新たな剣の材料の調達
カインクムは、フィルランカに朝から甘えられてしまったので、少し照れたような表情をしていた。
しかし、店を出て、素材を購入に行く。
素材を売っている店は、この通り沿いにあり、すぐに用意できる。
カインクムは、いつもの素材屋に行く。
「邪魔するよ。」
素材屋の扉を開けつつ、あいさつをする。
「やあ、カインクムさん。 今日は、どんなご用件ですか? 」
「ああ、この前もらった軟鉄と鋼鉄を、また、欲しいんだ。」
それを聞いて素材屋の主人は、不思議そうな顔をする。
「なあ、カインクムさん。 あんたは、冒険者用の武器が売れ筋商品の鍛冶屋だろう。 鋼鉄はわかるんだが、なんで軟鉄なんだ? 」
「まあ、そうなんだがな。 軟鉄は、材料として必要なんだ。 至る所で使うことになるのでな。」
「それに、鋼鉄だって、今までの硬さより硬いだろう。 軟鉄は、直ぐに曲がりそうだし、鋼鉄は割れそうだし、一体、何に使うんだい? ひょっとして、新しい武器の開発を行なっているのかい? 」
カインクムは、色々と聞かれて、答えに困る。
ジュエルイアンとの話もあるので、詳しい話はしたくないのだ。
「まあ、そんなところだ。 今、色々と試行錯誤をしている。 だから、形とか色々と試しているんだ。 なので、少し素材が多く必要なんだ。」
「ほーっ、新しい武器か。 何か思いついたみたいだな。 そうかい、それなら、その新しい武器の出来栄えが良いことを祈っているよ。 カインクムさんの武器が売れるってことは、うちの素材も多く売れるってことだからな。 いい武器ができることを祈っているよ。」
「ああ、ありがとうよ。 それで、前回頼んだ時の量の5倍の量を用意してもらいたいんだが、あるかい? 」
「5倍かい。」
素材屋の主人は、少し頭を捻っていた。
「ちょっと待ってな。 倉庫の方を見てくる。」
奥に素材屋の主人が消えると、カインクムは、店の奥にある商談用のテーブルに行き、椅子に腰を下ろす。
そして、店の中を物色するように眺める。
製鉄された金属もあれば、溶かしただけだったり、ある程度次の加工を施せるように、細長い板状のものだったり、さまざまな素材が置いてあった。
ただ、店の棚に置いてある金属は、あまり高額そうなものは置いてはない。
高額な素材となれば、鍵のかかった扉の奥に入れてあるのだ。
カインクムが盗みを働くことは無いが、知らない顔の客だと、盗み目当てで、カインクムのような話をして、奥に何かを取りに行った間に盗まれることもあるのだ。
そのため、店番は目を光らせているのだ。
カインクムは、知らないものが見たら、ただ、店の主人が、くつろいでいるようにテーブルに腰掛けているような表情で座っていた。
すると、奥の方から、ゴロゴロと台車の車輪が回るような音とともに、素材屋の主人が現れた。
主人は、台車に大きな箱を2つ乗せて持ってきた。
「この前、買ってもらった素材は、この中のものだ。 前回の素材でよかったら、ここから適当に選んでもらえば構わない。」
「ああ、ありがとうよ。 温めて叩くから、形はどんなのでも構わないんだ。 問題なのは、硬度が安定しているかってところかな。」
「ほーっ、そうなのか。」
素材屋の主人は、カインクムの話を流していた。
「なあ、カインクムさん。 南の王国で、なんだか、とてつもなく斬れる剣が売られているって噂になっているのは、耳にしたかい。」
カインクムは、箱の中の素材を選んでいた手が止まった。
(エルメアーナの剣の話は、ここまで聞こえているのか。 まあ、あの斬れ味なら、話が広がるのは早いのか。)
カインクムは、考えるような表情をしていた。
「ああ、聞いたことがある。 とても斬れるらしいな。」
「なあ、その剣なんだが、あんたの腕なら、同じものを作れるんじゃないか? そんな斬れる剣なら、帝国軍に採用してもらえれば、とんでもない数の発注が見込めるんじゃないのか? 」
カインクムは、どう答えていいか分からなかった。
今、自分が作ろうとしている剣は、その剣なのだが、ジュエルイアンのこともあるので、今、買いに来たその素材が、その剣のための素材だと言うわけにはいかないのだ。
「ああ、そんな剣なら、俺も作ってみたいな。 よく斬れるなら、よく売れるだろうからな。 俺も剣を売れて嬉しいし、お前さんも、素材を俺に売れるから、お前さんも嬉しいわな。」
「そうだろう。 なあ、ちょっと、研究してみてもらえないだろうか、その為なら、少しくらい、こっちも便宜を払うから、考えてみてはもらえないだろうか? 」
カインクムは、困った顔をする。
ただ、カインクムは、その剣の秘密を外に話せないので困っているのだが、素材屋の主人には、そんな難しい剣の研究を話してしまったので、作ることが難しいと思ったようだ。
ただ、カインクムは、苦笑いをすると、素材屋の主人に向く。
「ああ、誰かが作ることのできる剣なら、その秘密さえ知ることができれば、作ることは可能だと思う。 その秘密が分かればなのだがな。」
「そうだろうな。 その秘密を知ることが、一番大変なんだよな。」
素材屋の主人は、少し諦めた表情で答えた。
「だが、俺も、鍛冶屋だ。 研究はしてみるよ。 出来るようになったら、お前さんのところから、素材を買ってやるから、安心しな。」
「ああ、そうだな。 期待してるよ、カインクムさん。」
素材屋の主人は、期待半分、諦め半分のような、微妙な口調で答えた。
(今、買っている素材が、その斬れる剣の素材なんだがな。)
カインクムは、黙ったまま、素材の鉄を選んでいた。
「それじゃあ、これだけ、もらえるかな。」
テーブルの上に、2種類の鉄の山を作っていた。
「ああ、じゃあ、今、入れ物を持ってくるよ。」
そう言って、カインクムが選んだ鉄を入れるための木箱を持ってきた。
その木箱の中に選んだ軟鉄と鋼鉄を分けて入れる。
支払いを済ませると、カインクムは、両脇にその素材の入った箱を抱えて、自分の店に帰っていった。




