティーンに向けると、ジューネスティーンは、しまったというような表情をしていた。


「ジュネス。あなた、粘土を頼んだ時、使う量を伝えたの?」


 その言葉を聞くと、ジューネスティーンは、ドキッとしたように両肩を軽く上げた。


 メイリルダは、その様子を見て、ちょっとガッカリしたような表情をした。


「ねえ、その程度の粘土なら、大した金額にならないでしょ。下手をしたら、子供のお小遣い程度の金額で買えるのよ。それなら、試しに使ってみる程度として許可が下りそうよ」


 ジューネスティーンは、メイリルダに言われて苦笑いをした。


 メイリルダに言われた話を聞いて、自分では気が付いていなかった事が表情と態度に出ていた。


 その様子を見ていたメイリルダは、まだ、交渉のやり方が子供で用意が足りてない事に気がついたようだ。


「あのね、ジュネス。申請をしたのでしょ。それは、人と交渉をする事なのだから予め準備が必要なの。今、私が、指摘したようなことは申請する前に用意しておくのよ」


 そう言われて、ジューネスティーンも納得したような表情をした。


「狩りでも戦いでもだけど、何か事を起こそうとしたら本番前にどれだけ用意ができるかで決まるのよ。やってみなければ分からないなんて、そんな事はないの。それを、人はそなえるというのよ」


 ジューネスティーンは、言われて、今度は悔しそうな表情をした。


 それは、指摘された事を、自身でも思い付いたが、メイリルダと話をして気がついた事に自身の考えの甘さを悔しいと思ったようだ。


「今のあなたには、そのそなえる事が足りてなかったのよ」


 メイリルダは、最後の言葉は不要だったかと思ったのか、少し後悔したような表情をした。


 だが、ジューネスティーンは、話に納得できたのか表情が変わった。


「そうでしたね。何でも本番前に勝負は決まる。だから、そのためにそなえるでしたね」


 そこには、子供の表情ではなく経験豊富な大人の表情のように見えるジューネスティーンが居た。


 メイリルダは、その表情を見て一瞬ゾクッとしたようだが、直ぐに笑顔になった。


「理解できたのなら、あなたのする事は、分かるわね」


 ジューネスティーンは、メイリルダを見た。


 そして、軽く礼をすると、また、奥の方に歩いて行き、さっき、出てきた奥の扉を開けて入っていった。


 メイリルダは、その様子を見て良かったと思い自分の仕事に戻った。




 メイリルダが、一つ仕事を終わらせる程度の短い時間で、奥の扉が開いてジューネスティーンが出てくると、直ぐにメイリルダの座る受付カウンターの方に視線を送った。


 その表情を見たメイリルダは、結果が良かったのだと直ぐに分かり、笑顔を向けると右手を上げてジューネスティーンの方に振った。


 メイリルダは、さっさと行けというような態度をとったので、ジューネスティーンは、その場でメイリルダに礼をしてギルドを後にした。


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