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カインクムの新居  〜内見に夢中になるフィルランカ〜


 リビングに入るとフィルランカは更に嬉しそうに周りを見渡すと、二つ並んだテーブルの間に行くと、片手の指をテーブルに置いて撫でるように反対側まで指先の感触を確かめながら、視線は、二つのテーブルを交互に見ながらゆっくりと歩いて行った。

 そしてテーブルの反対側に付くと、壁を間近で確認するように見ながら横に移動して行った。

(フィルランカのやつ、本当に嬉しそうにしてるじゃないか)

 そんなフィルランカを顔を綻ばせてカインクムは目で追っている。

「どうですか、ここの壁は、魔法士が錬成魔法で外観を作ってますけど、内装は木材を使っていますから、優しい感じがすると思います」

 フィルランカの様子を見つつツバイエンはカインクムに説明していると、フィルランカはキッチンに向かった。

 備え付けのカウンターキッチンには、大きな釜戸が二つと小さな釜戸が一つ設置されており、その上にはダクトも有り、釜戸はカウンターと一体になっているので、釜戸で作った料理を横にズラす事も可能だった。

 そして、引き出しも戸棚も豊富に取り付けられているのを一つ一つ潤んだ目で眺めていた。

「どうです。うちの魔法士が錬成した釜戸は? 錬成で作っていますから釜戸で作った熱い鍋を置いても問題ありません」

 フィルランカの様子を見てツバイエンが説明するように声を掛けると、フィルランカはニコリと笑顔になるが視線はカウンターから離れる事はなく指先で確認するように滑らせた。

「とても、素敵です」

 一言答えるが、フィルランカの視線は、そのカウンターの天板から離れる事なく感触を確かめていた。

 錬成魔法によって作られたカウンターの天板は、ひんやりとしているが、表面は滑らかでざらつく様子も無かったから、フィルランカは感触を楽しんでおり、話より天板の感触を楽しんでいた。

 その様子をカインクムは微笑ましいというように見ていた。

(ほー、カウンターの天板は錬成魔法で作っているなら、表面は鏡のように平らなのか。きっと、腕の良い錬成魔法を使う魔法士を連れてきたんだろうな。……。ああ、そうか。俺も剣の表面を鏡面仕上げにして自分の顔が綺麗に映った時は、本当に気持ちが良いからなぁ。きっと、フィルランカも同じような事を思っているのかもしれないな)

 カインクムは朗らかな表情で入口に立ったままフィルランカの様子を伺うだけで、リビングを細かく確認するような事は無かったが突然表情を曇らせた。

(家具付きの物件? ジュエルイアンは、今の家賃と同じで構わないらしいが、この物件って、普通に借りたら家賃はどうなるんだ? 家具だって揃っているってレベルじゃないだろう。最高級の家具が揃えられているなら、10倍なんてもんじゃない! おいおい、ジュエルイアン、大赤字じゃないか)

 そんなカインクムの様子を気にする事なくフィルランカはキッチン周りを隅々まで嬉しそうに確認していた。

 その表情を見たカインクムは、強張った表情が緩んだ。

(さっきの涙も忘れて、……。まあ、フィルランカが気にいるなら、それで構わないか)

 フィルランカの嬉しそうな表情がカインクムには眩しく思えたようだ。

(ここは、俺よりフィルランカが使い易い事が一番だろう。小さい頃から俺とエルメアーナの料理を作ってくれていたから、フィルランカの方が詳しいはずだ。俺は、座って食べるだけだろうからな)

 フィルランカの動きを目で追って様子を眺め、満足そうな笑みを浮かべていた。

「どうだ? フィルランカ、お前の目に叶うのか?」

 カインクムが聞いてもフィルランカは、カウンターの天板から目を離す事はなく嬉しそうに笑みを浮かべていた。

「とても素敵なキッチンです。ここなら、手間の掛かる料理も簡単にできそうです」

「そうか」

 2人の会話を聞いてツバイエンもヒュェルリーンから指示された通り移ってもらえそうだと微笑んだ。

「ああ、キッチンは、ここより小さいですけど2階にも有りますよ。ここは、従業員や職人さんも使う事になるでしょうから、2階は家族だけで使えるようになってます」

 その言葉を聞いてフィルランカはツバイエンを見た。

「店舗兼家屋ですから、家屋としての機能もしっかり準備してありますから、ご安心ください」

 今まで住んでいた店舗兼家屋では、エルメアーナを含めて3人だけで住んでおり、従業員も職人も雇っていなかった事から、キッチンは一つだけで小さなテーブルも3人だから問題無い広さだった。

 辛うじて3人が部屋を持てる程度で二つのキッチンというのは思いもよらない設備だった事から、フィルランカは興味深そうにツバイエンを見ると、今までの様子とは打って変わって、スタスタと歩いて行くと潤んだ目で覗き込んだ。

「見たいです」

 フィルランカは、懇願するように握った両手を顎の下に添えて答えたので、ツバイエンは視線にも驚いたようだ。

(か、かわいい)

 顔を少し赤くして、片足を後ろに下げた。

 十年以上カインクムとエルメアーナの為に食事を用意していたフィルランカとしたらキッチンは特別な思い入れがある。

 これからカインクムと2人の新居ともなれば、キッチンと聞いたら確認しないわけはない。


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