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昼下がりの店番


 3日目の二日酔いから回復したカインクムは、昼食を食べると、エルメアーナと一緒に工房に入り、鍛治をおこなって、フィルランカは、昼食の後片付けを終えると、店に入った。


 フィルランカは、展示されている武器や防具を確認していく。


 ホコリは、午前中に一通り払って、床も綺麗に掃除した。


 午後は、店に入ると、また、一つ一つ展示されている商品を確認していくと、ある防具に翳りがあることに気が付いた。


 フィルランカは、その気になった防具を手に取ると、その防具をテーブルに持っていく。


 状況を確認すると、布とオイルの入った小瓶を、カウンターの奥から持ってきた。


 そして、布にオイルを付けると防具を、丁寧に拭いていく。


(せっかくだから、綺麗にして、これも売れるようにしてあげないとね。 綺麗にするだけで、見栄えも上がるから、それだけでも購入意欲が上がるのよね)


 フィルランカは、楽しそうに、防具をきれにしていくが、それも、すぐに綺麗になるので、元に戻すと、また、新たな、商品を確認しにいく。


 そうやって、一つ一つ武器や防具を綺麗にしていくのだが、フィルランカは、気がかりがあるようだった。


(ここは、第3区画の中でも北東部になるから、交通の便が悪いのよね。 知っている人からの受注は多いけど、店に、飛び込みで入ってくるお客さんって、ほとんど期待出来ないわ。 そんな、飛び込みのお客を捕まえるには、このような奥まった場所だと厳しいのよね)


 フィルランカは、カインクムの店の立地について、自分んが覚えた事と照らし合わせると、今のままでは、カインクムの店には、立地条件が悪い事がわかっていたのだ。


 通りに面した店であれば、目につく回数も多いので、何かあった際は、記憶の中から、店を思い浮かべる人も出よう。


 しかし、カインクムの店は、そんな、人通りの多い場所ではない。


 むしろ、奥の方にひっそりとあると言って良い場所なのだ。


 そのため、ジュエルイアン商会、イスカミューレン商会のように商会から仕事をもらうことの方が多い。


 そのため、利益率の高い個人への販売の、店売りが、少ないのだ。


 フィルランカは、カインクムの店の経営状況を把握して、より良い経営のために、何をするべきなのかを考えていたのだ。


(立地条件だけは、私の力だけじゃ、どうにもできないわね)


 フィルランカは、これから先、どうしようかと悩んだような表情をした。


(でも、上をのぞんだら、そこで終わりなのよ。 今ある条件の中で、一番の最良策を見つける事が、重要なのよ)


 フィルランカは、負けないぞと言わんばかりに、気合を入れるような格好をした。


(生まれた時の状況がとか、親がどうとか言う子供じゃ無いのだから、有ったらいいなじゃないのよ。 実情を把握して、欠点と利点を把握して、利点を伸ばし、欠点は対策する。 考えることをやめなければ、答えは必ず見つかるわ。 私は、答えを見つけるために、考えるのをやめた愚か者ではないのよ。 それに、どんな成功者も、最初から好条件だったなんてあり得ないのよ。 むしろ、一般人より条件が悪いから、それをバネに頑張ったから、結果を出せたのよ。 だから、私も、その先人に倣って、この条件を利用して、更なる発展を目指すわ)


 フィルランカは、ニヤリとした。


 今の自分は、とても充実していると言わんばかりの笑顔になった。


(そう、これもカインクムさんのため、エルメアーナのため、そして、私のためになるのよ。 だから、今の自分の与えられた条件から、前に進むのよ。 そう、一つ一つの武器や防具だって、丁寧に磨いてあげて、見栄えも良くなったら、きっと、変わってくるわ。 それに、たまたま、この店を見つけて入ったら、汚れているわ、埃だらけだったら、誰もが、回れ右をして帰ってしまうわ。 だから、地道な作業程、真面目に取り組まなくちゃね)


 フィルランカは、持ってきた防具を磨きつつ、ニヤリとした。


 気が付いた汚れが綺麗になると、他の部分も見て、問題無いことを確認すると、元あった場所に戻していく。


 そして、また、別のものを確認する。


 フィルランカは、見た目だけでも、少しでも変わるように、カインクム達が作った製品を、綺麗に見えるようにしていたが、店に、一般客が来る気配は、全く無かった。


 立地条件の悪さから、一般客は、カインクムの店に、ほとんど顔を出すことは無い。


 ただ、ジュエルイアン商会の発注分は、売上の大半を占めているのだが、比較的、高値で買取を行ってもらっているので、カインクムの店としたら、良い顧客と言える。


 そして、最近は、イスカミューレン商会と、ナキツ家からも受注を受けているので、カインクムの店は、十分に潤っているのだった。


(一番簡単な方法は、お店の移転か。 今、開発中の、第9区画にお店を構えられたら、今の注文の他に、冒険者からの受注も受けられるでしょうね。 それに、冒険者の方々は、値段より一品物を選ぶと聞くわ。 多少、高くなったとしても気にしないと言うから、カインクムさんやエルメアーナのように、こだわったものを作る人には、うってつけだと思うのよね。 ……。 本当だったら、ここから、第9区画に移転したほうが良いのだけど、……。 でも、カインクムさんは、移転しようとは思ってないみたいなのよね)


 フィルランカは、面白くなさそうな表情をした。


(カインクムさんは、この場所が良いみたいだから、私は、カインクムさんの思う通りの方法で、お店を大きくしなくちゃね。 ここの場所が、カインクムさんの望みなのだから、私は、カインクムさんの望みに合わせて、店作りをしていくのよ)


 フィルランカは、簡単に夢を叶える方法があるのだが、難しい方法に取り組んでいることを知っている。


 しかし、その方法で夢を叶えることの、難しさを感じているようだが、同時にその困難に立ち向かい、達成した時の方が喜びも大きくなることを知っている。


 それが、フィルランカには、楽しみでもあるようだ。


 これから先のことを考えたら、難しい道のりではあるが、それが楽しいとも思えるのだった。


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