目覚めたエルメアーナ
エルメアーナは、いつものように目が覚めた。
そして、いつも通りに着替えを終えると、リビングに向かい、フィルランカの朝食の手伝いを行うのだ。
ただ、手伝うと言っても、料理を作るわけではない。
食器を用意して、料理を盛り付けたり、運んだりするだけで、料理を作るわけではない。
鍛治は、得意なエルメアーナだが、料理は苦手だったので、調理以外のことで、フィルランカを手伝っていた。
今日も、昨日と同じ1日が始まると思いながら、リビングに向かった。
しかし、今日は、リビングにも台所にもフィルランカは居らず、 台所は、昨晩に片付けたままの状態になっていた。
「なんだ、フィルランカにしては珍しいな。 寝過ごしてしまったなら、起こしてあげないといけないな。 だが、こんなことは、フィルランカが、家に来てから初めてだな」
珍しく、寝過ごしてしまったのかと思い、エルメアーナは、フィルランカの部屋に行く。
ドアの前に立って、聞き耳を立てるが、どうも、雰囲気が違うように、エルメアーナは思えたのか、一瞬、不思議そうな表情をした。
そして、ドアをノックしてみるが、中から返事がない。
更にもう一度、今度は、もう少し強くノックしてみるが返事が返ってくる様子は無い。
(珍しいな。 フィルランカが、こんなに寝坊をするなんて、本当に初めてだ)
エルメアーナは、ドアを開けてみる。
フィルランカの部屋に入ると、直ぐにベットを見るが、ベットにフィルランカは、居なかったので、エルメアーナは、部屋の中を見渡してみるが、ドアから見た限りでは、フィルランカは見当たらない。
「フィルランカ?」
エルメアーナは、声をかけながら、部屋にはいる。
そして、声をかけたが、返事が返ってくる様子も無かった。
エルメアーナは、片付いているフィルランカの部屋を一通り見るが、どこにもフィルランカは居ない。
そして、フィルランカのベットに行くと、布団の中に手を入れてみるが、その中には、暖かさが無かった。
通常、人が寝ていたら、体温がうつり、暖かさがあるのだが、フィルランカのベットには、そんな様子は全く無い。
「フィルランカは、ベットを使ってないのか?」
エルメアーナは、ベットを触りつつ、その冷たさを感じていると、不安に襲われてきた。
(フィルランカが、消えた?)
このベットで寝ていたのなら、ベットに暖かさが残っていてもおかしくはない。
そして、人の寝るところと、ベットの端の方ではわずかに温度の違いがあるはずなのだが、真ん中あたりも端の方も、同じように冷たいのだ。
エルメアーナには、不安がよぎった。
(フィルランカは、昨日から、このベットを使ってない。 フィルランカは、リビングにも台所にも居なかった)
エルメアーナは、不安になり、慌てて、家の中を探し始めた。
(なんで、フィランカは、ベットを使わなかった?)
エルメアーナは、今まで、いつも一緒にいたフィルランカが居ないことで焦り出してきた。
(な、なんで、フィルランカが、居ないんだ)
エルメアーナは、店、浴室と探すが、フィルランカは、見つからない。
そして、工房のドアを開けて中に入るが、工房にも誰も居ない。
そして、今日は、カマドを使う日なのだが、カマドに火は入っていない。
(おかしい、今日は、朝から、使うから、早くから火を入れておくと、昨日、父が言っていたのに、……。 変だ)
エルメアーナは、不安な気持ちが、更に膨らんだようだ。
そして、工房を出ると、まだ、確認していない、カインクムの部屋に向かうのだった。
カインクムの部屋は、昔、母と3人で寝ていた。
カインクムの部室は、母が死んで、自分も学校に上がってからは、自分の部屋を持たされて、父とは別に寝るようになったので、それ以降は、カインクムの部屋は、入った事の無い場所なのだ。
今は、フィルランカの事があるので、何も考えずにドアを開けると、カインクムに声をかける。
「父! フィルランカがどこにも居ない。 探しにい、く、ぞ。 ……」
エルメアーナは、ベットで寝ているカインクムに声をかけたのだが、その言葉は、途中で止まってしまった。
そして、そこには、見てはいけないもがあった。
それは、はだけた毛布から、裸のカインクムに、裸のフィルランカが寄り添って、寝ている姿だった。
ベットには、腰までに掛かった毛布から上半身がどうなっているのか確認できる。
そこには、仰向けに寝ているカインクムに、フィルランカが、カインクムの胸に顔を乗せて寝ている姿だった。
そして、薄い毛布が下半身にかかっているのだが、フィルランカの足はカインクムの足に絡まるように乗せられているのが、毛布越しにも分かった。
それを見て、エルメアーナは固まり、瞬きもせずに2人のベットを凝視している。
男女が裸で、一つのベットに寝ていたとなったら、何を行なっていたのか、エルメアーナにも理解できた。
エルメアーナの表情は、青くなっていた。
それは、エルメアーナは、古い記憶が蘇ってきたからであって、学校に行けなくなった理由でもある。




