ジュエルイアンの提案とフィルランカ 2
本来、カインクムとフィルランカの問題と、それに伴った、エルメアーナとの間に起こった問題は、家庭内の問題なので、ジュエルイアンが、口を挟むような事ではない。
しかし、それを3人に気が付かせてしまったら、ジュエルイアンは、これ程、良い条件下で、カインクム達に交渉可能とは思えなかったのだ。
よって、フィルランカが家を出て、カインクムとエルメアーナが、一緒に暮らすという提案を、ジュエルイアンは、フィルランカに考えさせる余裕を与えないで、一気に否定する必要があったのだ。
特にフィルランカは、帝国大学でも優秀な成績を収めている。
そんなフィルランカを、正常な思考に戻してしまったら、ジュエルイアンの提案についての矛盾を指摘され、自分の描いた筋書きとは違う提案をされたら、ジュエルイアン自身も反論できない可能性がるのだ。
ジュエルイアンは、フィルランカが、カインクムとの情事を、エルメアーナに知られて動揺している、この状況を最大限に利用する必要があるのだ。
「お前達、2人のお陰で、こっちは、頭を使っているんだ。 全員が、幸福になる方策を提案している。 だから、フィルランカ、お前1人の感情で、計画を変更するわけにはいかない。 これは、お前の描く、幸せの為でもあるんだ。 だから、ここは、俺に、従ってもらう」
ジュエルイアンの言葉に、言い返せないフィルランカは、俯いてしまっている。
彼女にしてみれば、勇気を振り絞って、親娘の為にと思って、お願いしたのだろうが、その提案はあっさありと、ジュエルイアンに否定され、なおかつ、この提案は、フィルランカ自身の幸せの為でもあると言われてしまうと、言い返せないようだ。
(まだ、フィルランカの思考は、停止したままだな。 だったら、このまま、一気に話を持っていった方がいいだろう)
だが、ジュエルイアンの提案には、3人の思惑以上に、ジュエルイアンの思惑が、大きく乗っているが、フィルランカには、そんな事は、感情の昂りからか、気がついていなかったようだ。
ただ、ジュエルイアンの提案を受ければ、フィルランカは、カインクムの嫁として、この帝都で、新たな家と店で暮らす事になるのだ。
結婚して、新たな家で、カインクムと2人の生活が送れると考えたら、ジュエルイアンの提案を強く否定することは、できずにいるのだ。
確かに、自分の愛する人と一緒に暮らす事ができるのなら、それは有難い事だと、誰もが思う事なのだから、フィルランカにはメリットしかない。
そして、新たな家で、新たな生活が可能となるなら、フィルランカには、願ってもないことになる。
ただ、フィルランカとしたら、自分の希望が、好条件で叶うような方向で、話が進んでしまっているのだが、その条件の中に、エルメアーナと別れて暮らす事がある。
フィルランカとカインクムの新生活の為に、エルメアーナが去っていく事になるので、フィルランカは、エルメアーナに対して、カインクムと別れさせる事になる。
それか、フィルランカには、後ろめたさを感じさせているのだ。
フィルランカは、カインクムとエルメアーナを別れさせる事が、たまらなく、切ない事だと思えたので、勇気を出してジュエルイアンに提案をしたのだが、ジュエルイアンに、あっさりと、否定されてしまったので、黙って、俯いたままでいた。
そんなフィルランカの表情を見て、ジュエルイアンも困った様な顔をする。
「エルメアーナだって、もう大人なんだ。 お前とカインクムの行為は、驚いただろうけど、それは、人として、……。 いや、生物としての本能なんだ。 誰もが、必ず通る道なんだ。 時間が経てば、エルメアーナも、お前の事を理解してくれるはずだ。 ……。 だから、今は、俺に任せてもらえないか。 これは、きっと、時間が解決してくれる内容なんだ。 エルメアーナも、大人になれば、お前のことも許してくれるさ」
今度は、優しくジュエルイアンは、フィルランカに伝えるので、フィルランカも、少しだけ、気持ちが楽になったのか、肩の力が、抜けたように見えた。
「それと、これは、俺だけの考えかもしれないが、生物的に考えると、夫婦になる為に、選ぶ権利は、雌に有ると俺は考えている。 鳥でも何でも、雄は雌にアピールして、自分の子供を宿してもらいたいと考えて、他の雄より、強くだったり、綺麗さを競って、雌の気をひく努力をしているんだ。 お前が、カインクムを選んだなら、カインクムには拒否権は無いんだよ。 だから、その辺は、安心しろ。 それに娘は、自分の親を夫として、選ぶ事は無い。 エルメアーナも男を選ぶが、エルメアーナが実の親であって、血のつながりのあるカインクムを選ぶことは無い。 今後、エルメアーナに好きな男ができても、それはカインクムではない。 エルメアーナが、男を選んだ時、お前が、エルメアーナの父親の面倒を見ているなら、エルメアーナも、その時は、安心して、好きな男に、嫁げることになる」
フィルランカは、そこ迄、聞くと、さっきよりは心が晴れてきたようだ。
その様子を見たジュエルイアンも、フィルランカが、少しずつ、落ち着いてきた事に、安心したように、表情を柔らかくしている。
「多分、今は、エルメアーナも、気が動転している。 ……。 うちのヒュェルリーンが見ているが、エルメアーナには、お前達の行為を見た以上の、何かがありそうだ。 小さい時に何かあったのかもしれない。 まあ、少し冷却期間を置けば、また、元通りになるかもしれないな。 だから、今は、エルメアーナの事は、俺達に任せておいて欲しい」
今の一言で、ジュエルイアンは、自分の思惑を隠しつつ、3人に対して、正当性のある提案ができたと思ったようだ。
そして、フィルランカは、少し間を置いてから、ジュエルイアンの話に頷いた。
「わかりました。 私は、ジュエルイアンさんの提案を、受け入れます」
それを聞いて、ジュエルイアンは、ホッとした。




