卒業 進学 そして縁談 2
リスディアは、エイクオンに縁談の話を断りにいく。
「お父様、今回の縁談は、帝国に何のメリットもありませんから、お断りしてください」
「そうか。 しかし、ただ断るでは、国としての体面もあるのだよ」
エイクオンは、諭すように言う。
「私は、高等学校に入学しました。 まずは、学校で私の立場を確立しましょう。 そして、卒業して帝国大学へ進みます」
「それだけだと、理由としては弱いな」
「首席を取ります」
「うーん、首席か。 ……。 皇族の首席か」
(え、どうしましょう。 父上は、これだけでも納得できてないのかしら)
リズディアは、少し焦っているようだ。
(だったら、もっと、自分の事以外の何かを提示しなければ……)
エイクオンも何かを考えるように黙っていた。
(これ以上、15歳の少女に要求するのは、酷な話かもしれないな。 今の話をベースに、誠意を持った形で断るか。 あとは、外交官に話の内容をまとめさせて、断りの文章を作らせればいい)
2人の沈黙は、部屋の雰囲気を重くしてしまっている。
「お父様、これからの帝国は、このような外交にも多くの人材が必要となります」
その沈黙をリズディアが破った。
「私は、帝国の学術的な面を伸ばすために勉強しているのです。 ですが、覚えただけでは、それが実ってこないでしょう。 今度は、教える事を考えなければならないので、まずは、イルルミューランとイヨリオンを使って、自分の教える力をつけます。 彼らなら、私が失敗しても他には言いふらす事も無いでしょうから、皇室の恥になることもありません」
エイクオンは、驚いていた。
(おい、断る話を作るだけなのに、お前は、更にハードルを上げるのか)
「そのため、イヨリオンは、母親ともども、私の屋敷に住まわせます。 イルルミューランは、毎日、後宮の屋敷に通わせます」
(いや、待てよ。 イルルミューランか。 今後の事を考えると、……。 面白いかもしれない)
エイクオンは、何かを思いついたようだ。
「いや、イルルミューランも、イヨリオンと一緒に住まわせなさい。 それなら、イルルミューランは通う時間が無くなる。 それに、イヨリオンも、イルルミューランと一緒の方が心強いだろう」
エイクオンの申し出にリズディアは、表情をわずかに変えた。
(え、何? イルルと一緒に住めるってこと? 弟のイヨリオンと一緒にイルルも? あ、でも、お父様の前よ。 表情に出しちゃダメ!)
「ん? どうした? ダメなのか?」
「いえ、イルルミューランの通う時間を考えるとは、皇帝陛下のお心の広さを実感いたしました。 そのようにさせていただきます」
「そうしなさい。 イスカミューレンと、ミュナディアには、私から話をしておこう」
「ご厚意、感謝いたします。 それでは、私は、これで失礼します」
そう言って、エイクオンの前から下がって、部屋を後にした。
その様子をエイクオンは、ジーッと見ていた。
(なんだ? リズディアの頬が、少し緩んでいた。 それに、少し赤くなっていたように思える)
エイクオンは、少し不思議そうにしていたが、すぐに表情を戻すと、秘書に指示を出した。
エイクオンの部屋を退出したリズディアは、今まで我慢していた表情を崩した。
(え、ちょっと、これからは、イルルと毎日顔を合わせられるだけじゃなくて、一緒に住むことになるのね)
リズディアは、嬉しそうにして、後宮の自分の屋敷に戻っていく。
時々、宮廷内の職員に、その様子を目撃されるのだが、何か良い事があったと思われただけで、その理由までは、気づかれずにいた。
その表情を見た職員達は、15歳になって、すました美人の表情しか見た事が無かったのだが、久しぶりにリズディアの少女時代のような笑顔を見て微笑ましく思ったようだ。
リズディアは、自分の住む屋敷の部屋に戻るが、しばらく、緩んだ顔がそのままだったのだが、母親のミュナディアに呼ばれたと聞いて、正気に戻ったようだ。
(しまった。 お母様に相談も無く決めてしまった。 根回しもせずに決めてしまった事を怒られるわ)
リズディアは恐る恐る、母親の部屋に入る。
「ああ、リズ。 イヨリオン親子とイルルの部屋は準備させるわ。 それと、家庭教師なら、3人一緒の勉強部屋も用意させるわね」
「えっ!」
リズディアは、思っていた事と違った反応に、驚いたようだ。
「あら、まずかったかしら?」
すると、ミュナディアは、意地悪そうな表情をする。
「あら、イルルは部屋ではなく、あなたのベットを2人用にした方が良かったかしら」
リズディアは、真っ赤な顔をした。
「い、い、いえ、しょ、しょんな、こと、あ、あ、あり、ません」
(あら、分かり易い。 冗談で言ったのに、イルルの事が好きなのは、本当だったみたい)
ミュナディアは、面白そうな表情をする。
「ああ、ついでだから、弟達2人も一緒、お願いね。 あの2人も見てくれると、助かるわ。 もう、3人目と4人目だから、自由にさせおいたら、遊んでばかりなのよ」
リズディアは、いやそうな表情をした。
(あのヤンチャな2人が、一緒にいて、まともに勉強になるの?)
「お、お母様、あの2人の面倒まで、私が見るのですか? 2人には、別々に家庭教師を付けるという話じゃなかったのではありませんか?」
(弟2人の話を振ったら、まともになったみたいね)
「まあ、仕方がないわね。 弟達は、いいわ」
ミュナディアは、すぐに引き下がった。
「ありがとうございます。 それと、申し訳ございませんでした」
「え? どうかした?」
「お母様に相談もせずに、話を進めてしまった事です」
「ああ、気にしてないわ。 私は、あなたの母親ですから、娘の不手際は、私がフォローします。 それに、どうって事は無いわ。 ミュラヨムは、イヨリオンを産んでいるのだから、もう少し良い暮らしをするべきなの。 だから、私の屋敷に呼ぶ良い理由になったわ」
リズディアは、感心したようだ。
(お母様は、広い心をお持ちなのね。 皇族たるもの、自分の気持ちだけでなく、国の事や他の皇族の事を考えての行動なのね)
「ご配慮いただき、ありがとうございます」
「それでは、部屋について、何か有れば、執事長に指示を出しておいて。 あなたの思うとおりにして、構わないわ」
(イルルの部屋は、あなたの隣で構わないわよ)
ミュナディアは、少しいやらしそうな表情をリズディアに向けていた。
リズディアは、ミュナディアに一礼すると、退出した。
(イルルと一緒に住めるわ)
リズディアは、また、顔を綻ばしていた。




