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剣 〜剣の反り〜


 ジューネスティーンが、曲剣を曲剣として作ろうとしていたことに、シュレイノリアは勝ち誇ったようなドヤ顔をした。


 ジューネスティーンは、しまったといった表情をしたが遅かった。


「ジュネス! 鉄には焼き入れと焼き鈍しがある事を知らないのか。あれを上手く使えば、直剣で作った後に曲げることも可能だ」


 シュレイノリアは、悦にいった様子で話していたが、ジューネスティーンは、終わったといった様子でシュレイノリアの話を聞いていた。


「刃表面の硬度を更に強くするために焼き入れを行う。焼き入れをすることで、表面の鉄の状態が変化するのだ。その変化量を調整してやれば、曲げることも可能なのだよ」


 ジューネスティーンは、それを聞いて嫌そうな表情をした。


「あのー、シュレイノリアさん。その焼き入れの変化量を調整というのは、どうやるのでしょう」


 シュレイノリアは、ジューネスティーンの質問を聞いて、今までの物言いいとは様子が変わってしまった。


 勝ち誇ったような表情だったシュレイノリアだったが、今のジューネスティーンの質問を聞いて、一変して困ったような表情になった。


 その質問に対して、シュレイノリアは、直ぐに答えることは無かったので、ジューネスティーンが口を開いた。


「焼き入れとは、熱していた鉄を水の中とかに入れて、一気に温度を下げる方法だろ。単純に水の中に、熱した剣を入れたら曲がるなんて無理だろう」


 シュレイノリアもその指摘を受けて、困ったような表情をするだけで答えようとはしなかった。


 ジューネスティーンに、ジーッと見られたので、シュレイノリアは視線を逸らした。


 ジューネスティーンは、シュレイノリアの様子から、その答えをシュレイノリアも持っていないことに気がいつた。


「そうだね。単純に熱した剣を冷却してしまったら、その形は変わることはないだろうね。だったら、焼き入れのための冷却する、その前に冷却を遅らせる方法を考えればいいんじゃないか。ほら、刃の方と峰の方で、冷却する時の温度を変化させればいいんじゃないかな」


 そこまで言うと、ジューネスティーンは考え込んでしまった。


 そして、シュレイノリアは、ジューネスティーンに主導権をとられて少し不満そうにしていた。


「そうだな、刃側と峰側の温度の下がり方を変化させる。うーん、刃側の方が早く焼き入れできてくれれば、刃の硬度は更に硬くなって鋭く斬る剣にできるかもしれないな」


 その考える様子を見ていたシュレイノリアは、不満そうな表情から、今度は嬉しそうな表情に変わった。


 シュレイノリアの言葉で、ジューネスティーンにキッカケを与えられた事によって、ジューネスティーンは自分の求める剣をどうやったら手に入れられるか、キッカケを与えられた事で満足しているようだった。


 硬さを追求する刃、それ以外の峰や刀剣の芯の部分は軟らかく、その軟らかい部分が、硬いものを斬る時でも衝撃を吸収してくれる。


 そして、刃の表面の硬さが、硬いものでも斬り裂いてしまう。


 硬い刃の部分である皮鉄かわがねと、軟らかい刀剣の芯の真鉄しんがね、そんなハイブリットな剣を考えていた。


 焼き入れを行う事によって表面の鋼鉄を更に硬くする事と、それが剣を曲げる可能性が出てきた。


 人が物を作る際、シンプルにすると作業は簡単になる。


 複雑にしてしまうと、手工業では限界がある。


 特に剣のように細長いものの場合なら、直線にしたほうが作業は簡単になる。


 鍛治によって曲がった剣を叩く場合、刃厚も刃幅も均等に作る事は難しい。


 特に細身の剣なら、その誤差が顕著に分かってしまう。


 直剣で作る方が、その誤差を確認するためかざして見て厚みと幅を確認しつつ、叩く事が可能なので反った剣を叩くより直剣の方が作りやすい。


 ジューネスティーンは、剣を作ることを考えていたので、可能な限りシンプルに作れることはありがたいと感じていた。


 焼き入れによって反りを作れそうだと思うと、それだけでも不安材料は減った事になった。


 そして、焼き入れの際に、焼き入れの遅れを持たせる事によって、どの方向に反るのかが気になったようだ。


「一番ありがたいのは、焼き入れを遅らせられたら縮む方向になってくれるとありがたいのか」


 ジューネスティーンはニヤニヤし始めた。


 面白そうな方法が見えてきたことが嬉しそうである。


「反りの状況確認をするなら、その前に、焼き入れの遅れを持たせる方法も考える必要があるぞ」


 シュレイノリアが面白くなさそうにボヤいた。


 焼き入れを遅らせる方法が、まだ、見えてない事を指摘した。


 ジューネスティーンは、その指摘を困った様子もなく聞いていた。


「なあ、それって、熱伝導率を落とすって事だよな。それなら、泥とか粘土でいいんじゃねえか」


 ジューネスティーンは何気なく返しただけだが、その一言がシュレイノリアにはムッとした。


 今まで、自分に主導権があったのに、最後の最後でジューネスティーンに美味しいところを持って行かれたと思ったようだ。


 悔しそうな表情で、ジューネスティーンを睨んでいた。


 しかし、そんなシュレイノリアの様子に気がつかないジューネスティーンは、支給されたレイビアを眺めて、今の2人の話をまとめ、新たな斬る剣について構想を巡らせていた。


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