カインクムとジュエルイアン 2
ジュエルイアンは、苦虫を噛んだような表情で、魔境からカインクムを睨んでいた。
ジューネスティーン達との契約の内容を思い出して、カインクムの指摘が正しい事で、反論できない自分の悔しさをぶつける場所が無いので、それが表情に出てしまっている。
ホバーボードについての契約を行っていたが、魔法紋や一つ一つの魔法については契約はしてないのだ。
「契約に無いので工房の中に有った台車に付与魔法を描いてくれたんだが。 まずかったか」
ジュエルイアンは、カインクムの言った通りだと思い、片手で頭を押さえる。
契約したのは、ホバーボードについてなので、加重を減らす事に関する記述はしてない事を思い出す。
「確かにその通りだ。 だが、今の段階で帝国に、あんたとジューネスティーン達が接触している事を悟られるのは不味い。 だから、その話は、もう少し待って欲しい。 それより、それだけなんだろうな」
「まぁ、俺が頼んだ物は、台車だけだった」
「なんだ、その言い方、引っかかるな。 お前さんが絡んで無いところで何かあったのか」
ジュエルイアンは、“俺が“ に、何か引っかかるものを感じたので確認をする。
「いや、うちではなかったが、その魔法を馬車に付与したら、地竜が楽になるって話をしてたから、ひょっとすると、自分達の馬車に、その魔法紋を、今頃付けているんじゃ無いか。 地竜の好物がアップルパイだとかで、うちのカミさんのアップルパイを土産に持っていったからな」
顔に手を当てるジュエルイアンは、細かい事にはお構いなしで、突っ走る可能性がある、ジューネスティーンとシュレイノリアに頭を悩ませる。
どちらも、理系関係で、経済的な事や、その技術が及ぼす影響を考えてない。
それが、この大陸ではどこも封建社会が続いていて、権力者の妬みなどお構いなしなのだ。
そんな事にジュエルイアンは頭を悩ませている。
「あぁ、その話の内容だと、もう、あいつらの馬車に、その魔法紋は刻まれているだろう。 帝国内で目的以外で目立って欲しく無かったのだが。 だが、本当にそれだけなのか?」
カインクムは、ニヤリと笑うと、これからが本題だと言うような顔をする。
「ああ、それよりも面白い事を思いついた。 それを聞いてもらおうと思った」
カインクムのその話し方を気にする。
「なんだ、随分と勿体ぶった話し方だな。 だが、面白い話は聞く」
カインクムは、魔法紋を教えてもらった時の話をする。
水瓶に水を貯める魔法紋で、それは、一定の水量になると止まる事、その水瓶に軽量化の魔法紋を施した事で、重い水瓶も簡単に持てるようになった事を話す。
「それで、その水瓶なんだが、上に置いた状態で、細い管で下に引くんだ。 その先端には、水を止められるコックを付けて置いたら、水は、止めたり出したりできる。 水が無くなったら、魔法紋に手を翳せば、水は水瓶の中に溜まる事になる。 水の勢いが必要なものは、水瓶を高く配置するが、必要なければ、台の上に置くだけでも構わないからな。 それが一つあれば、水汲みに井戸まで行く必要も無くなる」
考え込むジュエルイアンが後ろにいるヒュェルリーンに指示を出す。
「すまんが、帝国に行く準備を頼む。 ジューネスティーン達に確認したい事もあるが、今の話も興味がある。 帝国行きの準備と不在時の職務の代行をお願いできるか」
ヒュェルリーンは、笑顔をジェルイアンに向ける。
「かしこまりました。 では、移動用の馬車の手配と、宿は、金糸雀亭にお願いしておきます。 それと、帝国支店の方に連絡も入れておきますので、報告はそちらに届くようにしておきます。 その様子ですと、お戻りは未定ですね」
ヒュェルリーンは、話の内容からテキパキと今後の予定をジュエルイアンに語りかけた。
「あぁ、よろしく頼む。 それと、あの剣を用意しておいてくれ」
ヒュェルリーンにそう言うと、ジュエルイアンは、鏡に向かって、カインクムに話しかける。
「あの連中は、機密の塊みたいな連中なんだ。 不用意に変な事は頼まないでくれ」
「そのお陰で、新しい商売が出来たように思えるが、……」
ジュエルイアンの話から、ジューネスティーン達の技術を利用した新商品の開発も行っている事から、今後は新たな商品販売で儲けるつもりだと気がついたカインクムは、それ以上の話はしなかった。
「確かにその通りなのだが、帝国の動きが心配だ。 あんたも目立たないように頼む。 次は、そっちで会う事になる」
「ああ、分かった。 なるべく目立たないようにする」
「それと、あいつらの支払はこちらで全て持つから、安心してくれ。 何か店の物で欲しいものが有ったら、渡して欲しい。 その費用もこちらで持つ。 それと、今日のように報告はお願いする。 情報料も支払うので宜しく頼む」
「さすがお得意ようだ、助かる。 ちょうど、ジュネスに一つ見せたいものが有ったのだが、どうしようかと思っていたんだ。 あのあんちゃんなら、使いこなせるとおもうんで、必要だった時は、そっちに付けておくから、その時はお願いする」
「けっ、この、商売上手が、抜け目無いな」
「それは、お互い様ってもんだ」
「じゃあ、次は帝国で会う事になる」
「分かった」
そう言うと、ジュエルイアンが通信を切ると画面が戻って、カインクムを写す。
立ち上がって、通信室を出て、さっき案内してくれた女性に挨拶をしてギルドのロビーに行く。
ロビーには多くの冒険者が戻ってきており、今日の稼ぎの魔物のコアの換金やら、依頼の完了やらで賑わっていた。




