凹むかもしれないウィルリーン
ジューネスティーンは、嫌な顔をしている。
一瞬で、魔物の頭を吹っ飛ばしてしまったシュレイノリアのアイスランスなのだが、ユーリカリア達が、今のを見てどう思ったのだろうかと考えると、後ろを見る気にはなれない様だ。
シュレイノリアの魔法をなんて説明すれば良いのかと思って、嫌な顔をしていたのだ。
すると、ウィルリーンが血相を変えて迫ってきた。
「今の魔法は、どう言うものなのだ。 氷の塊が出たと思ったら消えて、気が付くと魔物の頭がなくなっていた。 あれはなんだったんだ。」
ジューネスティーンは、思った通りの反応を示したウィルリーンを見て、困った様な顔をしている。
シュレイノリア以外は、ジューネスティーンを見て、上手く収拾しろといった様な視線を向けている。
シュレイノリアは、詰め寄るウィルリーンに、何をそんなに慌てているのか、分からないといった顔をしつつ答える。
「ただのアイスランスだ。」
「だが、撃ちだした形跡が無かった。」
上空にラクビーボール型の氷の塊が出来たと思ったら、消えてしまったので、その事をウィルリーンは、シュレイノリアに問い詰めるのだが、シュレイノリアは何食わぬ顔で答える。
「極めて早いスピードで撃ちだした。 だから人の目には見えなかった。 それだけだ。」
「眼に見えない速さって! 」
ウィルリーンは、唖然とする。
ウィルリーンが見るものといえば、早いといっても、目に見える速さのものしかない。
鳥や弓矢、投擲の石や槍などでも、その動きは目で追うことが出来るものばかりなのだが、気がついた時には、出てきた氷の塊が消えると、次の瞬間には魔物の頭が無くなっていたのだ。
そんな目にも留まらぬ速さのものを見た事が無かったので、自分の常識から逸脱した話を聞いて顔色を悪くしている。
「音速を超えるスピードで、あの大きさなら、目で見る事はできない。 しかも氷なのだから透明。 見えなくてもおかしくは無い。」
シュレイノリアは、当たり前の事をなんで聞くのかという様に答える。
「アイスランスが、そんなに早く飛ばせるのか? 」
ウィルリーンは、シュレイノリアに質問するのではなく、自分に自問自答するように言う。
「イメージすれば良い。 それだけだ。」
それを聞いてウィルリーンは、引き攣った笑いを浮かべる。
自分の考えている魔法とは違うと思っているのだろう。
あまりに、かけ離れていると思うと、笑うしかない。
「あんな威力のある、アイスランスなんて聞いた事がない。」
ウィルリーンが、シュレイノリアのアイスランスの威力に驚いていると、ユーリカリアが、ウィルリーンの肩を叩く
ユーリカリアは、また、ウィルリーンが凹むと困ると思ったのだろう、収集がつくうちにウィルリーンのフォローのため、シュレイノリアに尋ねる。
「すまない、アイスランスが、なんであんなに早く撃ち出せるんだ。 眼に見えない速度ってどう言う事なんだ。」
カインクムの店の時の事が、ユーリカリアには印象に残っているのだろう。
ただ、あの時もウィルリーンは立ち直った。
ユーリカリアは、ウィルリーンが立ち直る様にと考えて、その切っ掛けを与える為に、2人の話に入ってきたのだろう。
シュレイノリアは、ユーリカリアの思惑など気にせずに、質問された内容を淡々と答える。
「アイスランスは、アイスランだ。 それを撃ち出している。 そのスピードを早くするとイメージしただけ。 それとアイスランスは要するに氷の塊だ。 形は空気抵抗を考えたらあの形になっただけだ。」
そう言って目の前にラクビーボール型の氷を出す。
綺麗に表面が磨かれた様になっている。
「この細長い方向に進む様に撃ち出す。 その時上下左右にブレない様に回転を加える。」
ラクビーボールの氷の塊が、飛ぶときの様に空中で回転が掛かる。
「後は、飛ばすだけ。」
一瞬でアイスランスで作った氷がシュレイノリアの前から消えると、その先の方、300m程先で土煙が上がると、後から「ドン」と、言う音が聞こえる。
「スピードが早ければ、その分運動エネルギーは高くなる。 魔物の頭が吹っ飛んだのはアイスランスの質量と運動エネルギーが優ったからだ。」
ユーリカリアは、シュレイノリアの説明を聞いて、この場所にきた時の話を思い出しているのだ。
ユーリカリアやウィルリーンには知らない知識を、2人が説明してくれた時の事を思い出して、難しい顔をしている。
重力の影響によって落下する長さを、銃と弓でどの程度になるのかを計算を含めて示してくれた事を思い出したのだ。
「それも自然科学なのか? 」
ユーリカリアは、恐る恐るシュレイノリアに聞くと、直ぐに答えは返ってくる。
「運動エネルギーは自然科学になる。 早ければ早い程、エネルギーは高くなる。」
「ほーっ。 成る程。 形もそうだが、スピードを上げることで破壊力が増すのか。」
ユーリカリアは感心する。
おそらく、それは、ウィルリーンの気持ちを、何とか取り戻そうとしているのだろう。
かなり大袈裟に感心した様に見えた。
「スピードを上げる事を考えたら、形がこうなった。 それと回転させるのも軸がぶれない様にするため。」
ユーリカリアは、シュレイノリアの説明を聞いていて自然科学を魔法に応用しているのだと感じたのだろう。
かなり真剣な面持ちで、シュレイノリアの話を聞いていた。
ユーリカリアも自然科学の重要性に気が付いた様だ。




