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追い詰められたフィルランカの行動


 カインクムは、寝ていると体にかかる重さに気がついた。


 それは、心地よい暖かさと、自分を包み込むような柔らかな感覚に襲われる。


 暖かさと自分を包み込むような柔らかさは、何だか覚えがある感覚で、天にも昇る心地良さが自分の体に掛かっている。


 そして少し興奮したような感覚を感じて目が覚めると、晴れた夜のため、星あかりが窓から差し込んでいるので、部屋の中は、わずかに明るさがあった。


 自分の目の前にはフィルランカの顔があり、自分の顔を見おろしていた。




 カインクムは、自分の肌に触れる感覚から、自分もフィルランカが何も着けてない事を感じる。


 そして包み込まれる柔らかくて暖かな感覚を感じてしまうと、フィルランカが何をしているのかを察した。


「何をしている、フィルランカ」


カインクムは、寝ぼけた様子でフィルランカに尋ねる。


 そして、カインクムは、眠気が抜けてくると、カインクムは自分の体に起こっていることが理解できたようだ。


 フィルランカが何をしているのかカインクムは、理解できてしまったが、それを贖うことはできなかった。


 それを振り解くことは、カインクムには造作も無い事なのだが、自分の本能がそれを許そうとしない。


 久しぶりの、その感覚を味わいたいと、カインクムの本能が言っており、振り解くことを拒んでしまっているのだ。


 フィルランカは、にっこりと笑いかけるとカインクムに囁きかける。


「今、私は、カインクム様のものになりました。 これで私は、あなたのものです」


 その発言にカインクムは慌てる。


「ばっ、馬鹿な事を言うもんじゃない。 お前は、これからの人生が待っているんだ。 俺のような親の世代の家に嫁ぐ必要は無いんだ」


 言葉とは裏腹に、体は、そのまま振り解くことは無い。


 自分の心とは別に、体は、その感覚を楽しんでいるのだ。


 フィルランカは、少し体を揺らすようにして、カインクムの体に自分の体を擦るので、自分の胸に柔らかいものが当たってくる。


そしてフィルランカは、顔を耳元に持っていって答える。


「貴族や王族の方は、孫ほど歳の差のある娘を側室に迎える事もありますよ。 それに、カインクムさんは、独り身ですから、親子ほどの歳の差なら、それと比べれば、大した問題では無いと思います」


「……」


 カインクムは、フィルランカに反論する答えが見つからない。


 時々、フィルランカが刺激するように体を動かす。


 その包み込むような感覚の中に、わずかに締め付けるような感覚の度に天にも昇る心地になり、欲望の海に沈んでしまう、そんな感覚に襲われる。


(どうしようか、どうやって、説得しようか)


 そんな事を考えていると、フィルランカの息が自分の鼻に掛かると、僅かではあるが、その息にアルコール臭がある事に気がついた。


「お前、酒でも飲んでいるのか?」


 星あかりのわずかな明かりの中ではあるが、フィルランカはわずかに笑顔を作った。


 それは、カインクムの質問の答えを肯定しているのだろう。


 フィルランカは、この状況を作るため、勢いをつけるために少し飲んでいたのだ。


 カインクムに、自分の婿を、イスカミューレン商会に探してほしいと話をされた時点で、フィルランカには、カインクムの嫁になる選択肢は無くなってしまう。


 リズディアがこの話に乗ってきたら、絶対に、フィルランカの婿を探してしまうだろう。


このままでは、フィルランカにカインクムの嫁になる選択肢は無くなってしまうのなら、フィルランカは、強硬手段に出たのだ。




 だが、カインクムの上に乗ったまま、自分の中にもカインクムを感じているのにカインクムは自分からは、何もしてくれそうも無い。


 カインクムは、ただ、自分の下で何をするわけでもなく、眠っている時と同じように動かない。


 その事にフィルランカは、少し不安になった。


「私じゃ、ダメなんですか? 私は、初めてなのですけど、ここまで尽くしても、私ではダメなんでしょうか?」


 その質問の答えをカインクムは、持っていない。


 どうやって、フィルランカに答えれば良いのか分からない。


 カインクムが困ってしまい黙っていると、フィルランカは、悲しそうな顔を向けた。


(ここまでしても、カインクムさんは、振り向いてくれないのかしら。 ……。 本当に、カインクムさんは、私をお嫁さんにする気は無かったのかしら。 ……。 それなら、明日にでも家を出よう)


 すると、フィルランカの目から涙が溢れる。


 フィルランカ自身、その事に気が付かず、カインクムの上に顔を持っていくと、溢れた涙が、カインクムの頬に落ちる。


 カインクムは何事かと思うが、フィルランカが話しかけてきた。


「私は、明日、この家を出る事にします。 だから、今日だけは、今夜だけで構いませんから、あなたのお嫁さんにしてください。 私は、今夜の事を一生の思い出として、……。 大切な、あなたとの思い出を胸に抱いていく事にします。 だから、お願いします」


 カインクムは、頬に落ちるフィルランカの涙と、今の言葉を聞くと、愛おしく思ったようだ。


 その言葉が終わると、カインクムは両手でフィルランカを抱きしめた。


「この子は何て健気で、愛おしくて……。 こんな親父の何処が良かったんだ。 こんな事までしてしまうなんて、……」


 フィルランカは、突然、抱き抱えられるが、涙は止まらない。


 フィルランカは、自分がした事は、決して正しい方法とは言えないことも分かっている。


 それでもカインクムの心は変わらないと思って諦めていたところに、突然、態度が変わり、その優しい言葉に涙が止まらなかった。


 そして、カインクムの心も決まったようだ。


「もう、お前は、うちの嫁だ。 この家から出ていく事は、俺が許さない。 だから、ずっと、この家にいれば良い」


 それを聞いて、フィルランカは更に涙が止まらない。


 そんなフィルランカの頭を、カインクムは優しく撫でている。


 泣きながら、フィルランカは、カインクムに応える。


「あっ、あり、ヒック、ありぎゃとうぎょざいましゅ」


 フィルランカは、声にならない声で返事をした。


 それを聞いて、カインクムは、可愛いと思ったのだろう、目を細めて、自分の上で泣いているフィルランカを愛おしそうに見ている。




 フィルランカが、泣く時の嗚咽によって、心地良い振動と締め付ける感覚とを味わっていた。


 カインクムは、その感覚を心地よく思いつつ、フィルランカが落ち着くのを待つ事にして、優しく頭を撫でてあげた。


 そしてフィルランカが落ち着くと、心ゆくままフィルランカに、愛している事を、愛しく思っている事を、行動で示すのだった。


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