多対1 〜アトラクト〜
シュレイノリアは、メンバー達の様子も考えずに、 “アトラクト” を使った。
目的の魔物がこちらに向かってくるのが分かるのだが、シュレイノリアの魔法能力を考えると、周辺の魔物がどれだけアトラクトに引っかかったのか、ジューネスティーンは気になったのだ。
慌てて4人に指示を出す。
「姉さんは、あの2体に対処して、他は、周囲の警戒。 向かってくる2体以外に、魔物が向かってこないか、全方位に、向かってくる魔物が居ないか確認して! 」
ジューネスティーンがそう言うと、アンジュリーンが右、カミュルイアンは左、レィオーンパードが後ろを警戒する。
「お前なぁ、安易に魔法使わない。」
そうジューネスティーンがいうと、後ろを警戒していたレィオーンパードが報告を入れる。
「にいちゃん、こっち、3体来た。 結構、遠いけど。」
「チッ! 」
ジューネスティーンは、やっぱりと思って舌打ちする。
「時間的に手前と比べたら、こちらへの到着は、ちょっと遅くなると思う。」
狙っていたアリアリーシャ向けに誘き寄せた魔物より、遅れてくれるのなら、距離も有るのだから、シュレの魔法で対応できるし、最悪でも、アリアリーシャの対応の後でも対処できると考えていた。
「他は、どうだ。」
「「大丈夫だと思う。」」
「シュレイノリアは後方の3体、アイスランスで遠距離でしとめる。 レオンは、左右のフォロー、アンジュとカミューは、いつでも矢を打てる様に準備しておいて。」
矢継ぎ早に指示を出す。
その間にも前方と後方の魔物は距離を詰めてくる。
シュレイノリアは、ロットをかざして、魔法を心の中で唱える。
(アイスランス! )
ジューネスティーンは、シュレイノリアがロットをかざしたのを見て、無詠唱で魔法を放ったと判断すると、ちょっと遠い様に思うが、向かってくる後方の魔物の上空に魔法紋が展開され、魔法紋から棒状の氷の塊が、魔物目掛けて突き刺さった。
かなり遠いと思っていた様だが、問題無かった。
対処が終わると、レィオーンパードが、また、報告してきた。
「あ、右から来る。 3体、方向はバラけているから注意して。」
「アンジュ、分かるか? 射程に入ったら、近い方から順番に弓矢で対応。 レオンはカミューのフォロー。 姉さんの方は? 」
そう言って正面を確認すると、アリアリーシャが、魔物を目視で捉えた様だ。
「あれぇ、なんだか、鳥っぽいですぅ。 だから、かなり早いですう。 少し前に出て、迎え撃つ様にしますぅ。」
そういうと、10m程前に進む。
ジューネスティーンにも魔物が認識できた。
ダチョウの様な鳥の魔物が、すごい勢いで進んでくる。
かなりの距離を突進してくる。
すると、シュレイノリアが、また、ロットをかざす。
(アイスランス! )
アンジュリーンの方向の、魔物1体を魔法でしとめる。
それを見たアンジュリーンが、対抗意識を燃やして1本矢を射るが、遠距離の為少し高めに射ることになった。
しかし、距離がありすぎたのか、回避されてしまった。
そうしているうちにアリアリーシャの方に2体の魔物が迫ってくる。
アリアリーシャは手前の魔物に向かって走り出すと、腰の剣を左手に逆手に持って迎え撃つ。
魔物の正面に向かって走るのだが、接触する直前に右に方向を変えると、左腕を魔物の首元に入れて、首を斬り落とす。
その際、短い羽根を回避する様に体を動かしていた。
アリアリーシャに迫る魔物は先頭の右側、倒した後に後方の魔物の方から少し間合いが空いてしまった。
アトラクトを使ったのは、シュレイノリアなので、アリアリーシャを無視して向かっている。
「1匹躱された。」
それを聞いたジューネスティーンが、アリアリーシャの方に向かって走り出す。
魔物の狙いは、シュレイノリアなのだからその前にでる。
向かってくる魔物を迎え撃つのではなく魔物に向かって走っている。
交差する直前にジューネスティーンは左腰にある太刀を抜いて、魔物の体を躱しながら、下から上に太刀を振るうと、魔物の首を切り落とす。
ジューネスティーンを通過した魔物は速度を急激に緩める。
ジューネスティーンの太刀の一閃で首から先が無くなってしまって、つんのめる様に倒れる。
だが、余韻に浸っている場合では無い。
シュレイノリアの、 “アトラクト” の影響が、今見たものだけとは限らない。
ジューネスティーンは、周囲を警戒しつつ、アリアリーシャに新たな指示を出す。
「姉さんも周囲警戒していて、シュレイノリアに向かってくる魔物への対応は、こっちで行う。」
そう言って、アンジュリーンの方向を見ると、残り2体はアンジュリーンの弓とシュレイノリアのアイスランスで対処が終わっていた。
アンジュリーンとシュレイノリアの対処が終わると、アリアリーシャが、耳をピクつかせて、周囲に視線を走らせつつ、眉をひそめている。
「ちょっとやばいかも。 かなりの魔物が向かって来ますぅ。 それも周り中からですぅ。」
さっきのアトラクトの影響が強く、それに引っ掛かった魔物が、全てこちらに向かってくる様だ。
幸いなことに、障害物の無い草原地帯なので、不意を突かれることは無いが、大量の魔物に襲われるのは嬉しく無い。
弱い魔物でも、数の暴力に対抗するのは厳しい事が有る。
「どの位の数が向かって来ているか分かるか。」
「もう先頭のは直ぐに見えますぅ。」
そう言われて、周囲を確認すると、もうかなり近くに来ているものも1体居て、それにはアリアリーシャが対応に動く。
その1体より先にも、かなり遠くからも様々な魔物が向かって来ている姿が目に入ってきた。
前後左右、それぞれの方向から、だが、組織的に向かってくるのではなく、 “アトラクト” で釣れただけなので、全てバラバラに向かってくる。
それに魔物が狙っているのは、シュレイノリアだけになる。
他の5人には目もくれないはずなのだ。




