傷心のフィルランカ
フィルランカは、カインクムの言葉が、悲しかった。
そして、耐えられなくなって、リビングを出て、自室に戻って、ベットに飛び込んだ。
枕に顔を埋めて、肩を震わせていた。
(何で、カインクムさんは、あんな事を言うのかしら。 何で、私は、カインクムさんのお嫁さんになれないのよ。 何でなのよ!)
フィルランカは、リビングでの話が、グルグルと頭の中で、鳴り続けるようにカインクムの言葉が、思い出されている。
告白して、断る理由として、別の誰かを探すと言うのだから、とても辛い思いになっているのだ。
初めての告発が、24歳歳上の友人の父親だった。
12年も同じ家に住んでいた。
自分は、嫁として入ったのだ。
そして、本当の嫁になるのは、10年後の20歳になってからだったが、大学を卒業するまでに延びたと思っていた。
当初の約束は、フィルランカが、10年後にも嫁になりたいと思っていたら、カインクムは、嫁にしてくれると言った。
だから、フィルランカは、正式な嫁になるのは、10年後だが、それまでは、家事をこなして、良い嫁になる為に必死になっていたのだ。
食べ歩いたのは、美味しい味を覚えることで、美味しい料理を作るためだった。
美味しい料理の味を知るために、必死に第1区画のレストランまで足を運んで、味を覚えたのだ。
スパイスについても、その味を知り、そして、その使い方も市場で教えてもらい使う事ができた。
コーンスープの滑らかな食感も、全て、カインクムに喜んでもらいたいから、必死に行ってきた事なのだ。
フィルランカの心の中心には、カインクムが居て、カインクムを中心に自分の行動を決めていた。
そして、エルメアーナである。
カインクムと、その娘であるエルメアーナは、フィルランカにとって、とても大事な事なのだ。
1番が、カインクムであり、2番は、エルメアーナである。
2人のための料理は、とても、大事な事だったので、特に食事に対する事には、神経を使っていた。
モカリナの家でのキノコもだ。
新しい味を知って、知らない料理にも挑戦した。
自分の知った味から、合いそうな料理を考えて、市場で食材を集めて、試してみた。
最初は、料理としては及第点だったが、回数を重ねる毎に、満足のいく味に仕上がった。
そして、その料理は、カインクムにもエルメアーナにも、好評だった。
フィルランカは、2人に出した料理について思い出すと、どれを食べてもらった時も、2人は、とても美味しそうに食べてくれた。
その美味しそうに食べる表情が、頭に浮かぶと、余計に切なくなるのだろう。
また、涙を流してしまうのだった。
フィルランカは、次々と楽しかった時の思い出が蘇ってくるのだが、思い出すたびに、先程のカインクムの言葉が蘇ってきて、切なくなってしまい、また、枕に顔を埋めて涙を流していた。
12年間の楽しかった思い出を、頭に思い浮かべ、楽しかったと思うと、どうしても、さっきのカインクムが言った、フィルランカの婿を取るための話が蘇ってくる。
そしてカインクムは、フィルランカに、イスカミューレン商会に婿の相談をすると言った。
カインクムは、明日には、イスカミューレン商会に相談に行くと言っていた事を思い出したようだ。
(カインクムさんは、明日、イスカミューレン商会に行って、リズディア様に話をしてしまうわ。 ……。 リズディア様にカインクムさんが、商人の三男坊か四男坊を婿に欲しいと言ったら、絶対に断ることはないと思うわ。 カインクムさんが、話したら、リズディア様は、直ぐにでも相手を用意してしまうわ)
フィルランカは、この後の事が気になり始めた。
カインクムの言ったことを実行されてしまった場合、その行く末が目に見えたと思ったようだ。
(どうしよう。 絶対に、このままだと、私は、カインクムさんのお嫁さんになることはできないわ)
フィルランカは、いつの間にか泣き止んでいた。
その事に、フィルランカは、気がついていないが、それどころではない。
フィルランカは、明日になったら、カインクム以外の男の嫁になる話が進んでしまう事になる。
その事が、フィルランカには、耐えられない事だと、気がついたのだ。
(私は、明日になったら、……。 カインクムさんが、リズディア様に話をしてしまったら、リズディアは、絶対に見つけるわ。 そして、私が、それを断ることになったら、私はリズディア様の顔を潰す事になるのよ。 そんな事、絶対に許されないわ)
フィルランカは、明日、カインクムが、リズディアに会った後の事を考えていた。
(もし、リズディア様から紹介された婿候補を断ったら……)
フィルランカは、青い顔をしていた。
皇族の紹介した縁談を断る帝国臣民など、聞いた事がない。
ただ、皇族が、帝国の一臣民のために、縁談を持ち込む事がないので、皇族が紹介する縁談を断るなんて話が無いのは当たり前なのだが、フィルランカが、そんな事を知る事は無い。
フィルランカは、何か思いついたようだ。
(そうだわ。 明日になったら、私は、カインクムさんのお嫁さんになれなくなるのだったら、今晩中にカインクムさんの気持ちを変える必要があるのね)
そして、思い詰めたような表情をした。




