エルメアーナの剣
ユーリカリアは、ジュエルイアンとの話をどう進めれば良いのか悩んでいた。
とりあえず、差し障りの無い話で会話を続けようと思ったのだろう。
「その、噂の剣、エルメアーナのお店は、貴方の商会の傘下に有るのですか? 」
エルメアーナの店は、自分の商会に所属した傘下の店にはなってない。
カインクムへの顔を立てるためと思って、エルメアーナの身柄を引き受けたため、自分のポケットマネーで店を持たせていた。
商会の仕事として考えてジュエルイアンに店を持たせた訳では無かったので、その辺をどう説明するかと考えた。
「カインクムの娘であるエルメアーナを、家から独立させただけなので、自分の商会の傘下というか、彼女は独立した鍛冶屋です。 傘下であれば、上納金を納めてもらいますが、そういった事は行なってません。 ただ、彼女は、鍛治は得意ですが、あの性格ですから、接客などは苦手ですので、そういった部分を私が手伝っております。 エルメアーナは鍛治技術に特化してもらって、それ以外の事は、人材も含めて私が秘書を通じて手配しております。」
ジュエルイアンは、丁寧に説明する。
特に、エルメアーナには、パワードスーツの開発に大きく貢献してもらっているのだが、丁度良いタイミングで、ジューネスティーンと出会わせたとこで、剣以外にも大きな貢献をしてもらえているのだが、ジュエルイアンは、その事は伏せている。
「知人の娘さんの独立を手助けしているだけですので、エルメアーナが苦手な分野は、その分野が得意な者を付ける様にして、エルメアーナの負担が掛からない様にしております。 私もエルメアーナから他の顧客と同様に購入する事になりますが、人手を貸している分、あそこで作る物に対して融通は効きます。 それに私は、彼女の生産工程を把握してますから、何時ごろなら新規の仕事を入れることが出来るのかも分かっております。」
店舗の手配や運転資金、人手の融通を行っているので、多少の無理はできる。
ただし、生産については、無理の無い範囲で行うので、他の顧客に迷惑の掛らない範囲でジュエルイアンは行う事ができるのだ。
ジュエルイアンは、ユーリカリアとの接触の為なら、ジュエルイアンから買い取った剣をプレゼントしても問題無いと考えているのだ。
「そうだったのですか。」
テーブルの準備が終わったアイセル達が、お辞儀をして、ユーリカリアの後ろを通って個室を退出する。
アイセル達はテーブルの支度が出来上がると、部屋を退出していく。
それと入れ替わる様に、リアミーシャが戻って来た。
その手には、自分の身長と同じ長さの細長い木箱を持っている。
「失礼いたします。 ジュエルイアン様。」
ジュエルイアンが顔を向けると、リアミーシャは話を続ける。
「お連れ様から、お預かりした物をお持ちいたしました。」
そう言うと、ユーリカリア達を避けて、ジュエルイアンの元に行く。
ユーリカリア達は、木箱を持ったリアミーシャを通すように道を開けた。
その間を、リアミーシャは申し訳なさそうに通ってジュエルイアンの元に行く。
手に持った細長い箱を、リアミーシャは、長身のジュエルイアンとは、50cm程の身長差がある。
リアミーシャは、手を高く上げようとする前に、ジュエルイアンはしゃがみ込んで、リアミーシャの身長に合わせて、その箱を受け取った。
リアミーシャはその箱を渡すとお辞儀をして個室を出ていく。
ジュエルイアンは、受け取った箱を開けて中身をユーリカリアに見せる。
「これも何かのご縁ですから、お近づきの印として、エルメアーナの作る剣をプレゼントします。」
突然の申し出に驚くユーリカリアと、メンバー達。
彼女達にしてみれば、カインクムは、銀貨10枚で売り出そうとしていた事を知っている。
その金額は、Aランクのパーティーであるユーリカリア達でも、そう安い金額ではない。
ましてや、エルメアーナの剣ともなれば、直接購入するなら、その金額だろうが、自分達が購入するまでの仲介手数料やら、関税やらを考えれば、銀貨10枚どころか、銀貨20枚以上でなければ手に入らない可能性もあるのだ。
それを、ジュエルイアンは、簡単にプレゼントしてくるというのだから、流石に驚いた様だ。
ユーリカリアは、箱の中に有る剣を見ている。
中に入っている剣は、カインクムの店で見たあの剣と同じ様に鞘の上から見ても曲剣と分かる。
剣の太さも同じ位である。
ジュエルイアンは、中の剣を手に取って、ユーリカリアの前に出す。
「ご確認してみませんか? 」
その言葉にユーリカリアは、ジュエルイアンから剣を受け取る。
「すみません。 中身を確認させてもらってもよろしいですか? 」
ジュエルイアンに確認を取る。
「どうぞ。」
そう言って、ジュエルイアンは、後ろに下がるが、後ろに居たメンバー達は、ユーリカリアに近付いて、その剣の出来栄えを確認しようとしている。
ジュエルイアンが、十分にさがった事を確認すると、ユーリカリアは、利腕の右手で鞘を持ち、左手で柄を持って鞘から剣を引き抜く。
中の剣はカインクムの試作品より少し刃幅が広めに出来ており、こちらの剣の方が少し重めに出来ている。
見た目は、カインクムの曲剣と殆ど同じ様に見え、刃も綺麗に研ぎ澄まされている。
丁寧に作られた名刀と言っても過言ではない出来である。
ユーリカリアは剣に見惚れていると、後ろから声が漏れていた。
その声も、剣の出来栄えに見惚れている様な声だった。
プレゼントと言われて何だか、申し訳ない話だと、ユーリカリアは思う。
貰う理由が無い様に思えるので、本来は断るべきだと思うのだが、ヴィラレットの剣の、試し斬りの斬れ味を思い出し、エルメアーナの噂もあり、出来れば自分の物にしたいと思ったようだ。
だが、ユーリカリアは、残念そうな顔をする。
「有難い申し出なのですが、何故、その様な事になるのでしょう。」
ジュエルイアンは、その言葉に脈ありとみた様だ。
初対面の相手から、軍でも簡単に手に入れられない物をプレゼントすると言われて、はい、そうですかと、受け取る様でも困ると思っていたが、そうでは無かった。
それなりに礼を弁えていると判断したのだ。
それならば、もらう理由を与えれば成立するとジュエルイアンは考えるのだ。
「実は、あなた方に、お願いも有ります。 そのお願いをするのに、手ぶらと言う訳にはいかないと思いまして、それでお持ちしました。」
ユーリカリアは、やはり商人だと思いつつ、鞘に剣をしまいつつ、そのお願いとこの剣が釣り合うのか確認してからの方が良いと判断するのだった。
「大変、良い剣です。 しかし、有難い申し出ではございますが、私達がこの剣を貰えるだけの価値があるのか、些か疑問があります。 納得のいく理由が有るなら受け取りますが、今のままでは受け取る事はできません。」
そう言って、剣をジュエルイアンに返す。
「私としては、お近づきの印として持ってきたのですが、お気に召しませんでしたか? 」
「気に入らないのではなく・・・。 そのー、この様な高価な物を、はいそうですかと、頂くわけにはいかないと思いまして、遠慮いたしました。」
ユーリカリアは正直に答える。




