表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

778/1356

イスカミューレン商会 2


 イスカミューレンは、ジュエルイアンの話を聞いて驚いた。


 しかし、直ぐに気を取り直した。


「そうか、リズディアの構想の中の3人の1人は、カインクムに持って行かれたのか。 ……」


 イスカミューレンは、仕方なさそうな表情をした。


 リズディアが、欲していた、フィルランカ、モカリナ、イルーミクは、帝国大学でも優秀な成績で卒業している。


 イルーミクは、イスカミューレンの末娘なので、家の者から言われれば、イスカミューレン商会に入るだろうと思われていた。


 しかし、高等学校2学年までは、鳴かず飛ばずの成績だったが、3学年になって、フィルランカとモカリナと一緒に過ごすようになると、一気に成績を伸ばしている。


 そして、帝国大学に入ると、3人は、首席や次席を取る事は無かったが、上位をキープしていた。


 そんなこともあり、リズディアだけでなく、イスカミューレン商会としても、この3人をイスカミューレン商会に招きたいと考えていたのだ。


「フィルランカは、養女に入ったのではなく、嫁に入ったと思っていたみたいですよ」


 それを聞いて、イスカミューレンは、なるほどというような表情をしたが、直ぐに、不思議そうな表情をした。


 そんなイスカミューレンに構う事なく、ジュエルイアンは、話を続ける。


「フィルランカに言わせれば、10歳の時に、嫁としてカインクムの家に入って、正式な嫁になるのは、10年後だと思ってたみたいなんです。 ただ、10年後の20歳の時は、帝国大学に在学中でしたから、それは、カインクムが良くないと、卒業まで、待つように言ったようなのです。 カインクムは、その間にフィルランカに考え直させようと思ってたみたいです」


「ほー、それじゃあ、それまで、何もなかったのか」


 イスカミューレンは、何か、いやらしい事を考えたのか、ニヤニヤとした。


 ジュエルイアンは、そんなイスカミューレンの表情を確認するが、それには、構わずに話し出した。


「ええ、カインクムは、養女にしたつもりだったので、娘のエルメアーナと、同じつもりで接していましたから、カインクムには、嫁にするつもりなど、一切無かったみたいです。 なので、フィルランカに釣り合いの取れそうな相手を、殿下リズディアに頼もうとしたみたいなんです。 それで、フィルランカが、追い詰められて、カインクムが寝ている間に、夜這いをかけたというのが、実情です」


 イスカミューレは、フィルランカが、夜這いをかけたという言葉に、反応していた。


 イスカミューレンとしても、自分が女性に夜這いをかけられた経験が無いので、その話が新鮮に思えたようだ。


「おお、カインクムは、自分から、食ったわけじゃないのか。 フィルランカは、可愛くてスタイルもいいって話じゃないか。 そんな女が、同じ家に居たというのに、それまで何もしてなかったのか。 ……。 カインクムは、まるで、聖人のようだな」


 イスカミューレンは、羨ましそうな表情をして、間にチャチャを入れてきた。


 それを、ジュエルイアンは、聞いて、一瞬、イスカミューレンを、スケべ親父と見たようだが、直ぐに表情を戻した。


「親父殿は、娘程の女を何人も持っていますから、年齢の違いとか、気にしないでしょうけど、カインクムは、ただの帝国臣民ですよ。 エルメアーナが小さい時に、最初の嫁を無くしてからは、ズーッと独り身でした。 何人も妾を持つなんて事は、ありませんから」


 イスカミューレンは、爵位の無い貴族だが、自分の商会も安定した利益を得ているので、懐具合も良い。


 そのため、数名の妾を持っており、そこから、イルーミクのような子供も授かっている。


 そんなイスカミューレンの感覚からしたら、24歳程度の歳の差など、気にも止めるような事では無い。


 女は、女であって、お互いに楽しめば良い相手なのだ。


 裕福な貴族にとって、女性との関係は、その程度のことでしかない。


 そんな感覚からしたら、12年も手をつけなかった、カインクムの感覚は、聖人のように思えたようだ。


「人には、人それぞれの考えがありますから、全員が、親父殿のような感覚でいるとは限りません。 立場も違えば、考え方も変わります」


「そうか、そうだったな」


 イスカミューレンは、納得したようだ。


「だが、惜しい事をしたな。 カインクムは、リズディアに、フィルランカの婿候補を、お願いしようとしていたのか。 それが、叶っていたら、リズディアは、今年の帝国大学を卒業した、3才女を得ることができただろうになぁ」


 イスカミューレンも少し残念そうにボヤいた。


「しかし、カインクムが、そんな事を、フィルランカに言わなかったら、フィルランカも追い詰められなかったでしょうから、夜這いをかけることはなかったでしょう」


 イスカミューレンは、ジュエルイアンの言葉に、がっかりした。


「そうか、カインクムが、フィルランカに話す前に、リズディアに話をしていたら、フィルランカも、うちの商会に入ったかも知れなかったって事か」


 それを聞いて、ジュエルイアンは、少しムッとしたようだ。


 3人全てをイスカミューレン商会に持って行かれたかもしれないと思うと、ジュエルイアンは、イスカミューレン商会と、リズディアに負けたような思いになるのだ。


 これだけ、カインクムとの関係が近いジュエルイアンでも、フィルランカまでイスカミューレン商会に持っていかれたら、自分に才能が無いと言われているように思えるのだ。


 しかし、ジュエルイアンは、その事は、心に秘めて話を続けた。


「手順が狂うと、思いもよらない横槍が入ります。 きっと、カインクムが、こっちに話に来ると言った、その夜が、フィルランカにとって、最後のチャンスだと思ったのでは無いでしょうか」


 ジュエルイアンの話を聞いた、イスカミューレンも同意したような表情をした。


「そういうことだったのか。 ……。 まあ、仕方がないな」


(カインクムの店とも、取引が始まっている。 ジュエルイアンに、カインクムとの取引を完全に持っていかれてから、やっと、こっちとも取引が始まった。 これは、リズディアの力が大きいが、欲をかきすぎると何もかも失ってしまうものだ。 ひょっとして、最初にフィルランカの婿をという話が、フィルランカに話される前に、リズディアにでも話をされていたら、……。 誰も、フィルランカを得ることは出来なかったのかもしれないな。 今は、この状況を最善だったと思って、満足することにした方がいいな)


 イスカミューレンは、ジュエルイアンの話を聞いて、少し考えるような表情をした。


「今は、ジュエルイアンの情報の通りに、カインクム夫婦は、第9区画で鍛冶屋を営んでもらった方がこっちとしても、ありがたいのかも知れないな。 ……。 フィルランカが、帝都でカインクムの仕事をしてくれることを、今は、喜ぶことにしよう」


 イスカミューレンは、納得したようだ。


 それを聞いて、ジュエルイアンもホッとしたようだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ