表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

982/1356

ジュエルイアンの話

 

 席の振り分けが終わる。


 一部の思惑と、それに便乗した人達と、貧乏くじを引いたのか、それとも、それを逆手に取るのかは、これからの話し手の手腕によることになる。


 一方、ジュエルイアンは、先日の魔法紋の付与を魔法で行う、 “ドロウイング” の魔法の流出を抑えるために、ユーリカリアと接触を持つことに成功した。


 最初の一手が、完全な成功とは言えないが、大きな餌になった事に安堵しつつ、交渉材料としての価値は失ってないと確信しているのだった。




 全員が座ると、直ぐに食前酒が運ばれてくる。


 ジューネスティーン達は、誰も飲まないので、ジューネスティーン達には、フレッシュジュースが運ばれてきた。


 向こうのテーブルで、シェルリーンとヴィラレットが、運ばれてきた食前酒をジューネスティーン達の物と同じ物に交換してほしいと要求するので、持ち帰って交換する。


 運んできたルイセルをジュエルイアンは呼び止めて耳打ちをする。


 ジュエルイアンは、届いた飲み物を勧めると、自分も、先程まで飲んていたワインを飲む。


 ジュエルイアンは、ユーリカリアが、出された食前酒を、グラスの半分程を、一気に飲んだのを確認して、やはり、ドワーフ属だと思った様だ。


 それならば、店に頼んだ事が、成功だと思いユーリカリアに話をする。


「貴方には、何か別の酒をご用意します。」


 ユーリカリアは、慌てて、いつもの調子で飲んでしまった事を後悔する。


「あっ、お構いなく。」


 そう言うが、直ぐにルイセルが戻ってきて、トレーに、ボトルと、新たなグラスを持ってきて、ユーリカリアの横にグラスを置くと、持ってきたボトルをグラスに注ぐ。


 注ぎ終わると、ボトルを横に置いて、個室から退出した。


 ユーリカリアは、目の前に置かれたボトルに貼られたラベルを見て、帝国では、ほとんど流通していない高価な物だと分かる。


 Aクラスの冒険者であっても、そう毎日飲む事ができる様な物ではない。


 盃の様な小さなグラスで、ちびちびと舐める様に呑む様な高価なものを、グラスに注がれて、ボトルごと置かれたのだ。


 注がれると、その酒の、甘い様な辛い様な、何とも言えない芳しい匂いが、ユーリカリアの周りを漂う。


 ユーリカリアは少し驚いていると、ジュエルイアンは、少し意地悪に言う。


「あまり、お気に召さない様でしたら、別のものに交換させますか? 」


 ユーリカリアは、飲みたいと思っても、中々、手に入れられない酒なので、飲んでも良いのかと思っていたのだが、ジュエルイアンが、変えようかと聞いてくるので、慌ててそれを否定する。


「いえ、そんな事はありません。」


 言いつつも、視線は目の前のグラスから外してない。


「これ、私が飲んでも良いのですか? 」


 ユーリカリアは、恐る恐る聞く。


「ええ、貴方なら、こちらの方が良いかと思いまして、頼んでおきました。」


 そう言うと、どうぞ飲んで下さいと、手でジェスチャーすると、ユーリカリアは、喉を一度鳴らしてから右手をグラスに持っていく。


 恐る恐る、グラスを取ると、ゆっくりとグラスを口に持っていき、一口、口に含み口の中で広がる酒の香りと味を楽しむと喉に流し込む。


 流し込むと同時に、香りが鼻に上がって鼻腔の中で香りを楽しむと、至福の表情を浮かべる。


「こんな良い酒を、こんな贅沢な飲み方ができるなんて。」


 そこまで言うと、声を出したときに喉に残った匂いが逃げていく様な気がし、勿体ない、もっと楽しみたい欲求に駆られる。


 それを見て、ジュエルイアンが、上手く懐柔できたと思った様だ。


「お酒は、まだ有りますから、何度でも味わって下さい。」


 そう言って、酒を勧める。


「かたじけない。」


 そこまで、横で聞いていたウィルリーンが、このままでは、ジュエルイアンの思惑通りになってしまうと思った様だ。




 ウィルリーンは、ユーリカリアが、出てきた酒に、目が眩んでしまっているので口を挟んできた。


「ジュエルイアン様。 先程の魔法についてなのですが、それはどう言ったご用件だったのでしょうか? 」


 それを聞いて、ジュエルイアンも本来の目的の話に戻ることにする。


「ええ、実は、あなた方がカインクムの店で、魔法紋付与の魔法を見たと聞きまして、それでご相談したいのです。」


 ウィルリーンが、顔色を変える。


 ウィルリーンは、ジューネスティーン達に、カインクムの店で聞いた魔法紋付与の魔法について、そのノウハウを教えて貰いたいとも考えていた。


 自分から何かの切っ掛けを与えて、ジューネスティーン達から、その魔法を口に出させるつもりだったのだが、ジュエルイアンから直球で来たので、どうやって返答しようかと考えている。


「魔法紋は、スクロールを使って描くというのが一般的だが、ここに居るシュレイノリアが、魔法紋付与の魔法を開発してしまっていた。 それを私の方で買い取ろうと思っていたのです。」


 それを聞いて、ユーリカリアは、エルメアーナの剣を、自分にくれると言った理由が理解できた。


「その魔法紋付与の魔法を広めたく無いと言うことなのですね。 その口止め料としてその剣だったのですね。」


「そう言う事です。 いずれは魔法紋付与の魔法も、一般的な魔法になってしまうでしょうが、今はそうではありません。 スクロールによる魔法紋付与になりますし、今までの魔法紋付与には寿命が短いという欠点もあります。 今はこの魔法紋付与の魔法が商売になります。 あなた方が口外しないのであれば、この魔法の優位性は我々に有る。 ですから、その恩恵を、ここにいる皆で分かち合いたいのですよ。」


 それを聞いてユーリカリアとウィルリーンは、ジュエルイアンが商人なのだと実感する。


 ウィルリーンも、さっきの剣の話しが繋がった。


 口止め料としては、かなり高額な物を用意したなと思うが、これが商人の、信用を買う行為なのかと考えているのだろう。


「私は彼らの発明品を販売する権利を買いました。 この二人も、中々、交渉上手(?)なのでか、全てのものを私どもで掌握はできてません。 それに彼らには、自分たちの持つノウハウの価値が見えて無いのですよ。 なので今回の様に見落としが出てしまうのですよ。」


 それを聞いてウィルリーンも納得する。


 “ドロウイング” の様な、新たな魔法を開発してしまったシュレイノリアが、目の前にいる。


 その魔法を、何の惜しげもなくカインクムに教えてしまったのだ。


 それに、先日の狩の時にも、メンバー全員に魔法を使える様にさせ、なおかつ、自分にもフィルルカーシャにも、砲弾型のアイスランスも教えてくれた。


 そんな、砲弾型のアイスランスで、魔物を狙撃しようなんて、魔法士は聞いた事が無かったにも関わらず、シュレイノリアとジューネスティーンは、魔法のコツまで教えてくれたのだ。


 この様な高等魔法で、誰も知らない魔法だけでなく、魔法を使えない人にも覚えさせられる。


 その方法を覚えられるなら、どれだけの大金を積む魔導士が、いや、冒険者や一般人が、世の中にどれだけ居るか知れたものではない。


 新たな魔法は大きな財産なのだ。


 だが、ジューネスティーンもシュレイノリアも、その事について何も気にせずに無償で教えてしまうのだ。


 この2人の魔法知識だけでひと財産になるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ