思いを告げるフィルランカ
夕食が終わると、エルメアーナとフィルランカが、片付けをする。
フィルランカ達は、食器を運びながら、カインクムを見る。
「カインクムさん、もう、お風呂のお釜も温まっていると思いますから、先に入ってください。 私たちは、エルメアーナと、片付けを終わらしたら、入りますから、お先にどうぞ」
すると、エルメアーナが、嫌そうな顔をした。
「父! 風呂は綺麗に使うんだぞ。 お湯に、アカが浮いていたら嫌だからな」
エルメアーナの言葉を聞いて、カインクムは、少しムッとしたような表情をしたが、直ぐに、気持ちを切り替えたようだ。
「ああ、わかった。 お前達が先に入られると、俺は、いつまで経っても、風呂に入れないからな。 そうか、アカは気をつけておく、……。 それより、お湯は、3回入れ替えられる位有るんだから、入れ替えればいいだろう」
カインクムは、お釜のお湯の量が、3回入っても余るほどの量が有る事を指摘したが、エルメアーナは、面倒臭そうな表情をした。
「あ、ああ、熱すぎたり、冷たすぎたり、湯加減の調整が面倒だ」
カインクムは、エルメアーナの意外な部分を見つけたようだが、その程度の事が面倒だと思うエルメアーナが、ちょっと残念に思ったようだ。
「エルメアーナ。 お前、そんな些細な事が、面倒だからって、……。 お湯の釜の蛇口と、水瓶の蛇口の調整だけで済むだろう」
「ああ、一度、お湯を出して、また、入れる時間が勿体無い。 人の後なら、お湯を足すだけで、湯加減が調整できるから、その方が、簡単に終わる。 浮いていたアカは、手桶で掬い出して終わらせている。 でも、アカは無い方が、ありがたい」
カインクムは、これが年頃の娘の感覚なのかと、ちょっと、気になったようだ。
カインクムは、立ち上がった。
「分かったよ。 風呂に入る時は、気をつけておくし、出る時も確認してから出るようにするよ」
エルメアーナは、少し嬉しそうな表情をした。
「よろしく頼む」
親娘の会話にフィルランカは、入る事ができなかったが、2人のそんな他愛もない会話を聞いて、嬉しそうにしていた。
フィルランカには、そんな当たり前の家庭の会話が、とても楽しいようだ。
夕食が終わり、風呂から出ると、カインクムは、自室に戻っていた。
いつもなら、疲れから、風呂に入って気持ち良くなった後、ベットに入ると、直ぐに寝てしまうのだが、今日は、寝付けずにいた。
(仕方がないな。 水でも飲むか)
カインクムは、自室を出て、台所に向かった。
カップを食器棚から取り出して、水瓶から水を汲むと、カップを持って、リビングに移動した。
カインクムは、リビングのテーブルに誰がいることに気がついた。
そこには、フィルランカが座っていた。
「ああ、フィルランカか。 眠れないのか?」
フィルランカは、突然声をかけられて、驚いたようだ。
「すまない、驚かせたようだな」
カインクムも、フィルランカが、居るとは思っていなかったのだが、何気に普通の対応をしていた。
(フィルランカだけなら、約束の話をしてしまった方が、良いのかもな)
カインクムは、エルメアーナもいないこともあるので、2人で、約束について話をしておこうと思ったようだ。
カインクムは、テーブルに座ると、コップの水を一口飲んだ。
フィルランカも、コップに水を入れて、テーブルに置いてあった。
(フィルランカも、寝付けなかったみたいだから、ちょうどいいだろう)
カインクムは、嫁にする約束の話をしようと思ったようだ。
「カインクムさん。 私、帝国大学を卒業しました。 それに、カインクムさんは、約束の時に言いました。 私が、10年後に気持ちが変わらなかったら、お嫁さんにしてくれると言いました。 だから、私は、カインクムさんのお嫁さんにしてもらいます!」
フィルランカは、カインクムに自分の思いをぶつけた。
カインクムが、約束の話を無かったことにする話をする前に、フィルランが、先に、約束の話をしたのだ。
カインクムは、フィルランカに先手を取られてしまった。
だが、カインクムは、一瞬、嬉しいそうな表情をしたが、直ぐに、表情は翳ってしまった。
「なあ、フィルランカ。 お前は、22歳だ。 そして、俺は、46歳であって、お前の友達であるエルメアーナの父親だ。 娘と同じ歳で、しかも、娘の友達ともなったら、俺としたら、抵抗があるんだ。 なんだか、ここまでの12年間もお前を嫁にするために、育てたみたいじゃないか」
カインクムは、自分の立場的な事があるので、それを元に、フィルランカを説得する方向に話をした。
「そんなことはありません。 私は、12年前に、ここに、嫁に入ったつもりです。 でも、10歳では、嫁にできないから、20歳になるまで、待ったのです。 でも、それも、私が帝国大学に在学しているのでは、学校に対しても良くないからだと言いました。 だから、卒業した、今なら、私は堂々と、カインクムさんの嫁だと言って構わないと思います」
カインクムは、捲し立てるフィルランカに、呆気に取られていた。
「私は、……。 私は、カインクムさんが、……。 カインクムさんが、大好きなんです。 だから、約束は絶対に、叶えてもらいます」
フィルランカは、耳まで赤くした顔で、カインクムに訴えた。
カインクムは、困ったような表情をしていた。
(くそー、フィルランカに、先手を取られてしまった。 ……。 だが、告白される側の気分は、……。 悪くはない)
その中に、わずかではあるが、嬉しそうな様子が窺えた。
「フィルランカ。 俺の希望は、お前が、どこかの商人の三男坊か四男坊を婿にもらって、この店を経営してもらいたかったんだ。 それで、エルメアーナの作った物を売って、この店を継いでもらいたいと思っていたんだ。 だから、お嫁さんにするって話は、無かったことにしてもらいたい」
カインクムは、フィルランカに、自分の思っていることを伝えた。
それを聞いた、フィルランカの表情は、固まった。




