リズディアの思惑と周囲の思惑 2
リズディアは、嬉しそうにイルルミューランの手を引いていた。
そして、後にいるイルルミューランは、嬉しそうとも、恥ずかしそうとも、なんとも言えない表情で、手を引っ張られていた。
リスディアは、その表情に気が付かなかったが、それを見た、執事やメイド達は、リズディアが、イルルミューランの手を引いて歩くことが、とても嬉しそうに見えた事で、2人はお互いに思い合っていると確信するように見ていた。
ミュナディアは、イルルミューランが屋敷に来ると決まった日に、執事とメイドに、おふれを出していた。
それは、2人の恋路を邪魔しないように、むしろ、影から助けるようにというものだった。
それは、決して、2人に知られるような事は無いようにすることを厳命していた。
2人の寝室の扉についても、執事達が後から、取り付けるという徹底ぶりだった。
それについて、後から、ミュナディアにリズディアが抗議にいった。
「お、お母様、私の部屋とイルルの部屋の壁が、……、壁に扉が付いているのですけど」
リズディア達の屋敷は、全て、ミュナディアが決済しているので抗議に行くのだが、ミュナディアは、全く気にすることは無かった。
「あら、そうだったの。 きっと、メイド達も仕事の効率を考えての事よ。 特に、朝の1分は、とても貴重なの、世話する人が増えたのだから、執事やメイド達は、仕事も効率的に行わないとね。 それなら、2人の部屋が、扉で繋がっていた方が効率的でしょ」
あっさり、スルーされているのだ。
ただ、それは、ミュナディアも知らない間に、執事達によって付けられてしまってたので、アドリブでリズディアに答えていた。
しかし、ミュナディアは、執事達の仕事に満足しているようだった。
「ああ、常にイルルミューランに教える姿勢を示すのなら、深夜に思いついた時も教えることができるわ。 きっと、リズディアのためになると思うわよ」
母親が、兄弟以外の男の子を深夜に、自分の部屋に、誰にも知られず入れる事を容認してしまったのだが、その事には、リズディアは、気づかなかったようだが、リズディアは、何か引っ掛かる様な表情をしていた。
イルルミューランが、リズディア達の屋敷に移ってきた日の話は、屋敷で働く者達の間で、噂になっていた。
そして、屋敷の中の使用人達は、ミュナディアの方針の元、リズディアとイルルミューランの距離を近づけるために、ほぼ全員が動き出していたのだ。
リズディアは、自分の心の中に秘めた思いを、誰にも伝えるつもりは無いのだが、15歳の少女には、隠す事は難しい事だった。
それが、最初に母であるミュナディアに知られてしまった事によって、リズディアは、誰にも言えない恋をしているので、誰にも知られないつもりなのだが、周囲の人達は、全てリズディアの心の内を知って、少しでも、2人を近づけるように動いていた。
これが、屋敷内で、ミュナディアと使用人達全員が周知している。
知らないのは、リズディアとイルルミューランの2人、そして、リズディアの兄であるクンエイと、2人の弟達、そして、新しく屋敷に来た、ミュラヨムとイヨリオン母子となる。
ただ、それは、直ぐにクンエイとミュラヨムには、知られてしまうことになるが、2人とも、その事には、邪魔をするでもなく、積極的に進めるでもなく、ただ、見守っていただけになっていた。
屋敷にイヨリオンとイルルミューランが、住むようになり、リズディアが、2人の家庭教師を兼ねて、自分の勉強もするようになった。
当初、イヨリオンの遅れが気になったようだが、基礎を基準に教え始めると、それが日に日に、遅れを取り戻しているのをリズディアは感じていた。
(イヨリオンは、物覚えもいい。 ちゃんとした環境を整えたら、誰にも負けないほどの実力があるのね)
リズディアは、イヨリオンの才能を見出し始めていたのだ。
イルルミューランは、スツ家での教育も受けていたので、成績もそれなりに上位だったが、イルルミューランは、リズディアのお陰で、更に上位に上がる必要があったので、真剣に取り組んでいた。
落第スレスレのイヨリオンを、上位に上げるのは、特に問題は無かったが、イルルミューランの成績は、元々、上位だったので、首席や次席、それに準ずる程度に上げる必要があったのだ。
(僕の成績が上がらなかったら、リズディア様は、結婚してしまう。 リズディア様が、他の人と結婚しないためにも、僕の成績を上げる必要があるんだ)
イルルミューランは、イヨリオンより、プレッシャーを感じていたのだ。
イルルミューランとしたら、姉のようでもあり、とても親しく接してくれるリズディアが、政略結婚する事が嫌だったのだ。
そのため、常に必死で、リズディアの家庭教師を受け、学校での授業態度も、常に真剣に取り組むようになっていた。
2人の学力は順調に伸びていたのだが、それを邪魔をするわけではないのだが、ミュナディアと屋敷の使用人達の間では、水面下で秘密の計画が進んでいた。
ミュナディアの意を受けて、リズディアとイルルミューランを接触させるようにしていた。
朝、2人を起こす係は、1人だけにして、リズディアを起こした後に、隣の部屋に入れる扉を利用して、イルルミューランを起こしにいくようにした。
隣の部屋に入れる扉があるとアピールさせていた。
『あの扉を使って、行き来ができるとリズディアに意識させて、誰にも知られず、イルルに会えると思わせるのよ』
メイドには、2人の部屋の扉を意識的に使わせるようにさせた。
2人の着替えの際にも、必要もないのに、メイド達を行き来させて、扉を使えば隣の部屋に入れると2人に意識させるようにし、そして、扉の近くに着替える場所を移動させ、時々開く扉の向こうの声が聞こえるようにしているのだ。
ミュナディアの指示によるものだが、メイド達にしろ、執事達にしろ、あからさまに使うようにしていた。
しかし、夜になると、イルルミューランの部屋に、執事達もメイド達も、絶対に入る事はなく、リズディアからは、呼ばれない限り、メイド達は、部屋に入る事は無くなっていた。
昼間、執事やメイド達は、あからさまに、その扉を使って、2人の部屋を行き来するようにしていたのだが、2人は、その都度、恥ずかしそうに執事やメイドを見ていたが、リズディアと、イルルミューランが、その扉を使って、ミュナディアの思っていた行為をする為に、その扉を使うことは無かった。
ミュナディアの指示で、執事達もメイド達も2人の距離を近づけてはいたが、執事達もメイド達も、それを、楽しんでいたのだ。
そして、リズディアは、誰にも言えない恋をしていると思っているのだが、周りは、それを知っていて、リズディアには、知らないフリをしていたのだ。
そのうちに、執事やメイド同士で、2人を結びつけるためのに、何をしたのか、家人に知られないように話をするようになっていた。
執事やメイド達は、ミュナディア公認で、2人の距離を近づける事に知恵を絞り出していた。
そして、2人を風呂でバッタリ入れる計画に、メイド達は行き着くのだった。
最初にイルルミューランに風呂を使わせておき、リズディアを風呂に後から入れさせたのだ。
その計画を実行すると、年頃のリズディアは、歳下とはいえ異性が先に浴室にいた事に驚いた。
しかし、流石に、これには、リズディアが激怒した。
裸で2人をバッタリと出合わせたのだが、その結果、激怒したリズディアが、リズディアを風呂に連れて行ったメイドの腕を握って、母であるミュナディアに抗議に行ったのだ。
リズディアは、何も付けずに、浴場からミュナディアの部屋に移動したので、それを見た、ミュナディアが、メイド達に、程々にするようにと釘を刺したのだった。
そして、激怒して廊下を裸で歩くリズディアの姿を、数名の執事とメイドが目撃し、使用人達は、やりすぎたことに気がついたのだ。
ミュナディアも、その全裸で激怒したリズディアの抗議によって、やり過ぎた事に気がつくと、そのメイドは、リズディアの担当を外した。
しかし、そのメイドは、リズディアの担当は、外れはしたが、屋敷から追い出される事はなく、その後は、ミュナディア専属となっていた。
そして、リズディアとイルルミューランを近づけさせるための案を考えさせるため、常にミュナディアと一緒にいるようになっていたのだ。
その後は、2人を浴室で、裸でバッタリ出会うような、あからさまな行動をするような事は無くなったが、常に2人きりになるようなイベントを、さりげなく行うプロデュースをするようになり、可能な限り2人を結びつけようと動いていた。
ただ、ミュナディアや使用人達の思惑を裏切るように、リズディアとイルルミューランの仲が、進展することは無く、健全な付き合いをするだけだった。




