ウィルリーンの質問
ユーリカリアは、パワードスーツは、フルメタルアーマーの発展系なのかと思ったのか、それ以上の追求はしてこなかった。
ユーリカリアとすれば、今、ジュエルイアンの前で、根掘り葉掘り聞くより、時間が経てば目にすることもあると思ったのだろう。
ジュエルイアンが、ソワソワしているのをみて、今は、その話を深く聞く必要は無いと考えたのだ。
エルメアーナの剣を貰えると考えれば、今は、ジュエルイアンの顔を立てたようだ。
ウィルリーンは、魔法紋について自分の疑問を、シュレイノリアに聞きたいと思っていたので、この機会に聞いてしまおうと思ったのだろう。
恐る恐る、シュレイノリアに声をかけてきた。
「あのー。 魔法紋なのですが、全部の内容をモーラさせるのは術式が長くなってしまって魔法で描くにも大変じゃありませんか? この前のホバーボードにしてもかなり大掛かりな術式を組み込んでいたみたいですけど、それを全部組み込むとなると、魔法で魔法紋を描くにしても、かなり長い呪文詠唱が必要になると思うんですけど。」
ジュエルイアンは、ホバーボードと言われてゾッとするが、今、ここで話を止めてはまずいと思い聞くだけにした様だ。
そのジュエルイアンの表情が、変わった事に気付かずウィルリーンは続ける。
「ホバーボードの術式を、じっくりと見た訳ではありませんが、あの紋様を見る限り、魔法で描いたとしてもかなり長い呪文になってしまうと思いました。」
それを聞いて、当時の事を思い出すジューネスティーンなのだが、シュレイノリアはロットをかざす程度で魔法紋を描いていた事を思い出していた。
「お前、あの魔法紋って、そんなに面倒だったのか? 一瞬で描いていたと思うけど。」
それを聞いて、シュレイノリアはヤレヤレと思ったのだろう。
ため息をつくと、ジューネスティーンに答えた。
「魔法紋は描くより、設計の方が大変。 魔法を流れに沿って設計してプログラミングする。 描くのは一瞬だが、設計には時間を要した。」
魔法紋の設計とシュレイノリアが言ってきたので、ウィルリーンが食いついてきた。
「その魔法紋の設計についてなのですが、それ程時間のかかるものが、魔法紋を描くときは一瞬で終わるのでしょうか? 」
「ホバーボードに乗った時の事を覚えているか? 」
「ええ、最初は大変でしたけど、覚えてます。」
「あのホバーボードには、どんな魔法が付与されているか分かるか? 」
そう言われて、説明された時の事を思い出すと、シュレイノリアに答える。
「重力魔法と風魔法です。」
答えると、シュレイノリアの顔がそれだけかと、言っている様に思えたウィルリーンは、もっと細かく話をする。
「重力魔法でホバーボードを浮かせて、風魔法で移動します。」
それだけでは無いが、これ以上ウィルリーンに話をさせても時間が掛かると思ったのだろう。
シュレイノリアが後を続ける。
「そうだ。 移動するためには、駆動する力とそれを抑える力が必要になる。 馬車の車輪にブレーキが有るのと一緒だ。 攻撃するならそんな制御は不要だが、人の為に使う場合は、それが重要。」
「それは分かります。 しかし、その様な事まで、魔法紋に描こうとしたら情報量は莫大になり複雑な紋様になってしまいます。 そんな膨大な情報量を魔法紋に刻むなんてかなりの時間が掛かってしまうのではありませんか? 」
ウィルリーンが言った事を考えつつ、シュレイノリアは答える。
「何も無ければ、そうなってしまう。 しかし、基本的な内容については、予めその魔法を作っておく。 私は、それをヘッダーファイルと言っている。 それを魔法紋を設計する時に組み込む。」
ヘッダーファイルと言われて、驚くウィルリーンは、何かとんでもない事を聞いてしまったと思いつつ、かなり確信的な部分に触れたと思い聞き返す。
「ヘッダーファイル? それはどういうものなのでしょう。」
シュレイノリアは、ヘッダーファイルの概念を伝える必要がある事に気がつくと、少し考える素振りを見せるが、直ぐに考えが纏まったので、その内容を伝えるために、一つ質問をする。
「ああ、お前は、歩く時に、何を考えて歩く? 」
ジューネスティーンは、シュレイノリアの言い方を少し気にするが、ウィルリーンは気にせずに答える。
「歩く、・・・。 目的の場所に向かって歩きます。」
シュレイノリアは、少しガッカリした様な顔をした。
自分の意図した答えではないといったところなのだろう。
思い直した様な表情をすると、もう一つ踏み込んだ話をシュレイノリアは始める。
「歩く時は、右足・左足を交互に出しているが、それを意識しているか? 」
「そんな事、考えて・・・。」
ウィルリーンは、それを聞いて考え込む。
何か思い当たったようだ。
「人の無意識で行っている行為、それがヘッダーファイルの考え方? 」
ヘッダーファイルについての考え方がウィルリーンに伝わった様だ。
シュレイノリアは、そう思ったのだろう、ウィルリーンの言葉にニコリとした。
「成る程、そういう事か。」
ウィルリーンが納得しているのを見て、ユーリカリアが、何の事を言っているのか分からないので、話に入ってくる。
「おい、どう言う事なんだ。 私にも判る様に説明してくれないか。」
「ああ。」
ウィルリーンは、ユーリカリアの質問に気のない返事をする。




