リズディアのイルルミューラン 2
リズディアは、イヨリオンを虐めている、ルインカンを止めに入った。
子供なので、力では、どちらも、そう大差は無いが、知識量では、圧倒的にリズディアが優位だった。
知識の豊富なリズディアなので、一気に捲し立てた喋りに、ルインカンは、二言三言、反論はしたが、姉のリズディアには逆らえないと思うと、屋敷の方に行ってしまった。
それを確認すると、リズディアは、イヨリオンに向く。
「大丈夫? 怪我は無い? 」
「ええ、大丈夫です。 ありがとうございます。 リズディア姉様。」
転んで、土埃がついているのを、イヨリオンが、手で払っていると、イルルミューランが来て、イヨリオンの背中や、お尻の土埃を払ってくれた。
「ありがとう。 君は? 」
「失礼しました。 私は、スツ・メンサン・イルルミューランと申します。」
「ありがとう、イルルミューラン殿。」
「私は、貴族といっても、爵位も無い下級貴族です。 どうぞ、お気になさらずに。」
「そうよ、イヨリオン。 それにイルルも、ご苦労様。」
イルルミューランに、労いの言葉をかけると、イヨリオンに向く。
「イヨリオンは、ルインカンに、はっきり、嫌だと言った方がいいわよ。 あの子、ちょっと、つけ上がりすぎよ。」
「はい。」
イヨリオンは、シュンとする。
「リズディア様、さっきも言いましたけど、目上の方に、嫌と言えない人もいるのですから、そういう言い方は、むしろ逆効果です。」
「じゃあ、どうすればいいのよ。」
言い返されて、イルルミューランも困ったようだ。
「あのー、姉様。 イルルミューラン殿に、そのような言い方は、・・・。」
自分の為に2人が言い争いになりそうだったので、イヨリオンは、止めに入った。
「それなら、リズディア様とイヨリオン様が、ご一緒に過ごすようにしたらいかがでしょうか? 同じ後宮にお住まいなら、顔も合わす事も多いので、その方が、よろしいのではないでしょうか? 」
すると、イヨリオンは、自分の住む場所が、他の兄弟達とは違い、奥の小さな庭師程度の家なので、暗い表情をした。
「そうね。」
リズディアは、一言言うと、考えを巡らせていた。
そして、考えがまとまると、イヨリオンに向く。
「イヨリオン。 明日から、私と一緒に行動しなさい。 学校も私と一緒に行き来するのよ。 私と一緒の馬車に乗りなさい。」
「えっ、いえ、それは、・・・。」
そこまで言うとイヨリオンは、言葉に詰まった。
イヨリオンは、自分は、父が皇帝であっても、母親は、ただの帝国臣民であり、自分自身、皇位継承権を放棄しているので、第一皇女と一緒の馬車に乗るのは、良くないと思ったようだ。
だが、そんなイヨリオンの様子を気にすることなく、リズディアは、話を続けた。
「ダメよ。 必ず来なさい。 私が、懇意にしていると分かれば、ルインカンも明からさまにいじめることはできないでしょう。」
「はい。」
イヨリオンは、リズディアに押し切られるように了承した。
それを聞いていたイルルミューランが、手を叩いて喜んでいた。
「流石は、リズディア様です。 弱きを助け、強きを挫く、立派なご判断だと思います。 貴族は、弱い者を助ける為にあるということを、身を持って示してくれたのですね。 リズディア様のようなお心の方が、皇族にいらっしゃるなら、帝国も安泰です。」
とても、4歳年下の発言とは思えないイルルミューランの言葉に、リズディアは、顔を赤くした。
「ば、バカな事を言うんじゃありません。 イルルが、助けるようにって言ったから、頑張ったのよ。 イルルのおかげなのよ。」
それを聞いて、イヨリオンは、イルルミューランが、リズディアに助言をして、助けてくれたのだと理解した。
「あなたが、姉様を動かしてくれたのですか。 ありがとう。」
リズディアに花を持たせるつもりだったのだが、口が滑ってしまった。
「あ、いえ、私は、ちょっと、お話をしただけです。 助けてくれたのは、リズディア様です。 リズディア様は、自分の、お力の使い方をご存知ですから、イヨリオン様にもお優しいのですよ。」
(えっ! イルルったら、何を言っているのよ。 言われるがまま、イヨリオンを助けただけだったのよ。 でも、とても、いい気分だわ。 イルルって、そういえば、今までも、私にアドバイスをくれたわ。 それで、いつも上手くいっている。)
リズディアは、顔に手を当てて、自分の思いにふけっていると、2人だけで話し出した。
「君は、人の気持ちを読み取ることが上手だね。 イルルミューラン殿。」
「あ、すみません。 イルルで構いません。 イルルは、リズディア様が、つけてくれた愛称なんです。 とても気に入っているので、使っていただけると嬉しいです。」
その話を聞いて、リズディアは、ドキドキしているようだ。
(まっ、イルルったら、な、何を言っているのよ。)
イヨリオンは、イルルミューランの事が気に入ったようだ。
「そうなのですか。 じゃあ、今度から、イルルと呼ばせてもらいます。」
「はい、イヨリオン様にイルルと呼ばれてもリズディア様が、お側にいるようです。」
そう言って、嬉しそうにする。
その横で、リズディアが、赤い顔をしていたのだが、さすがに限界の様子で、イルルミューランを止めに入った。
「イルル! あまり、褒めないで! 」
2人は、リズディアを見る。
下を向いて、赤い顔をしているが、なんでなのか理解に苦しんでいるようだ。
(もう、イルルったら、なんで、こんなに私を褒めるの! 私は、ただ、文句を言っただけなのよ。 イルルって、小さいけど、なんだか、とっても、大人って感じよ。 私を包み込んでくれるみたい。 私の行く方向を示してくれるようだわ。 イルルって、わ、わた、私のヒーロー? ううん、私だけのヒーローにしたいわ。)
リズディアは、ニヤニヤしつつ、前を向くと、2人が自分の顔を覗き込んでいるのを見てしまった。
「みっ! 見るなーっ! 」
リズディアは、自分の恥ずかしい表情を見られてしまい、びっくりして言い放つと、2人は、慌てて、後ろを向いた。
リズディアは、地面にしゃがみ込んで、顔を覆い、恥ずかしさが消えるまで、そのままでいると、2人もそれに付き合わされ、直立のまま、次の命令を待っていた。




