ギルドへの登録 7
ギルド支部の受付に、ギルドマスターであるエリスリーンが現れたことで受付嬢達は緊張をしたようだ。
それは、エリスリーンが、全く受付のフロアーに顔を出すことがないのに、顔を出した事に驚いていた。
「シュレイノリア、ギルドへの登録は済んだの?」
「ああ、今、終わった」
エリスリーンに聞かれると、シュレイノリアは、いつもの口調で答えていたので周りの受付嬢達は一斉にメイリルダを見た。
年齢的にも役職的にも上であるエリスリーンに対する言葉遣いではない事を、周囲の受付嬢達は、メイリルダに何を教えていたのかと言わんばかりの視線を向けていたので、メイリルダは、その視線を痛いと思ったようだ。
そんなメイリルダの様子も確認しつつ、エリスリーンはジューネスティーンを見た。
「お前の方も、登録は終わったのか?」
ジューネスティーンは頷いた。
「ええ、シュレより先に終わらせてます」
エリスリーンは、その答えを聞くと満足した様子でフッと息を軽く吐いた。
「そうか、だったら、その魔道具について、私が知っていることを教えてあげるから2人とも私の部屋に来なさい」
シュレイノリアは、エリスリーンの言葉に自身の興味の内容を知る事ができると喜ぶと、エリスリーンはメイリルダを見た。
「メイリルダも一緒に来なさい」
エリスリーンは、当たり前のようにメイリルダも呼ぶと、エリスリーンは言いたいことだけ言ったから、ここにはいる必要が無いないと言わんばかりに受付から出ていった。
その様子をメイリルダは、見送るだけだったのだが、周囲は扉が閉まると慌て始めた。
それは、メイリルダが動かなかった事にある。
ギルド支部のトップに言われたのだから、直ぐに動く必要があるだろうと周りは思っていたので、本来ならエリスリーンの後を追うように、2人の転移者を連れて行くのが当たり前の事なのに、メイリルダが動こうとしなかった。
周囲は、トップから指示を受けたなら、直ぐに今の仕事を放置してでも動くものだと思っていたのに動かない事に周囲が苛立ったようだ。
「メイリルダ、なんで動かないのよ!」
「えっ!」
キョトンとした様子でメイリルダは、声を掛けてきた同僚の受付嬢の方を見ると、同僚の受付嬢は苛立った表情をしてメリリルダを見た。
「あのね。あなたは、ただのギルド職員だけど、エリスリーンは、ここのギルドマスターであって支部のトップなのよ。それに、エルフだから年齢だって300歳を超えているの。あなたの10倍以上生きている人に指示されたのだから、さっさと従うのよ!」
メイリルダは、そんなものなのかと思ったような表情をすると使っていた水晶を見た。
それが、さらに同僚の受付嬢をイラつかせたようだ。
「その辺の片付けなんて、私がするから、さっさと2人を連れて、ギルマスの執務室に行きなさい!」
その勢いにメイリルダは、焦ったように慌てて動き出した。
「すみません。直ぐに行きますから、ここの片付けをお願いします」
そう言うと、メイリルダはジューネスティーンを見た。
「じゃあ、直ぐに行くわよ」
そう言うと、シュレイノリアも誘おうとするのだが、珍しくジューネスティーンのそばに、シュレイノリアが居ない事に気が付いた。
「ねえ、ジュネス。シュレは?」
いつの間にか、シュレイノリアが、受付から居なくなっていた事にメイリルダは気がつき、シュレイノリアが居ない事に焦ったようだ。
「シュレは、慌ててエリスリーンを追いかけていったよ」
ジューネスティーンの一言で、メイリルダは、ホッとしていた。
ただ、ジューネスティーンは、ギルドカードを作っていた時に座っていたテーブルの上を見ていた。
メイリルダもジューネスティーンの視線に誘われるようにテーブルを見た。
そこには、小刀が二つ置いてあった。
シュレイノリアは、魔道具について説明してもらえると思ったら、何も考えずにエリスリーンについていってしまったので、貰った小刀も放置して付いていってしまっていた。
そのため、テーブルの上の小刀も置きっぱなしだった事、それに、シュレイノリアのギルドカードが魔道具に差し込んだままになっていた。
メイリルダは、魔道具からシュレイノリアのギルドカードを抜くと、テーブルの上に移動してシュレイノリアの小刀を持った。
「ジュネスも行くから、忘れ物が無いようにしてね」
ジューネスティーンもメイリルダに倣って小刀を持つと、2人は受付からエリスリーンを追うように奥へ向かった。
それを見た受付嬢達は、ホッとした様子で2人を見送っていた。
「メイリルダって、まだ、組織人としての自覚が足りないわね」
「だからじゃないの、今回の転移者の面倒を見させたのは」
「そうね。あの様子で、組織の中にいても浮いているだけだから、丁度いい仕事を押し付けたんじゃないの」
「でも、2人の転移者を1人で見るのは大変じゃないの?」
「確かにそうかもしれないけど、過去に双子を見たというのもあるのだから、メイリルダだけじゃ無いから、ギルド的には問題はないけど、でも、大変な事には変わりはないわ」
「でも、メイリルダならいいんじゃないの。性格的にも2人と気が合いそうだし、精神年齢的にも丁度いいと思うわよ」
「そうね、受付していて、また、ミスられても困るし、子守をしてもらっている方が楽だと思うわ」
「それもそうね」
「同感」
受付嬢達は、納得するような表情をして、メイリルダ達が出ていったドアの方をみていたが、話がまとまると何事も無かったように自分達の仕事に戻っていった。




