イスカミューレン商会
ジュエルイアン達は、帝都での仕事は、確認と指示のみを行うことで、カインクム家の修羅場から、2日後には、帝都を出発する準備が整った。
その間、エルメアーナは、ヒュェルリーンの宿の部屋から出る事はなかったので、ヒュェルリーンは、エルメアーナの身支度をどうするか考えたのだが、帝都を出る前に、旅支度用のバックを用意するだけで終わらせていた。
カインクム家に戻って、身支度をさせようかとも思ったようだが、エルメアーナの精神状態を考えたら、家に戻って、身支度を整えるわけにもいかないと、ヒュェルリーンは考え、自分と同じような物を用意したのだ。
カインクム家のエルメアーナの荷物については、フィルランカに、全てを新しい家に運んで、そのまま、いつでも、エルメアーナが、帰ってきても、問題無いように、管理する指示を、ヒュェルリーンはだしていた。
ジュエルイアンは、カインクムの店の移転を、ギルドのユーリルイスに伝えると、イスカミューレン商会に挨拶に向かった。
イスカミューレン商会の、筆頭支配人であって、イルルミューランの父親である、スツ・メンヲン・イスカミューレンに挨拶に行った。
ジュエルイアンは、カインクム家のことがあったので、リズディアと、今年イスカミューレン商会に入ったモカリナ、そして、イスカミューレンの末娘のイルーミクには、顔を合わせたくないと思っていたようだ。
ジュエルイアンは、イスカミューレン商会の建物に入る。
イスカミューレン商会は、帝都の第1区画の南門を入ると、右側に建っている。
その建物は、大きな口の字型をしており、建物の手前は、1m程の堀が掘られて、地下で水路と繋がっているようだ。
入り口は、東西南北の建物の中央部に一ヶ所、門があり、常に開かれている扉が、用意されていた。
扉は、まるで城門のように分厚く頑丈そうな扉になっており、一度締めらたら、簡単な攻撃では突破できそうもないと、見ただけで理解できる。
建物の外側は、1階は、縦に細長いスリッド状になっており、そのスリッドの幅は、小さな子供の頭が入るかどうかと言うほど、狭いのだが、床から、天井まで、細長く切られていた。
2階も3階も、通常の窓のようだが、金属で作られた扉が付いており、閉められたら簡単に壊すことはできそうも無い。
イスカミューレン商会の建物は、皇城を守るための出城のような作りになっていた。
ジュエルイアンは、いつも通り、第1区画の南門を抜けると、そのまま、皇城に向かって作られている、大通りを進み、イスカミューレン商会の西門から入って行った。
門を抜けると、口の字がたの建物の内側は、店構えがされており、さまざまな店が、営業していた。
そして、その中央に四角い建物があり、そこに、イスカミューレン商会の本店がある。
周りの建物の中には、イスカミューレン商会傘下の店が林立しているのだった。
貴族を中心にした商品もだが、貴族の荘園で使う物も、そして、食糧も必要に応じて、売買しており、そこには、帝国で販売される物なら、全て揃いそうなほど、商品は、充実していた。
ただ、小売もお行うが、店にある商品を確認して、それを大量発注して、貴族の荘園に届けたり、また、商人や、職人達からの注文を受けて、その店に届けて設置をする。
または、開拓や開墾の商談などを、傘下の店で行うことが多い。
ジュエルイアンは、イスカミューレン商会の内側の活気を見つつ、中央の建物の前に馬車を止めた。
馬車から降りると、そのまま、中央の建物に向かい、正面の扉から、中に入ると、受付が、ジュエルイアンを確認し、すぐに、ジュエルイアンを貴賓室へ案内した。
ジュエルイアンは、以前、ここで、仕事をしていたこともあるので、その頃の人物達から、時々、話しかけられ、応対していた。
貴賓室に入ると、壁に掛かった絵画を確認していると、入り口の扉が開いた。
「おお、ジュエルイアン。 今度は、ゆっくりできるんだろうな。 たまには、息子夫婦とだけじゃなくて、俺とも付き合え」
イスカミューレン商会の最高責任者であり、皇帝ツ・リンクン・エイクオンの親友であり、イルルミューランの父であり、リズディアの義父となるスツ・メンヲン・イスカミューレンが、来賓室に現れた。
「お世話になっております。 今日は、南の王国に帰るので、その報告に来ました」
「おい、お前、なんで、俺を避ける。 せっかく来て、顔を見せたら、帰る報告とはな。 それは、ちょっと、寂しいだろ」
「申し訳ありません。 しかし、うちの本店の方で、約束がありますので、帰らないといけないのです」
「そうだったのか」
イスカミューレンは、残念そうな表情をした。
だが、直ぐに表情を戻した。
「それより、ギルドから依頼されていた鍛冶屋は、見つかったのかな」
ジュエルイアンは、一瞬、鋭い目をするが、直ぐに戻した。
「それは、どこからの情報なのですか?」
ギルドから依頼を受けている内容について、ジュエルイアンは、商会内部でも数名にしか話していない内容だったこともあり、それに、第9区画に入る鍛冶屋が、カインクムに決まったが、それは、2日前の事だった。
イスカミューレンの、思惑あり気な話し方には、全て見抜かれているように思えたようだ。
「ええ、第3区画に店をだしていたカインクムが、嫁と一緒に入ってくれる事になりました」
それを聞いて、イスカミューレンは、初耳だと思ったことがあった様子で、一瞬、顔付きが変わったが、それも、直ぐに戻った。
「嫁? カインクムに嫁?」
ジュエルイアンは、イスカミューレンの様子から、どこまでの情報を知っているのか探ったようだ。
その中から、フィルランカが、カインクムの嫁になった事を、イスカミューレンは、知らなかった事が確定した。
それは、リズディアも、その情報は、知らないと言う事になる。
ならば、カインクムの嫁が、フィルランカという事も、イスカミューレン商会の中では知られてないと思われる事になり、その情報は、ジュエルイアンとしては、この場で教えた方が、イスカミューレン商会としたなら、情報の価値は高いとジュエルイアンは判断したようだ。
ジュエルイアンが、思考を巡らせていると、イスカミューレンが口を開いた。
「そういえば、カインクムの家には、帝国大学を、うちのイルーミクと、それに今年入ったナキツ家のモカリナと一緒に卒業した、娘がいたはずだな。 リズディアが、引き抜けなかったと残念がっていた、……。 確か、名前を、……、ランカ? ……。 そうだ、フィルランカと言ったな」
ジュエルイアンは、イスカミューレンが、フィルランカの名前を知っていた事が、意外に思えたのだが、末娘のイルーミクの友人となったら、名前位知っていても不思議ではないと納得したようだ。
「そのフィルランカが、カインクムの嫁になりました」
「……」
イスカミューレンは、一瞬、声を失った。
しかし、直ぐに気を取り直したと様子で、ジュエルイアンを見た。




