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アイスランスについて


 ウィルリーンは、シュレイノリアに言われるがまま、アイスランスをラクビーボールの様に作ろうとしていた。


 しかし、思った様にいかず、ボールになってしまったり、棒になってしまったりしている。


 それを見たシュレイノリアがウィルリーンに説明を始める。


「流線形にするのは意味がある。」


 そう言って、地面にさっき作ったアイスランスの形を地面に描く。


「これが、さっき私が作ったアイスランスだ。 これがこの方向に進む。」


 そう言って、ラクビーボールの先端側に矢印を描いて進行方向を描くと、その矢印と並行に何本か線を描く。


 矢印以外の線は、ラクビーボールの輪郭に沿って流れる様に上下に描かれ、最初の矢印と反対方向に矢印が描かれる。


「最初の矢印は、進む方向だ。 後から書いた矢印は、空気の流れを描いている。 このアイスランスが進むと、相対的に空気は、アイスランスの後ろに流れる事になる。 止まった空気の中を進むアイスランスから見れば空気が後ろに流れている様になる。」


 そう言われてウィルリーンは頷く。


 すると、今度は、ラクビーボールの下に、同じ大きさの四角を描くと、同じ様にその周りに空気の流れの線を描くが、四角の手前と後ろに円の形をした矢印を描く。


「この様に四角い場合は、手前と後ろにこの様な空気の流れができる。 それは大きくなったり小さくなったりするので、変な動きをする事になる。」


「ああ、なんと無く分かります。 大風の時に体を広げていると後ろに押される感覚ですね。 しかし、後ろにもそんな力が働くのですか? 」


 最後の方は、自問自答する様な言い方になっていた。


「矢印の方向に進む時空気は前に押される。 前方の空気の圧力が上がると、後ろは圧力が下がる。 前方は、前の空気を押している。 後ろは、引いているので減る。 減った部分には、圧力を均等に保とうとして、空気の流入が起きるので、後ろにも乱気流が発生する。 私達は、魔力でアイスランスを打ち出すので、アイスランスを押し出す圧力が後ろに掛からない。 だから、この形が一番理想になる。」


 そう言って、ラクビーボール型の絵の方を指す。


「先端は細くなっているので、変な乱気流が起こり難くなる。 家の側で焚き火をした事があるか? 」


 ウィルリーンは、何か不思議な事を言うと思いつつも頷くと、シュレイノリアが続ける。


「風が、焚き火から家の方に向かっていた時だ。 焚き火の煙が家に向かって進んでいるので、火事になっては困ると、家を見に行った時に気づいた。 壁の側面は煙が流れているが、手前側にも後ろ側にもそんな感じで煙が回っていた。 これは角がある事で発生している。」


 そんな、どうでもよい出来事にも、シュレイノリアは、物事の原理を考えていたのかと、ウィルリーンは感心した様だ。


(この子は、そんな、どうでも良さそうな事でも考えていたのか。 何気ない、当たり前だと思っている事でも原理を考える事が、シュレの魔法に応用されているのかもしれない。 ・・・。 いや、その辺りが、私とシュレの違いなのかもしれないな。)


 自分には、そういった、何気無い、人や、自然が行う現象を、論理的に考えていた事が無かったが、シュレイノリアには、その何気無い現象も、自然の原理として考えていた事が、今のアイスランスになったと、ウィルリーンは理解する。


 だが、氷塊を回転させたのは何故なのか気になった。


「あのー、形が空気抵抗を抑える為の形になっているのは分かりました。 ただ、回転させる必要はあるのでしょうか? そのまま、飛ばせばそれで良い様に思えるのですが? 」


 それを聞いてシュレイノリアは、思っていた通りの質問がきたと思ったのか目が笑う。


「いい質問だ。 その質問が出たと言うことは、理解が深まったと言うことだ。」


 それを聞いてウィルリーンは、何の事なのだと、少し不思議そうな顔をする。


 その顔を見てシュレイノリアは、質問の答えを続ける。


「空気の流れは一定ではない。 乱気流が発生する場所は、角の部分になる。 この様な形にしたとしても、影響が小さくなるだけだ。 高速で飛翔する物に、その小さな空気の乱れが影響を及ぼす。 それにアイスランスの表面にも、目に見えない微細な凹凸は有る。 その影響を抑えなければ弾道は曲がってしまう。 弾丸が方向を微調整できないのなら、その影響を最小限に抑えるには、回転させて、絶えず乱れている空気の流れを360°、全部の面に一定に加わるようにする。 そのために回転させる。」


 目に見えない様な事まで考えて、可能な限り不確定要素の影響を抑える。


 シュレイノリアの考え方には、かなり微細な事まで考慮に入れているのだ。


 目に見えない物でも、思考の中で、どんどん拡大して、表面がどうなっているのか、ミクロの世界まで考えて、その影響を抑えるのかと、感じたのだろう、ウィルリーンは感心する。


 だが、直ぐにウィルリーンも、その影響がどうなるのかを考える。


「つまり、氷塊の表面の凹凸が、直進を妨げるという事なのでしょうか? 回転してなければ、凹凸が影響して曲がってしまう。 回転していたら、一回転したら、抵抗の有る部分は、その影響を全方向に向かって影響を及ぼすから、結果として、進行方向から逸れずに、まっすぐ飛ぶ事になる。 回転させると、部分的な影響が、全ての角度に影響を及ぼすから、結果的に、真っ直ぐ飛ぶということなのでしょうか? 」


「そう言うことだ。 今の説明以外にも回転させる必要は有るが、今はその理解だけでよい。 一度に全部の法則を覚える事は、全部を忘れる可能性がある。 使っているうちに、何か疑問が出てくれば、その時に回答しよう。 その方があなたの知識は広がる。」


「そうですか。 それはその時にはまた質問します。」


 ウィルリーンは、シュレイノリアが、自分のレベルに合わせた方法で、話をしてくれたのかと思ったのだろう。


 何とも微妙な感じを、ウィルリーンは受ける。




 シュレイノリアは、自分のレベルに合わせたレベルで説明をしている。


 それは、自分自身には、自然科学に関する知識が、少なすぎる事が原因だと分かってる。


 午前中のジューネスティーンの計算にしても、まだまだ、自分には足りて無いものが多すぎる。


 シュレイノリアは、それが分かって説明してくれたのだと理解すると、ウィルリーンは、少し申し訳ない気持ちになる。


 自分自身は、魔法だけを極めればと思っていたのだが、自然科学が、大いに魔法にも影響を及ぼすことが、理解できただけでも、収穫が有ったと、自分に言い聞かせることにするのだった。


 ただ、先程シュレイノリアは、焚き火から空気抵抗について理解を深めたと言う。


 そんな、何でも無い事でも、自然科学に照らし合わせて理解を深める。


 自分には、思いも寄らない部分に目を向ける、シュレイノリアの感性が、自分にも持てるのか、疑問に思っているのだ。




 そんな事を考えていると、考えている事が顔に出たのか、不安な気持ちが顔に出たのか分からないが、シュレイノリアが声をかけてきた。


「どうかしたか?」


「いえ、特に、何でもありません。 あなたの様な感性を自分に持てるのか? ちょっと心配になっただけです。」


「そうか。」


 そう言うとシュレイノリアは、ジューネスティーンの顔を見る。


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