イスカミューレン商会
ジュエルイアンは、カインクムの店を出て、帝都の旧市街へ向かう。
前後の護衛の馬車と荷馬車は金糸雀亭に入る様に伝えて自分が乗ってきた馬車に乗って移動する。
ジュエルイアンは、帝国で一番の商人である、スツ・メンヲン・イスカミューレンに挨拶に向かうのだった。
若い頃にイスカミューレンの商会で修行を行ってた為、帝都に赴いた際は必ず挨拶に向かうし、最近では帝都の第9区画であるギルドが入った区画の、開発の一部を、このイスカミューレンの下請けとして扱ったのだ。
ギルドの建物と、その周辺と、カインクムの店のある区画は、ジュエルイアンが手掛けている事もあり、商人としての義理を果たすためにも、帝都に来た時は、必ず顔を出す様にしているのだ。
帝都の旧市街の南中門近くへ続く大通りの東側に、イスカミューレンの商会の建物がある。
他とは構えも違うので、近付くと直ぐにわかる。
イスカミューレンは、帝国における商業の半分を、自分の傘下におさめており、帝国における経済的支柱となっている。
ただし、イスカミューレンは貴族ではあるが、爵位は持ってない下級貴族である。
皇帝であるツ・リンクン・エイクオンの親友であるイスカミューレンは、第一皇女であるであるツ・レイオイ・リズディアを、自分の息子の嫁にもらい受けているが、その際に皇女の皇位継承権は子孫も含めて永久に放棄しており、現在では、スツ・エイ・リズディアと名乗っている。
皇女であった、スツ・エイ・リズディアも、今では下級貴族の一員として、このイスカミューレンの商会で副支配人として働いているのだ。
イスカミューレンの商会に入り、受付に挨拶をすると、貴賓室へ案内された。
しばらくすると、スツ・メンサン・イルルミューランが入ってくる。
「先輩、お久しぶりです。 新市街の開発以来ですね。 元気にしていましたか。」
イルルミューランはジュエルイアンより一つ年下で、南の王国の大学時代に知り合ってからの付き合いである。
「あぁ、こっちは元気だ。 そっちも、元気そうだな。 親父殿や御夫人も元気にしているのか。」
「二人とも元気にしてます。 直ぐに顔を出すと思います。 それより、今日はどの様なご用件ですか。」
「今日は、うちの商品の納品が有ったので、それに便乗してきた。 たまには支店に顔も出さないといけないと思って来ただけだ。 それで、こちらにはご挨拶に伺った。 帝国に来て挨拶に来ない訳にはいかないからな。」
そう言って笑顔で握手をする。
「そうでしたか、それは、わざわざありがとうございます。」
「それより、東の森の魔物が活発化している様だな。」
イルルミューランは、苦い顔をする。
「そうですね。 最近は、森から出て来る魔物が多くなってきていますので、軍もギルドも忙しくなりました。」
「あまり嬉しい話じゃないな。」
「ええ、帝国の街道沿いにも現れていますので、貿易用の警護費用が上がってしまいました。 でも、南への街道は、つい最近、討伐されたと聞いてますので一安心です。」
ジュエルイアンは、東の森の魔物の話をした時に見せたイルルミューランの表情は、警護費用の上昇にあったようだ。
ただ、ジューネスティーン達が帝国に向かう際に討伐した魔物についても、この商会に話がきていることも分かった。
「話によると、王国から来た新人パーティーが倒したとのことでした。 また、ジェスティエンの様な冒険者が現れたのかもしれません。 そういった冒険者が帝国に来てくれるのは大変ありがたい事です。」
「あぁ、そうだな。 こちらとしても、新市街の投資の回収が有るから、帝国が魔物に手こずってもらうのは困る。」
あまり、ジューネスティーン達の事を聞かれても困るので、話を変える事にする。
「それより、奥方様は元気なのか? 」
「あぁ、もう直ぐ来ると思います。」
そう言うと、ドアがノックされた。
「ほら、ご登場だ。」
そう言うと、イルルミューランがドアを開けに行く。
ドアを開けると、スツ・エイ・リズディアが入ってきた。
ジュエルイアンは、ソファーの横に立って、リズディアを出迎える。
「この度は、ご機嫌麗しゅうございます。 殿下のお姿を御拝謁させて頂誠にありがとうございます。」
「かしこまた挨拶はおよしください。 それに私はもう殿下と呼ばれる立場ではございません。 彼の妻でございますし、一緒に大学に通った仲ですから、友人に対する話し方でお願いします。」
リズディアは、帝国の大学を卒業後に南の王国の大学へ留学している。
その際に、一つ上にジュエルイアンがいたのだ。
ジュエルイアンとリズディアとの付き合いもその時からになるが、当時のリズディアは、帝国の皇女として留学していたので、その時の名残が残っている様だ。
「恐れ入ります。」
「まぁ、言ってるそばから、その様な。 おやめください。」
何度も言っているのに言葉遣いが変わらない事に、リズディアは、少しイラッとした様に言った。
「これは失礼しました。 それでは、普通にお話しさせていただきます。」




