ジューネスティーンの魔法
一応、警戒は怠らない様にしてから、ユーリカリア達に話をする。
「あのー。 先程の話は大体分かりましたか? 自分が魔法を使えると思えれば、魔法は使えますが、自分には使えないのではないかとか、無理だとかと思う気持ちが残っていれば魔法は発動しません。 それが理解できれば、後は心の中の問題ですから、それを徐々に魔法が使える様にと持ってくだけです。」
ジューネスティーンは、簡単な様に言ったが、心の中の不安な気持ちや、無理だと思う気持ちを切り替えるのは、実は難しいと思っているのだろう。
切り替えのスイッチになる物を見て訓練したアスリートの様な人でなければ、直ぐには切り替えが出来るものではない。
だが、あえてその事は口にせず、簡単に出来る様に言う事で、誰か1人でも自分が魔法を使えると思い込んでくれれば、魔法は発動する。
今まで魔法が発動しなかった5人の内、1人でも発動すれば、余程の事が無い限り、魔法発動できなかった誰かが出来た事で、自分も出来るだろうと思い込ませる事ができる。
最後の1人になってしまった、その1人をうまくケアできれば、直ぐに全員が魔法を使える様になる。
「それじゃあ、何の魔法から始めましょうか? 」
それを聞いてフェイルカミラが眉を顰めた。
「すまない。 ちょっと聞いて良いだろうか? 」
フェイルカミラは、慌ててジューネスティーンに話しかけた。
「構いませんけど。」
始めようとして、直ぐの質問に少し戸惑った表情を見せるが、慌てる事なくジューネスティーンは対応する。
「今、何の魔法から始めようかと言ったが、魔法は、その人の適性が有るから、使える属性は一つか、多くても二つ程度と聞いたのだが、何でどれから始めようかと言ったのだ。 まるで、どの属性の魔法も使えるみたいだったのだが。」
ジューネスティーンは、そう言うことかといった感じで納得すると答える。
「それは、どの属性の魔法も使えるからですよ。 じゃあ、試しに見せますね。」
ジューネスティーンは、そう言うと、目の前に水の球を作る。
その水の球を作ると地面に落とす。
次に右手の人差し指を胸の前にかざすと、指の先5cm程のところに小さな炎を出す。
5人は相反する属性の魔法を、いとも簡単に使ってしまったジューネスティーンに驚く。
ジューネスティーンは、そんな事は気にせずに指先の炎を消すと、胸の前にかざしていた人差し指を5人の方に振る。
すると、5人の顔に風が掛かり、髪の毛を靡かせた。
明らかに、偶然に風が吹き始めたのではなく、ジューネスティーンの人差し指から流れ出した様に思えた。
それに、指を戻すと、風は起きなくなったことから、ジューネスティーンが、風魔法で風を起こしたと明らかに5人には分かった。
水・火・風と3種類の魔法を披露すると、ジューネスティーンは、右足を前に出して爪先だけ上げてから地面に落とす。
今度は、ジューネスティーンの爪先の前の地面が持ち上がってきて1m程の高さの小さな塀を作る。
4属性の魔法をいとも簡単にこなしてしまったジューネスティーンを見て固まってしまう5人。
ウィルリーンは大魔法使いの弟子で、才能を認められて、その師匠から、全ての魔法を教えられたと聞いていた。
それは生まれ持った才能がなせる技で、誰もが使える物ではなく、稀にその才能を持った者が生まれるが、ウィルリーンからは、魔法職の人でも、新たに別の属性の魔法を覚える事はできなかったと聞いていたし、ユーリカリアはその時の事を見ているのだ。
だからウィルリーンの様な、全属性を使える魔法職が現れるには、あと200年は先の事かと思っていたのだが、目の前で見せられてしまったのだ。
しかも、話を聞く限りでは、シュレイノリアはジューネスティーン以上の魔法職と聞いているので、彼女も全属性の魔法が使えると考えて良い。
そうなるとジューネスティーン達パーティーには、数百年に1人しか現れない全属性の魔法を使える人が、6人全員だという事になる。
(そんな化け物的な能力を持っているパーティーなのか。 自分は、とんでもない連中と一緒に狩をしているのではないか。)
フェイルカミラは、ウィルリーンの魔法を見てきた事で、他のパーティーの魔法職には、無い力を感じていたのだが、ジューネスティーンが、簡単に、様々な魔法を目の前で見せてくれたのだ。
フェイルカミラは、明らかに違うと感じたので、言葉を失っている。
そんなフェイルカミラに変わって、今度は、ユーリカリアが、今の自分の考えをジューネスティーンに聞いてみる事にする。
「すまない、ジュネス。 今の魔法なんだが、それは、お前のところのメンバー全員が使えるのか? 」
ユーリカリアは、恐る恐るジューネスティーンに聞く。
「ええ。 魔法の大きさの違いは有りますけど、全員が使えますよ。」
肯定されてしまった。
ユーリカリアは、顔が引き攣っている。
(こいつらは、全員がバケモノじみた能力を持っているのか。 魔法を簡単に使う。 それが、6人全員なんて、普通じゃありえない。 どこのパーティーでも、1人の魔法職をスカウトできれば、それだけでかなりのアドバンテージなのだぞ。 それが、全員使える。 ・・・。 それなら、簡単に東の森の魔物を倒してしまうだろうな。)
ユーリカリアは、納得したような顔をする。
(それより、私達も幸運なのかもしれない。 こんな機会に巡り会えたのだからな。 ここは、しっかり物にする事が、私達の作戦行動範囲も増えると言うものだ。)
ユーリカリアは、この幸運に喜んでいる。
残りの4人の顔を見ると、不安もあるのだろうが、それ以上に、自分の可能性が広がっている事に希望を見出しているようだ。




