魔法紋の話と席決め
ジュエルイアンは、少し考える様な顔をする。
一流の冒険者で、その剣の良し悪しが分かる人物なら、エルメアーナの剣は、喉から手が出る程欲しい物なはず、それは先程の剣を見る目を見れば一目瞭然なのだ。
初対面の相手から、貰って良い代物では無いと考えている事も分かっているのだ。
ちゃんと理由を話して受け取ってもらう事にする。
「それでは、私から商談が有ります。 あっ、皆様は、冒険者ですから、依頼と言った方が良いでしょうか? その報酬の一部として現物支給という形を取るのはいかがでしょうか? 」
ユーリカリアは、今の話について少し考えるそぶりを見せる。
ジュエルイアンは、その表情を見て話を続ける事にする。
「私は、魔法による魔法紋の作り方についてお話をしたいと思っています。 その話にはその剣以上の価値が有ると思っております。」
それを聞いて、ユーリカリア達は、直ぐに、カインクムの店で、 “ドロウイング” の魔法を思い出したのだ。
ウィルリーンも、 “ドロウイング” だと、ジュエルイアンの話を聞いて思い当たるので、腰を屈めてユーリカリアの耳元に口を近づけると、囁く様に言う。
「聞くだけ聞いてみてはどうだろうか? その内容次第で受けるかどうかを考えれば良い。 その剣の価値と依頼を天秤に掛ければ良い事だ。」
それを聞いて、ユーリカリアも踏ん切れて答える。
「わかりました。 ジュエルイアン。 お話をお聞きいたしましょう。」
それを聞いて、ジュエルイアンは、笑顔を作り魔法紋の話も、自分の思惑通りに進められると確信した様だ。
「ありがとうございます。 それでは、立ち話も何ですから、食事でも取りながらゆっくりお話ししませんか。」
ジュエルイアンの話を聞いて、ジューネスティーン達は、ジュエルイアンのテーブルから移ろうとると、それを見たジュエルイアンがジューネスティーンを制する。
「ジュネス、それと、シュレ。 お前達は、一緒に聞いてほしい。」
そう言って、2人が移動するのをジュエルイアンが止めると、ユーリカリアに席割りについて提案する。
「すまないが、お互いのパーティーの懇親を深めるためにも分かれて座らないか。」
「それもそうですね。」
そう言うとユーリカリアは、ジュエルイアンのテーブルに向かう。
カミュルイアンとレィオーンパードが隣のテーブルに移っていくと、カミュルイアンの横に行こうと、ウィルリーンとシェルリーンが、それに釣られて隣のテーブルに移動しようとする。
それを見たユーリカリアが、ウィルリーンを呼び止める。
「ウィルリーン。」
カミュルイアンと懇親を深めたいと思っていたウィルリーンは、さり気なくカミュルイアンの元に行こうとするので、ユーリカリアが呼び止めたのだ。
「今日の話の中心は、お前だろ。 お前が、こっちのテーブルに来なかったら意味が無い。 今日は、後輩に譲ってやれ。」
それを聞いて顔を引きつらせてから、仕方の無さそうな顔をすると、ユーリカリアに振り返る。
「やっぱり、私は、そっちのテーブルなの。」
解ってはいるのだが、聞いてしまう。
すると、ユーリカリアは若干顔を顰める。
「当たり前だ。 お前抜きで話は進まない。」
そう言われて、肩を下ろして、ため息を吐く。
「そうよね。 魔法の話ですものね。 そうよね。」
ウィルリーンは、自分に言い聞かせる様に言うと、笑顔でシェルリーンに近づき、一度床を見てから顔を上げる。
ウィルリーンは、気迫のこもった顔で、シェルリーンを見る。
「いい、今日は貴方に譲るわ。 だから、次は私に花を持たせるのよ。 解っているわね。」
それを聞いたシェルリーンは、ウィルリーンの気迫にのまれて、表情を硬らせるが、何とか頷く。
エルフ属の冒険者になって、村を出た女子にとって、男性エルフとの交流できる機会が、稀有な事もあり、その機会を1回でも逃したくは無い。
それを今回は逃してしまったのだ。
その分の見返りは自分にも欲しいと思うと、シェルリーンの前に出たら自分の気持ちが顔に出てしまった。
その顔を見たシェルリーンは、引きながら頷くことしかできなかった。
それを見て、ウィルリーンは気持ちを落ち着かせ、いつもの穏やかな顔に戻ると、シェルリーンに笑顔を向けてから、ユーリカリアの後を追うように隣のテーブルに向かう。
二つのテーブルの割り振りは、ジュエルイアンのテーブルには、ジューネスティーン・シュレイノリア・ユーリカリア・ウィルリーンとなった。
そして、もう一方のテーブルには、カミュルイアンとシェルリーンが確定した。
レィオーンパードがどうするのかと思ったら、カミュルイアンの方に向かう。
一方、ユーリカリアのメンバーである、フェイルカミラ、フィルルカーシャと、ヴィラレットは、どっちに行った方が良いのかと悩んで、両方のテーブルを見比べている。
それを見てアンジュリーンが、向こうのメンバーに対して先手を打つことにするとアリアリーシャに言う。
「姉さん。 たまには、あの男2人に人生経験を積ませるのも良いかもしれませんよ。」
そう言って、元のテーブルに戻る様に促す。
アンジュリーンは表情を変えずにいるが、目だけは何か悪巧みをする目をしているのを、アリアリーシャは見逃さない。
アンジュリーンの提案にアリアリーシャは、直ぐに思考を巡らせていたのだ。
シェルリーンは、カミュルイアンに言い寄るのが目的になる。
それを直近で見るのはアンジュリーンとしては面白くは無いのだ。
たとえ兄弟であったとしても、自分の身内に言い寄る女子の姿を間近で見る気にはならないのだろう。
また、ユーリカリアの残りのメンバーの女子3人は、エルフ属の男女2人の間に入る様な事はしてこないと思われるので、アンジュリーンとアリアリーシャが、ジュエルイアンのテーブルに行ってしまったら、残りの相手をするのはレィオーンパードとなる。
その時、向こうのメンバーは、同じ女子と話すより異性で有るレィオーンパードと話すことを望むだろう。
男女が同じテーブルに居るのだ。
異性を意識した話をするだろう。
その中で自分達メンバーの中の2人の男と一緒に自分が居たら、多分、浮いてしまう。
または、向こうのパーティーの1人が、女子同士で話すことになり、貧乏くじを引かせることになる。
それなら、ここは、自分は、あちらのテーブルに居ない方が良いとアリアリーシャは考えたのだ。
男女比が3対1ではあるが、向こうのメンバー達には公平に権利を与えることにもなる。
それにレィオーンパードが、女子3人を相手に、間を持たせる事が出来るのか疑問はあるが、それを見てみたいという、小悪魔的衝動に、アリアリーシャは駆られたのだ。
そう思ったら、ジュエルイアンのテーブルで仕事の話を聞きつつレィオーンパードを観察するのも面白いと思いアンジュリーンの誘いに乗る事にするのだった。
「そおですねぇ。 ここは、男子2人に花を持たせた方がぁ、良いですねぇ。」
そう言うと、アリアリーシャも、元のテーブルに戻る。




