冒険者としてギルドからの支給装備
ジューネスティーンに対してフルメタルアーマーが、ギルドから支給されなかったのは2人にとって誤算だった。
2人は、ギルドから支給されるであろうフルメタルアーマーを改造して、パワードスーツの基礎実験を行う予定だった。
実験的に行うつもりでいたので、パーツで出来ているフルメタルアーマーに関節を取り付けることを考えていた。
外装骨格に装甲を取り付けるという考えからは外れてしまうが、フルメタルアーマーの外側に関節を取り付ける事によって、関節の動きがどうなるのか具体的に検証するつもりだった。
人の外側に防御用の装甲を取り付けるのであれば、昆虫は格好の調査対象だったので、ジューネスティーンはギルドに保護されている間に、パワードスーツの方向性を決めるため常に昆虫の観察を行なった。
それが、ジューネスティーンとしては、パワードスーツの開発のために、昆虫を観察していたつもりだったのだが、周囲は、そんな事が冒険者の役に立つとは思えなかったため、ギルドとしてジューネスティーンの冒険者になるための評価は最低に近いものになっていた。
周囲は、ジューネスティーンが、言葉を覚え始めた時期は、剣を振るったり体を鍛える方向で進んでいたので、冒険者として剣を覚えてくれているのだと思っていたのだが、途中から昆虫の観察を行うことが多くなった事から冒険者以外の道に進むのだろうと判断してしまっていた。
そのため、ジューネスティーンに対して冒険者として活動できるかどうかの判断は最低ランクになっていたので、そんな転移者にフルメタルアーマーを与えても宝の持ち腐れになるのではないかと判断されてしまい許可はおりなかった。
ジューネスティーンに与えられた装備は、皮の胸当て剣を装備するための腰のベルト、ブーツ、そして、辛うじて細い金属の棒が入った皮の小手、頭には、革の帽子なので、防御というにはお粗末過ぎる装備だった。
そのため、シュレイノリアと比べたら明らかに見劣りする装備だったといえる。
装備の面において、2人の格差が大きなものがあったが、それ以上にフルメタルアーマーが手に入らなかったことが、2人にはパワードスーツの開発において若干の遅れが生じた事になった。
2人には、フルメタルアーマーの購入という課題が発生した。
問題は、フルメタルアーマーの費用を捻出するため、魔物を狩ってコアの販売とギルドの依頼をこなして収入を得る事でフルメタルアーマーの購入となってしまった。
シュレイノリアには、魔法の増強効果が高いと言われている宝石付きの高価なロットを用意されたが、ジューネスティーンは、斬る剣が欲しいと言ったが、その体格では斬る剣は振るえないだろうとなりレイビアが支給された。
11歳の少年の武器としたら、体格的にもレイビアの方が都合が良さそうだったのだが、ジューネスティーンとしたら、斬る剣を好んでいたことから残念に思っていた。
しかし、この世界にある斬る剣は、斬れ味を鋭くするものではなく叩き潰すといった棍棒を剣の形にしたような物だったので、まともに刃が付いているわけでは無かった。
振り回して硬いものに剣が当たった場合、剣が折れないように剣幅も剣厚も厚くできているので、ジューネスティーンの考える斬る剣とは全く異なっていた。
この世界の斬る剣は、剣幅も剣厚も厚い事から重かった。
その為、ジューネスティーンのような少年が、簡単に扱えるような代物では無いと判断されてしまった。
その事にもジューネスティーンは、不満を覚え担当者に食い下がったが、世の中に存在しない剣を要求したとしても無理な話だと言われて仕方ないと納得していた。
ジューネスティーンが欲しがった斬る剣について、イメージ通りのものを入手できない事がわかると、ジューネスティーンは残念そうな表情をしていた。
「おい、ジュネス。お前は、これからパワードスーツという未知のものを作ろうとしているんだ。お前の考える斬る剣も、ギルドが知らないなら未知の剣なのだから、パワードスーツ同様に、お前の考えている剣を作ればいいじゃないか」
思っていた剣が、この世の中に無いと言われて、ふさぎ込み気味だったジューネスティーンに、シュレイノリアは喝を入れるような言葉を掛けた。
その言葉を聞き、もっともだジューネスティーンも思ったようだ。
そして、シュレイノリアを見るとニヤリとした。
「その通りだったな。無ければ作ればいいだけだな」
すると、何か閃いた様子で支給されたレイビアを見た。
「俺の欲しいのは、こんなレイビアのような形状の斬る剣なんだけど、このレイビアは、突き刺すようにできていて側面には刃が入ってないんだよ。でも、この側面に刃を入れたいんだ。斬るなら直剣じゃなくてシナリを付けるから、片方だけ刃を入れるだけ。それに、双刃は、自分に返ってくるから片刃だと都合が良いんだ」
ジューネスティーンの話を、シュレイノリアは面倒臭そうに聞いていた。
シュレイノリアとしてみれば、今更、無いものに対して嘆くような様子をしたジューネスティーンの考えが分からないといった様子だった。
「ジュネス。斬る剣というのは、刃に力がかかる。斬り付けた時の力が刀身に掛かるから刃厚も刃幅も厚い。素材が硬い剣なら折れてしまうだろうし、軟らかい素材だと曲がってしまうだろうな。その兼ね合いを考えたら、今の刃厚と刃幅になってしまったのだろう。それに使われている素材においても、それぞれ、作る側のノウハウがあるはずだ」
ジューネスティーンもシュレイノリアの意見に同意するような表情をしたが、その言葉を聞いて、何らかのアイデアが出たようだ。
「そうだな。刃厚、刃幅、素材の硬軟、……、か」
2人は話をしながら、相手の話を含めて自分の考えを整理していた。
ギルドからの話しだけでは思いつかなかった事でも、ジューネスティーンとシュレイノリアが、お互いに話をする事によって、お互いの脳内で整理整頓がされる事から新たな閃きが今までも起こっていた。




