ジュエルイアンの商魂
ジュエルイアンに見せた水瓶は、カインクムが、ジューネスティーンに話を聞きながら、作ったものだ。
「これは、ジュネスとシュレに教わったんだ。 魔法紋を付与する魔法を、うちのやつと2人でな。 これは、俺が魔法紋を刻んだ水瓶だったんだよ。」
その話を聞いて、ジュエルイアンは、自分を無理矢理納得させる様にしている。
何かを考える様な雰囲気をすると、一つため息を吐いてから答えた。
「そういう事だったのか。 あの連中の仕業だったんだな。」
「ああ、そういうことだ。 それより、この水瓶をお前の所で作って、売ってもらえないか。 その売り上げの一部を俺の嫁の取り分にさせてもらいたい。」
ジュエルイアンは、水瓶を見て考えている。
(この水瓶が有れば、台所仕事のための水汲みが無くなる。 必要な時は、この水瓶に手を当てれば、勝手に水が貯まってくれるんだ。 必要な時に必要な分だけ貯まる水瓶なら、家庭に一つでも欲しいからな。)
カインクムは、心配そうにジュエルイアンを見る。
「それとなんだが、これに蛇口を付けたら、もっと、具合が良くなると思わないか? ほら、底の辺りにパイプとかを付けて、開閉用のコックの様な蛇口を付ければ、水を汲み出すんじゃなく、コックを開いて出す様にしたら、もっと楽になると思うんだ。」
カインクムは、水瓶の底を示して、話をした。
ジュエルイアンは、この水瓶だけでも画期的な物だと思ったのだが、それ以上の提案をカインクムがしてきた事にも驚く。
ただ、ジュエルイアンは、この水瓶の価値について見抜いていたのだろう。
顔つきが、話を聞いているうちにどんどん変わっていく。
「分かった。 これは、俺が売ってやる。 お前、剣だけじゃなく、こんな事まで考えてたのか。」
「ああ、アイデアは、ウチの嫁だ。 お隣のシュンクンの店にウサギの亜人がいるだろ。 リルキーシャって言うんだが、いつも大変そうに水を運んでいるのが不憫だと言って、嫁が考えたんだ。 嫁が作った水瓶は、お隣で使っている。」
ジュエルイアンは、頭が痛そうだった。
金になりそうな物が、ドンドンと世間に知れ渡ってしまっていると思ったのだろう。
「なんで、こうお前達は、考えないんだ。 新商品は、他が作ってしまったら、利益は半減するんだ。 販売するまで、隠すって事を知らないのか。 ジュネスといい、お前といいい、なんで考えないんだ。」
ジュエルイアンは、自分の嘆きを声に出してしっまった。
だが、カインクムは、全く気にして無かった。
「なあ、ジュエルイアン。 この魔法紋なんだが、魔法で簡単に刻む事ができてしまったんだ。 魔法紋を刻む魔法を使える人が居なかったら、魔法紋に掛かる費用はどうなる。」
ジュエルイアンは、それを聞いてハッとなる。
魔法紋を一つ作る時間と費用を考えると、魔法で魔法紋が刻める事で、アドバンテージがある。
仮に同じ物を、どこかの商人が売ったとしても、かなりの高額な商品となってしまい、貴族か王族にしか買えない商品となってしまうのだ。
簡単に魔法紋が刻めるのなら、庶民にも購入できる範囲の金額で売る事も可能になる。
必要なのは、水瓶だけなのだから、原価は格安で抑えることができるのだ。
ジュエルイアンは、話が飲み込めた様だ。
「成る程、そう言う事か。 そうか、そうか。 だったら、隣のシュンクンとリルキーシャには、誰かに見つかったら、ジュエルイアン商会の新商品だと言わせておけ。 試作サンプルを渡して試してもらっていると言って貰えばいい。 そうか。 そうなんだよ。」
ジュエルイアンの表情は一変する。
この水瓶の価値は、水瓶ではなく、描かれている魔法紋にあると気がついた様だ。
「よし、分かった。 この水瓶は、俺が売り捌いてやる。 お前の嫁にしっかりと稼がせてやるから安心しろ。」
カインクムは、ジュエルイアンの豹変に少し驚いているが、話が進んでくれた事にホッとしている。
「あと、お前の嫁にも働いてもらうからな。」
カインクムは、少し微妙な顔をしているが、ジュエルイアンには、そんな事は気にせず、水瓶の製造と販売の計画で頭が一杯になっている様だ。
カインクムは、嫁のフィルランカの話が出てきた事で少し顔を赤くしている。
それを隠す様に、ジュエルイアンに話し掛ける。
「ああ、わかった。 それより、ここで長話してても良いのか。 帝国に入国して直ぐここに来たんじゃないのか。」
荷物を帝国内で持ち歩く事を嫌ったので、帝国に入るといち早くカインクムの店に荷物を持ち込んだのだ。
ジュエルイアンの人脈を考えれば、帝国に入って顔を出さなければいけない場所は幾つもあるはず。
カインクムもその辺の事が分かっていてジュエルイアンに尋ねると、ジュエルイアンは、ある事に気がついた様にハッとなる。
「そうだった。 用事も済んだ。 直ぐにでる。」
そう言って慌ただしくカインクムの店をでていった。




