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カインクムの返事


 フィルランカは、固まっていた。


 そんなフィルランカを気にする事なく、カインクムは、話を続ける。


「それで、今度、リズディア様か、イルルミューラン様に、話を聞いてもらおうと思っているんだ」


 フィルランカは、カインクムが、何を言っているのか分からないといった表情をした。


「フィルランカもだが、エルメアーナと2人の婿をと思っている。 その話を、イスカミューレン商会のイルルミューラン様か、リズディア様に相談して、婿をと思っている。 ただ、相手の都合で、嫁に欲しいと言われたら、それも有りかと思っているんだ」


 カインクムは、フィルランカに、フィルランカとエルメアーナの結婚について相談してきた。


 フィルランカは、カインクムの、言葉の意味が理解できないという表情をして、呆然と、カインクムを見ていた。


 そんなフィルランカを見ていたカインクムは、自分に主導権を持てたと思ったようだ。


「それで、明日、イスカミューレン商会に、行ってこようと思っている」


 そこまで聞くと、フィルランカは、テーブルに手をついて、立ち上がると、その勢いで、座っていた椅子が、後ろに倒れた。


 フィルランカが、倒した椅子に驚いたカインクムは、立ち上がったフィルランカを見上げると、フィルランカは、悲しそうな眼をして、カインクムを見ていた。


 その表情を見たカインクムは、気圧されてしまった。


「あ、ああ、そのー、それは、お前達次第なんだ、が……」


 カインクムは、フィルランカの表情を見て、少し弱気になってしまった。


「ど、どうだろうか?」


 フィルランカは、表情を変えずに、カインクムを、じっとみている。


 告白した時に、その告白した相手から、その場で、別の男を紹介されているのだ。


 それは、断られるより、寂しい事なのだが、カインクムには、そんな事が思い付かなかったのだ。


 フィルランカにしたら、こんな、悲しいことはない。


 今にも涙を流さんばかりの表情で、カインクムを見た。


「わ、私は、カインクムさんの、お嫁さんになる為、家の事、料理も覚えて作りました。 美味しい料理を出せるようにと、美味しい料理を作るには、美味しい料理を食べることからだと、カインクムさんに教えられて、美味しい料理を食べるところから始めました」


 カインクムは、昔、フィルランカに聞かれて、そう答えたことを思い出したようだ。


「ミルミヨルさんの衣装を着たのだって、第1区画のレストランに入るために、最初は、買うつもりだったんです。 それも、カインクムさんに美味しい料理を食べさせるには、それが必要だったからです。 でも、ミルミヨルさんの衣装を着た私を見た、カインクムさんが、優しい表情をするから、着ていたんです。 あの胸の大きさが大きく見える衣装は、小さい時は良かったのですけど、高等学校の時とか、余計に大きく見えるから、ちょっと恥ずかしかったんです」


 カインクムは、少し恥ずかしそうな表情をした。


(何! 大人になったと思ってただけだぞ、子供の成長が、嬉しく思っただけだったのに、フィルランカは、俺が、嫌らしい目で見たと思ったのか?)


 その表情は、自分が、フィルランカを、嫌らしい目で見ていたと、フィルランカが思っていたのかと思ったのだ。


 カインクムは、どうしたら良いのかと、ソワソワし出したようだ。


「カインクムさんが、ミルミヨルさんの衣装を着た私の事を、笑顔を向けてくれて、綺麗だと言ってくれたんです。 だから、ちょっと、恥ずかしくても、用意してもらった衣装を着るようにしたんです」


 ただ、カインクムは、焦ったような表情で、フィルランカの話を聞いていた。


 カインクムには、自分がフィルランカを、嫌らしい目で見たと思われていたのか、気になっているようだ。


「私には、いつも、カインクムさんが中心なのです。 だから、学校だって、カインクムさんのためになるから、店を大きくする為だと思ったら、カインクムさんと一緒にいる時間が減ったとしても、高等学校にも帝国大学にも入って、勉強してきました。 成績だって、良くなるように頑張ってきたつもりです。 カインクムさんに、お金を出してもらったのだから、この覚えてきたことは、カインクムさんに返さなければ、意味がないです」


 すると、フィルランカの瞳から、涙が流れた。


「わた、私は、カインクムさんの、役に立ちたくて、進学したのに、……。 卒業したら、別の人の嫁になれなんて、……。 そんな事、言わないでください」


 そう言うと、フィルランカは、両手で顔を覆って、両肩を震わせていた。


 そして、覆っていた両手の隙間から、雫が流れた。


 明らかに、フィルランかは、泣いていることが分かる。


 それを見た、カインクムは、フィルランカに、どんな言葉を掛ければ良いのか、分からずにいる。


 肩に手を置こうか、それとも、声をかけようかと口を開こうとするのだが、口を開いて、終わっている。


 カインクムは、フィルランカに、何と声を掛けようか、掛ける言葉がみつからないようだ。


 フィルランカは、声を押し殺して、顔を両手で覆っているが、明らかに泣いていることがわかる。


 そして、カインクムも言葉をかけられずにいると、その間が、フィルランカには、耐えられなかったようだ。


 そのまま、リビングを出て行こうとすると、カインクムは、引き止めようとして、左手をフィルランカの方に向けたが、向けただけで、フィルランカに、その手を添えることはなかった。


 そして、フィルランカは、そのまま、リビングを出て行ってしまった。


 カインクムは、そのフィルランカの出て行った方向に左手を向けて、ただ、呆然と見送ってしまった。


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