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リズディアの思惑と周囲の思惑


 大ツ・バール帝国の第一皇女であるリズディアは、15歳の時、最初の縁談を断った。


 それは、周囲に、リズディアが、イルルミューランに恋心を抱いている事を、確認させてしまったイベントになってしまっていた。


 リズディアとしては、誰にも言えない恋心だったのだが、断る理由として、勉強に精を出す事で終わらせる予定だったのだが、皇帝エイクオンとの会話から、考えを間違った形で感じ取ってしまったことにより、余計な約束をしてしまったのだ。


 リズディアは、その時の焦りからか、イルルミューランの名前が、頭の中に僅かに残っていたせいなのか、エイクオンにイルルミューランとイヨリオンの家庭教師を買って出てしまったのだ。


 自分の成績を上げる必要もあるのに、余計な事まで抱え込んでしまったのだ。


 しかし、そのお陰で、リズディアは、思いを寄せているイルルミューランと、自分の住む屋敷で生活を共にすることになった。


 リズディアとしたら、自分の心の内を隠して、思い人であるイルルミューランと一緒に暮らせるという、幸運を得ることができた。


 リズディアは、思わぬ幸運に、1人、喜んでいた。


(幸運というのは、有るのね。 それも追い詰められた時ほど、自分で考え、そして行動する事が、幸運を引き寄せるのね)


 リズディアは、自分の部屋で嬉しそうにしていると、ドアがノックされ、メイドが入ってきた。


「リズディア様。 イルルミューラン様が、お見えになりました。 それと、一緒にお見えになったイスカミューレン様が、リズディア様に、一言、ご挨拶を申し上げたいと言っております。 いかが致しましょうか?」


(あら、イルルったら、案外、早かったわね)


「わかりました。 伺いますわ」


 そう言って、メイドの方に歩いていくと、メイドは、リズディアを案内してくれた。




 応接室に、リズディアは、通された。


 そこには、イルルミューランとイスカミューレンが待っていた。


 すると、直ぐに、イスカミューレンは、リズディアに礼をする。


「この度は、愚息の家庭教師をしていただけると、陛下からお話を、賜りました。 誠に、ありがとうございます」


「いえ、これは、私の教える力を付けるためです。 イルルには、その手伝いをお願いしたのです」


 イスカミューレンの言葉に、リズディアは、少し恥ずかしそうに答えた。


(おや、これは、言っている事と、思っていることが違うのだな。 ……。 上手く、イルルミューランに、思いを抱き始めたみたいだ)


 イスカミューレンは、笑顔をリズディアに向けた。


「そうですか。 それでは、リズディア様が、この帝国を導く礎を築くため、愚息のイルルミューランをお使いください。 リズディア様のような方が、帝国の更なる繁栄を導くのです。 皇室の方から、このような申し出です。 私も、喜んで協力させていただきます」


「ありがとうございます」


 そして、リズディアは、隣のイルルミューランの顔を覗き込んだ。


 その表情は、少し恥ずかしいのか、表情を赤くして、俯いていた。


「イルル。 これから、よろしくね。 それと、ご家族と離れて暮らすようにしてしまって、ごめんなさい」


「いえ、そんなことは、ありません。 幼年学校を卒業してしまったリズディア様に、会う機会が減ると思いましたけど、今度は、毎日リズディア様のお顔を拝見できます。 む、むしろ、ご、ご褒美です」


 イルルミューランは、最初こそ、普通に答えていたが、言葉尻の方は、顔を赤くして、吃りながら答えたので、リズディアもイスカミューレンも驚いていた。


(あら、イルルも嬉しそうにしているわ。 私と一緒に居れる事が、イルルも嬉しいのかしら)


(おやおや、イルルミューランもリズディア様を好いているみたいだな。 これは、ラッキーだ。 上手く、計画通りに進んでいるようだ)


「それでは、リズディア様、愚息のこと、よろしくお願い申し上げます」


 イスカミューレンは、満足そうに伝える。


「はい、大切にお預かりいたします」


「それでは、私は、これで失礼します」


 イスカミューレンは、一度、イルルミューランを見るが、何も言葉をかける事なく、退出していった。


 それを見送った後、リズディアは、イスカミューレンに声を掛ける。


「それじゃあ、イルル。 これからよろしくね。 それと、あなたの部屋は、私の隣の部屋よ。 どういう訳か、部屋の壁にドアが追加されたのよ。 少し離れたイヨリオンに近い部屋を使わせようと思ったのに、お母様が、それだけは、絶対に譲らなかったのよ。 隣の部屋にするだけじゃなくて、扉まで付けるって、どういう事なのかしら」


 リズディアは、少し恥ずかしそうに言うのだが、イルルミューランは、顔を赤くして、心ここに在らずといった様子だ。


「ん? イルル?」


 不思議そうにリズディアは、イルルミューランの顔を覗き込むため、前に立つとしゃがみ込んで、イルルミューランを下から見上げた。


「うわ!」


 イルルミューランは、目の前にリズディアの顔が現れたので、驚いたようだが、リズディアは、気にする事なく話しかける。


「あなたの部屋に行くわよ」


 そう言うと、イルルミューランの手を取って、移動を始める。


 引っ張られるように連れていかれるイルルミューランは、嬉しそうなのか、恥ずかしそうなのか、よく分からない表情でリズディアに連れられていく。


(リズディア様に手を繋いでもらった。 いつぶりだろう、昔は、よく、手を繋いで、後宮の庭を散歩したけど、ここしばらくは、手を繋ぐことも無かったのに……。 でも、リズディア様の手は、とても柔らかくて、温かい)


 そんなイルルミューランの表情を気にする事なく、リズディアは、イルルミューランを引っ張っていくと、時々、廊下ですれ違う執事やメイドは、通り過ぎる2人を見送ると、クスクスと笑ったり、微笑ましい様子で見ていた。


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