イスカミューレン商会 2
リズディアとイルルミューランは、リズディアが、帝国の大学を卒業した際に、南の王国の大学に留学している。
その時、イルルミューランは、帝国の大学に入学する予定を返上して、リズディアの護衛を兼ねた御学友として送り込まれている。
その際、1学年上の主席であったジュエルイアンと交流を持ったのである。
その時のリズディアは、皇女殿下だったので、それなりの言葉使いをしていた。
イルルミューランとの結婚後に皇位継承権を返上したので、皇族に対する言葉遣いは止める様に言ってはあるが、学生時代の感覚がまだ抜けてない。
「それより、ジュエルイアン。 帝国に来られたのは、どの様なご用件で来られたのですか。」
「今回は、うちの帝国支部に顔を出しに来ただけです。 丁度、こちらにうちの商品の納品が有ると聞いたので、便乗しました。」
「そうでしたのね。 最近は、街道沿いに東の森の魔物が現れたと聞きましたから、移動にはお気をつけください。」
「ええ。」
すると、突然、入り口のドアが、勢いよく開く。
「おお、よく来たな。 ジュエルイアン。 元気だったか。」
入って来たのは、この商会の先代で、今は隠居中のイスカミューレンだ。
その姿を見て、慌てて立ち上がるジュエルイアンが、直ぐに挨拶をする。
「ご無沙汰しております。 お陰さまで元気にしております。 旦那様もお元気そうで何よりです。」
「それは良かった。 それより帝国には何しに来たんだ。」
「帝国の支部に顔を出しに来ました。」
来る人が全て同じ事を聞くので、いい加減、何度も同じ事を答えるのかと、ジュエルイアンは、思いつつも同じ答えをしていた。
ただ、流石に嫌そうな表情は、表には出ていない。
「お前さんが支部に顔を出すって事は、何か問題が起こったのか? 」
「いえ、時々は顔を出して、喝を入れようかと思っただけです。 帝国にはうちの商会の様な弱小には敵わない大きな商会がございますので、そこを見習う様にと。」
その商会とは、イスカミューレンの商会の事を、ジュエルイアンは、言っているつもりなのだ。
しかし、イスカミューレンも、その事には気がついているのだろうが、とぼけたフリをしているのだろう、イスカミューレンは、息子のイルルミューランに話を振る。
「ほお、それは、それは、ではうちも、その商会を見習わないといけないな。 イルルミューラン。」
そのイスカミューレンの話に、イルルミューランとジュエルイアンは、苦笑いをする。
そんな2人の表情をイスカミューレンは、面白そうに見ると、話題を変えてきた。
「それより、この前、王国への街道沿いの魔物が討伐されたのだが、それが、ギルドの高等学校を卒業して間も無い新人冒険者のパーティーと聞いたのだが、お前は何か知らないのか。」
ここでも同じ話をされた事に、いつものジュエルイアンなら、表情に出たかもしれないが、今回は顔色一つ変えずに答える。
「私は商人ですから、冒険者の事にそれ程、詳しくはないので把握はしておりません。」
そう言って、ジューネスティーン達の事をはぐらかす。
さすがに、極秘扱いされているパワードスーツの納品に、しかも、受取人は、話の当人達である事を言うわけにはいかないし、悟られてもまずい事なので、ジュエルイアンは、眉も動かさずに答えた。
だが、イスカミューレンには、その表情が作られたものの様に思えたのだろう、帝国の貴族達と渡り合って、皇帝の第一皇女を息子の嫁に貰う程の男なのだから、イスカミューレンには、ジュエルイアンの表情が動かない事に違和感を覚えたのだろう。
「・・・。」
一瞬、イスカミューレンが沈黙するが、直ぐに口を開く。
「ほー、そうか。 お前さんなら何か知っているかと思ったが、知らないなら仕方がない。」
その言葉にジュエルイアンは、心の中でホッとしているのだろうが、今度も表情に出さずに答える。
「お役に立てず、申し訳ございません。 それより、新市街の開発は南門から西に作りましたが東側の開発は如何でしょうか。 もし、開発の話が御座いましたら何かお手伝いさせていただければ有難いのですが。」
「開発は検討しているが、東の魔物が活発化しているので、待ったが掛かっている。 ゴーサインが出れば、そちらにも話はするから、安心しろ。」
(ここでも、魔物が邪魔をしているのか。 上手く開発の下請けができれば、その一部に、さっきのカインクムの水瓶の工場を建設する事も可能だ。 また、建設費用と土地の購入費用との相殺で敷地を手に入れられるかと思ったのだが、開発が遅れているとなったら、また、別の方法を考えなければならないな。)
「よろしくお願いします。 それより東の魔物が活発化している件に関してですが、帝国では何か掴んでいるのでしょうか。 魔物の活発化は、貿易の輸送費に影響を及ぼすので、気になっております。」
「ああ、帝国軍も調査中だ。 森周辺に魔物の渦が発生してないので、強力な魔物が周辺に現れているのは、東の森から出てきていると見ている。 Aランクの冒険者パーティーでも倒せない事もあるので、帝国軍も手を焼いている様だ。 今のところは何とかなっているが、これからはどうなるか不明だ。 何とか収まってもらえれば良いんっだが。」
「ごもっともです。 本当に終息してほしい問題です。」




