新大陸の冒険 〜大型の魔物と囮り役〜
大きな魔物が、草原を走っている。
その草原は、わずかばかり、人のくるぶしを軽く隠す程度の草丈しかならない様子で、それも、地面を完全に覆うではなく、所々、地面が見えている。
雨の少ない場所、特有の草原である。
その草原を走っている魔物は、実際には、走っているというより、早足で歩いているといった方が良いかもしれない。
体は、爬虫類のような鱗で覆われており、見るからに分厚く大きい鱗だと、遠目でもわかる。
その魔物は、太い足で地面を蹴るように走っている。
左右の足が、地面に付くたびに、ドスン、ドスンと、腹に響くような大きな音を立てており、草原のような障害物の無い場所なので、かなり遠くまで、その足音が聞こえていた。
目は鋭く口は大きく、時々、低い声で吠えているのだが、その時に三角に尖った歯が見えているので、明らかに肉食の爬虫類型の魔物とわかる。
遠目で見た限りでは、それ程早い感じは受けないが、体長10メートルと大きいため、歩いて見えていても人の走る速さより、はるかに早い。
体は、トカゲのようだが、太い足で二足歩行をしており、足に比べると、貧弱な腕が両肩から伸びている。
尻尾は長く太いので、体の体重バランスを取るため、太く長いのだろう。
腕が細く短いことから、腕を使ってというよりは、口の大きな鋭い牙が一番の攻撃手段といえる。
また、太く長い尻尾を見ると、その尻尾を振り回してくれば、人のような小さなサイズなら簡単に吹っ飛ばせることは間違いない。
その魔物は、尻尾を器用に使いながら、体のバランスを取って走っている。
魔物の大きさに目が取られてしまうが、よく見ると、その手前にサーフボードのような物に乗った、人型の金属製の鎧が、両手でバランスを取りながら滑空している。
明らかに魔物は、手前のサーフボードに乗った鎧姿の者を追いかけている。
鎧を身につけていても、140センチ有るかという小柄なその鎧姿の者は、追いかける10メートル級の魔物から比べると遥かに小さいので、遠目で見たら見落としそうである。
その距離は、追ってくる巨大な魔物の高さと同じ約10メートル手前を、一定の距離を保って滑空しているのだ。
ただ、時々、距離を縮められてはいるのだが、その都度、左右に避けたり、速度を上げてやり過ごしている。
手前の金属製の鎧は、人の形をしており、独立した胸、肩、腰、足、腕に独立したパーツの鎧を組み合わせて作られているが、ただ、頭は、胸の鎧に固定されるように取り付けられている。
それは、地面を滑空しながら、左右に蛇行するようにしているため、その都度、体を軽く捻ったり、腕を上下に振ったりしている。
その動きは、明らかにロボットではなく、人の動きに見えた。
魔物は、前を行くそのボードに乗った鎧姿の人を追いかけているのだが、時々、距離が詰まると、魔物は、顔を低くして、噛み付くような仕草をするのだが、その都度、前のボードに乗った鎧姿の人は、左右に避けたり、その速度が増して、魔物の攻撃を躱していた。
魔物は、手前の鎧姿の人に躱されると、雄叫びをあげて、また、追いかけている。
魔物の手前を滑空している鎧は、パワードスーツといい、自分の体と同じサイズの鎧を身に纏っている。
ただ、一般のフルメタルアーマーのような鎧と違うところは、鎧の中に、体を守るように外装骨格と人工筋肉で覆われており、その外側に鎧を纏っているのだ。
外装骨格と人工筋肉は、中の人の動きに連動しており、体の筋力を増強してくれる。
その力は、パワードスーツの能力にもよるが、最低でも人の10倍以上の力を発揮する事が可能となる。
そのパワードスーツの中では、10メートル級の魔物に追われている、パワードスーツは、通信機を使って仲間達にも伝わっている。
魔法紋によって、変調・周波数変換され、さらに高周波増幅され、電波として外部に飛んでいるのだ。
追われているパワードスーツの中では、通信装置にその悲鳴が流れていた。
「いやぁーっ、こんなに大きいなんて、聞いてないですぅ」
その声の主は、明らかに若い女性の声で、甲高い声なのだが、声音に子供らしさはなく、成人した女性の声に思えるのだが、僅かに甘えるようなつもりで、語尾を伸ばしているようだ。
それは、パワードスーツの中の通信機によって、メンバー達にも聞こえているのだ。
その声を聞くと、想定外の大きさの魔物だったので、少し涙声のアリアリーシャだが、その声には、まだ、余裕がありそうだ。
少し可愛いアピールをしているような感じが伺える。
魔物に追われるアリアリーシャから、離れて並走している、ホバーボードに乗ったパワードスーツがあった。
それは、前衛をアリアリーシャと任されているレィオーンパードである。
レィオーンパードは、仕方なさそうに話す。
「アリーシャ姉さん。 ちょっと、そのスピードで、いやーは、ないでしょ。 いい歳してぇ」
そのレィオーンパードの指摘に、アリアリーシャは、少しイラッとしたのだろう。
「囮りは、離れ過ぎず、近寄り過ぎず、距離が難しいんですぅ。 それに、なんでこんなに大きのよぉ。 聞いてないわよぉ。 レオン! そんな事言うなら代わってあげる!」
アリアリーシャは、ムッとしたように答えた。
「うーん、代わっていいけど、さっき、一緒に逃げたのに、俺の方じゃなくて、アリーシャ姉さんを追いかけたんだよ。 いつも、一緒に囮になる時は、どうしても俺の方を追いかけてくれないんだから、今回も最後まで面倒見てよ」
レィオーンパードの指摘に、アリアリーシャは、内心ガッカリしたようだ。
「そうなのよ。 なんで、いつも私の方に魔物は付いてくるのよぉ! レオンと2人で囮りになったんだから、せめて半分は、レオンを追いかけてくれればいいのに、なんでいつも私ばかり、追いかけてくるのよぉ!」
アリアリーシャは、不満気に文句を言う。
そんな2人のやり取りを聞いていたのだろう。
パワードスーツの中の通信機に別の声が聞こえてくる。
「もう、レオンはアリーシャをからかわないの。 それより、こっちも捉えられそうだわ。 カミューと同時に、ちょっと攻撃してみるから、様子を見ておいて」
すると、アリアリーシャの後ろを追いかけてくる10メートル級の魔物に向かって、1本の弓矢が飛んでくると、その後をもう1本の矢が、最初の矢を追いかけるように飛んでくる。
どちらの矢も手前の方から、弓矢とは思えない程の物凄い速度で飛んできた。
「あらー、こっちが何も言わないのに、もう、矢が飛んできたよ。 アンジュは、せっかちだなぁ」
アンジュリーンの話が終わると同時に、飛んできた矢を見て、レィオーンパードは独り言をいった。




