パワードスーツの納品
荷台を開けると、中には、9個の木箱が収められている。
御者二人が、荷物を工房に入れようと荷台に移動する。
すると、カインクムがそれを制する。
「ちょっと待ってくれ、今、橋をかけるから。」
そう言って、カインクムが鉄の板を引き摺って、荷馬車と工房の間に橋をかける。
箸をかけると、シュレイノリアが描いた魔法紋の台車に乗せるようにと、台車を取りに行く。
「荷物を、この台車に乗せてくれ。」
そう言って、台車を荷台まで押してくる。
御者達は、重そうに木箱の荷物を台車に乗せると、カインクムはジュエルイアンに、自分の方にくる様に促す。
「この台車を押してみてくれ。 その時、この荷物は軽い荷物だと思って押してくれ。」
言われるままにジュエルイアンは台車を持って押し始める。
「・・・。」
ジュエルイアンは、空の台車を押す程度の力で押す。
それを、全員が見ている。
今、台車に荷物を置いた御者達がその光景を見て、ジュエルイアンが、腰を入れて押してないのを、不思議そうに見ている。
「荷物は、こっちに持ってきてくれ。」
カインクムが、荷物を置く場所に行って、ジュエルイアンを招く。
台車は、軽々と運ばれて工房の荷物置場に行く。
「物は試しだ。 二人で台車からここに下ろしてみないか。 そうすれば、この台車の意味が分かる。」
「あぁ、そうしよう。」
そう言って、二人で代車の荷物を持ち上げる。
ジュエルイアンは、荷台を押している時とは違い、かなりの重さを感じる。
「結構、腰にくる。」
ジュエルイアンは、そう言いつつ、荷物を持つと、重そうに台車から持ち上げて床に下ろす。
下ろし終わるとカインクムが、台車の魔法紋の有効性が、ジュエルイアンも理解できたと、判断しつつ話しかけた。
「分かったみたいだな。」
「ああ。」
何のことかと、二人の様子を見ていた御者達だが、何がどうなったのか理解できてない様だ。
不思議そうな顔をしている御者達の所へ、カインクムが代車を持って行って、次の荷物を御者に乗せてもらい、荷物を運ばせる。
「今度は、下ろすのも手伝ってくれ。」
そう言って、代車をカインクムが押して、その後を御者が付いていき、今度は荷物を下ろしてもらう。
先程の箱の上に乗せてもらうが、重い荷物なのでゆっくりと持ち上げる。
全部の荷物を、今の様に運ぶと、ジュエルイアンは御者には先に宿に行ってもらう様に指示する。
カインクムは工房の扉を閉めながら、少しイヤミを言う。
「会頭自ら荷物を運ばせてしまって悪かったな。」
ちょっと意地悪に言うが、ジュエルイアンは、気にもせずに答える。
「この魔法紋を、この箱にも描けば、もっと簡単に運べたな。」
「あぁ、梱包箱に、この魔法紋を描いておけば、積み下ろしも簡単になるな。」
言われてみて初めてその事に気付くカインクムに、ジュエルイアンは尋ねる。
「この台車は、シュレイノリアが、この魔法紋を描いたんだな。」
シュレイノリアが、魔法紋を描いた事を再確認するジュエルイアンにカインクムは答える。
「そうだ。」
ジュエルイアンは、魔法紋の有用性を実感するが、実際に、この魔法紋を描ける様な魔術師が集められないだろうと考えているのだ。
魔法紋を描く職人の手作業を考えると、有用性は認めるが、コスト面に大きく跳ね返る事を危惧しているのだった。
「シュレイノリアに魔法紋を教えてもらいたいのだが、あの魔法を使える奴が居ないんだ。 教えられた通りの魔法紋を描くんだが、どうも上手くいかない。 シュレイノリアの魔法紋は複雑だから描くのに時間がかかりすぎる。」
ジュエルイアンは愚痴をもらす。
一般的な魔法紋は、原本となる魔法紋を見ながら、羊皮紙に書き写していくので、ジュエルイアンはその工数を口にしたのだ。
しかし、カインクムは、ジュエルイアンが可笑しな事を言うなと思いつつ、何気なく話をする。
「あの嬢ちゃん、魔法で魔法紋を描いていたぞ。 なんでも、ジュネスの要求が大きすぎるから、手で描く事が出来ないとかで。」
ジュエルイアンの愚痴に、カインクムが答えると、ジュエルイアンは、その魔法で魔法紋を描くという事に驚いて、顔を白くする。
「なにーっ。 それ本当か。」
魔法紋を描くのに魔法を使うなんて事は聞いた事が無かったので大声を出してしまう。
「あぁ、この台車は簡単に魔法で描いてくれた。 だから台車の魔法紋も、かなり小さな物だっただろう。 ただ、小さくするのは難しいみたいだ。」
「確かにそうだった。 小さな魔法紋だった。 詳しく聞かせてくれ。」
ジュエルイアンが、カインクムに襲いかかる様にして来るので、少し驚きながら、シュレイノリアが魔法紋を描いた時の状況をジュエルイアンに説明する。
話を聞いたジュエルイアンは、シュレイノリアの事を思い出す。
性格に難が有るのかもしれないが、必要以上のことを話そうとしないことを思い出す。
「あーっ、シュレはそう言う娘だった。 聞いた事以外は言わないから見落とした。 魔法紋を魔法で描くのか。」
そう言って、儲け話を見落とした事に落ち込むジュエルイアンだったが、すぐに開き直る。
「済んでしまった事は仕方が無い、これからどうするかだ。 誰かにその魔法を覚えさせよう。 信用出来る魔法職が必要になる。」
カインクムは、何で魔法職が必要なのか疑問そうな顔で、ジュエルイアンに言う。
「それと、今日は人が居たから描かなかったが、あの魔法紋、俺も描けるぞ。」
そう聞くと、ジュエルイアンの顔から、血の気がスーッと引いて、蒼白になっていく。
「いま、なんて言った。」
新たな魔法紋を作り出し、尚且つ、魔法紋を魔法で描いた事に驚いていたにも関わらず、それにも増して、その魔法紋をカインクムが、自分で描けると言った事に血相を変えた。
そのジュエルイアンにビビるカインクムは、まずいことを言ったのかと思いつつも、ジュエルイアンの質問に答える。
「だから、俺にも、あの魔法紋は、描けるって言った。」
ジュエルイアンは、間の抜けた様に口を開けて、カインクムを見るが、直ぐに顔を赤くして、捲し立てる様に言う。
「何でぇ! あんたは、確か魔法使えなかたな。」
表情のコロコロと変わるジュエルイアンを見て、この男でも取り乱す事があるのだと思いつつ、質問に答える。
「あぁ、でも、ジュネスとシュレに教えてもらったらできた。」
「それ、本当か。」
「あぁ、嬢ちゃんの説明だと分からなかったが、ジュネスにシュレの説明を解説してもらったら使える様になった。 魔法って案外簡単に出来るもんなんだと思ったよ。 それと、その台車を動かせるなら魔法の素質は有るって言ってたぞ。 だから、あんたにも魔法の素質が有るって事だ。」
力が抜けてふらつくジュエルイアンは、よろけながら呟く。
「あいつら、魔法の概念まで覆したって事か。 ん、おい、今、最後に何て言った。」
また、ジュエルイアンの顔が青くなる。
それを見てカインクムは、コロコロと表情を変えるジュエルイアンを見て少し可笑しくなるが、顔に出したら何を言われるか分かった物では無いので、少し引き攣った顔でジュエルイアンをみる。




