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剣 〜試作の剣〜


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの作ってくれたシャツによって作業効率は上がった。


 筋力強化の付与魔法によって鍛治の効率が上がり、そして、風魔法によって熱さ対策にもなった。


 しかし、ジューネスティーンには、まだ、技術的な課題があった。


 叩いて伸ばす事は出来るようになり、軟鉄に硬鉄を被せてから伸ばすこともできるようになったが、そこで問題が生じた。


 綺麗に剣として伸ばす事がとても難しかったのだ。


 何となく剣のように伸ばすことは可能なのだが、かざしてみると厚みや幅が思ったようにならないのだ。


 何度も叩いて伸ばしてはいるが、刃渡り70cmとなったら、切先からハバキ下、そして、柄の中に入るなかごとなる部分まで、かざして見ると太かったり、厚かったりと思ったように作れない。


 ジューネスティーンとしたら、鍛治は見よう見まねで作っているので、基本的なことを教わったわけではない。


 時々、鍛冶屋に行った時に、遠目で見させてもらった鍛治の様子から、自分で試行錯誤して行なっているので完全な自己流なのだ。


 その事もあり、思ったような剣を作る事ができずにいた。


 そして、出来上がった剣を確認すると、完成した剣は真っ直ぐに伸びているが、所々が厚かったり薄かったりしていた。


「均一に作るって、結構、大変なんだな」


 ジューネスティーンは、翳しては厚みや幅を確認しながら均等になるように直剣を作りながら、次の工程についても考えていた。




 当初のシュレイノリアとのディスカッションで、焼き入れの度合いを変えることで剣は弧を描くのではないかと推察していた。


 それは、焼き入れをすることで鉄の結合が変化することで起こるのだが、原子や分子の状態の変化によって起こるだろうと予測していた。


 焼き入れは高温に熱した鉄を一気に冷やすことで硬度を増すが、逆にゆっくり冷やすと硬度は落ちる。


 その時の分子原子間の結合度を変化させることで、剣に反りを持たせようと考えていた。




 ジューネスティーンは、焼き入れの事を考えつつ、やっとの思いで1本の直剣を完成させた。


 刃を入れる側は、先端が鋭くなるようにし、峰側は、厚みを持たせていたので明らかに片刃の剣と分かる。


 しかし、完成したその直剣は、そのまま、壁の剣を置くために用意された台座に寝かせるように置いた。


 その台座は、剣の側面が見えるように作られていたので峰側を下になるように置かれた。


 そして、同じように剣を作るために用意した叩いた素鉄を、また、炉の中に入れて、吹子を使い素鉄を高温に温め直していた。


 ジューネスティーン達は、自分の考える剣の曲がりを見極めるために数本の同じ剣を用意しようと考えた。


 その数本を用意するだけの材料なのだが、一般的な曲剣の材料より、はるかに少ない量で賄えたことが幸いした。


 ジューネスティーンの考えていた剣は、一般的な曲剣を作るときの2割程度の量で作る事が可能だった事もあり、2種類の材料の手配が許可された事によって、一般的な曲剣の2本分の材料を入手できたのだ。


 一般的な曲剣2本分の材料でも、ジューネスティーンの考えているのは、日本刀なので、薄い事もあり約10本分の量を確保できていた。


 それによって、ジューネスティーン達は、入手できた材料でできる限りの数の直剣を作り、実験が必要になる焼き入れの方法を確認するための実験に使おうと考えていた。


 焼き入れについては、未知の領域となっており刃は硬く処理するために焼き入れを強く入れたい。


 そして、峰側は芯鉄同様に軟らかい方が衝撃に強くなると考えていたが、刃側と峰側の焼き入れの遅れを作ったことで、素材の曲がりがどっちになるのか資料も何も無い状況なので、カットアンドトライで確認しなければならない。


 そのため、ジューネスティーンは同様の剣を数本作る必要があった。


 最悪なのは、焼き入れの際、刃側を早く焼き入れを入れた事によって、刃側が縮む方向になってしまう事だった。


 ジューネスティーンは、峰側の方が焼き入れを入れた時に縮む方向になってくれる事を願いつつ金槌を振るっていた。




 ある日、ジューネスティーンが鍛治を終わらせて戻ってきた時に、汗をかいたので先に風呂に入って汗を流して出てくると、シュレイノリアが待っていたとばかりに声を掛けてきた。


「ジュネス。そろそろ、作った剣の数も増えて焼き入れの実験が出来そうじゃないか」


 シュレイノリアは、いつもの口調でジューネスティーンに声を掛けた。


 ジューネスティーンは、第二次成長期に入った時期だったので、シュレイノリアとの身長差が、転移時よりも広がっていたのだが、口調はいつものように上から目線で声を掛けていた。


 とても9歳の少女の口調には聞こえていなかったが、部屋には2人だけなので、それをどうこう言う人は居ない。


「ああ、10本作った。残った材料は、作った10本ほどの材料の量は無かったから、せいぜい半分の長さになってしまうと思う」


「そうか。それなら、その9本で焼き入れの実験を、最後の1本を使うようにするか?」


 シュレイノリアの質問に答えたジューネスティーンの話を聞いて、シュレイノリアは方向性を考えたようだが、ジューネスティーンは、少し悩むような表情をした。


「せっかく10本も作ったのだから、できれば全部使えるようにしたいな」


「ふーん、そうか」


 ジューネスティーンは、自分が作った剣を実験だけで終わらせてしまうのは惜しいと思ったようだ。


 それをシュレイノリアは聞くと、また、考えるような仕草を始めた。


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