カインクムの水瓶
カインクムは、ジュエルイアンが考え込んでしまったのを見て、少し遠慮気味に話しかける。
「なあ、もう一つあるんだが、そっちの話もいいか? 」
考え込んでいたジュエルイアンだが、カインクムに話しかけられて、もう一つの話が有る事を思い出したのだろう。
表情が直ぐに変わるとカインクムをみる。
「そうだった。 なんだか面白いものを、俺に見せたいって言ってたな。」
ジュエルイアンは、話を直ぐに切り替えてた。
世界を股に掛けている商人なので、その辺りの切り替えは早いようだ。
その顔を見て、カインクムは、先日、魔法紋を描いた空の水瓶を持ってきた。
ジュエルイアンには、普通の水瓶に見えるのだろう。
何か変わった事があるのか気になって見ていた。
「おい、この水瓶がどうかしたのか? ただの空の水瓶じゃないか。」
カインクムは、ニヤリとする。
「まあ、ただの水瓶だ。 だが、これには、魔法紋が記されているんだ。 試しに水瓶に水が溜まった事をイメージしてこの水瓶に触ってみてくれ。」
カインクムに言われるがまま、ジュエルイアンは水瓶に手を当てる。
すると、水瓶の底に徐々に水が溜まっていき、8分目になると、水量が止まる。
それを見て、ジュエルイアンの顔色が変わる。
「おい。 これはどういう事なんだ。 水が勝手に溜まったぞ。」
「だから、その水瓶には、魔法紋が記されているんだ。 それも、8分目になったら止まる様にな。」
カインクムは、信じられない顔をする。
水魔法は有っても、水の量は人それぞれの能力によって、底にわずかに貯まるだけの時もあれば、水瓶から溢れてしまうこともある。
(俺は、ただ、水の事を思って触っただけだった。 それだけだった。)
「すまないが、もう一度試してみてもいいか? 」
「ああ、構わない。 じゃあ、その水瓶の水を外に捨ててもらえるか? 」
カインクムは、ニヤリとしながら、ジュエルイアンに水を捨てる様に頼んだ。
(何で、俺がそんな事をしなくちゃいけないんだ。 まったく、カインクムも、ジュネス達に当てられたのかもな。)
そんな事を思いつつ水瓶を持つ、ジュエルイアンは、水瓶に両手を添えて持ち上げようとする。
そして、その重さが思った以上に軽かったので、水瓶を勢いよく上げてしまった。
驚いたジュエルイアンは、慌てて顔の前程の高さでその水瓶を止めるが、中の水が半分程、水瓶の外に出てしまい、ジュエルイアンの手を濡らしてしまう。
ジュエルイアンの反応を、分かっていたカインクムは、慌てて水瓶に手を添えてジュエルイアンから、水瓶を受け取る。
「おおーっと、危ない、危ない。」
そう言って、水瓶を受け取って、悪戯小僧の様な笑みをジュエルイアンに向ける。
ジュエルイアンは、カインクムの表情よりも、水瓶に驚くが、その表情が一気に鬼の形相に変わる。
「おい、この水瓶はどうなっているんだ。 こんな物をどうやって作ったんだ。」
その姿を見て、カインクムは面白そうに答える。
「水瓶に魔法紋を魔法で刻んだ。」
カインクムは、あっさりと答えると、その答えに、更に、イラついた様な顔を、ジュエルイアンはカインクムに向けた。
「何が、魔法紋を刻んだだぁ。 こんなものどうやって作れたっていうんだ。 誰かからその技術を奪わなければ作れるわけがないだろう。」
「いや、盗んだわけじゃない。 教えてもらった。」
カインクムは、ジュエルイアンの豹変ぶりが、面白くてしょうがないのだ。
いつもは、冷静沈着で、物事に動じる事のない人が、目の前の状況を見て、取り乱してしまったことが、面白くてしょうがないのだ。
だが、そろそろ頃合いだと思ったのだろう。
にやけた顔は、真顔に戻る。




