大学から帰るモカリナとイルーミク
モカリナとイルーミクの家は、皇城内の貴族街に有る事から、帰りは、常に、どちらかの馬車に乗って帰るようにしていた。
二つの馬車は、イルーミクのスツ家まで、一緒に移動して、家に着くと、イルーミクの馬車から降りたモカリナは、自分の馬車に乗って、家に帰るようにしていた。
フィルランカは、第3区画へ帰るので、2人とは別の方向に行く事になるので、大学を出る時に別れる事になる。
イルーミクとモカリナは、一緒に帰る時に話すことは一つだ。
それは、フィルランカの進路の事になる。
「モカリナ。 最近、リズディア義姉様が、イライラしているみたいなのよ」
モカリナは、それを聞いて、直ぐに理由が分かったようだ。
「何としても、フィルランカを卒業後に引き込みたいみたいなのよ。 昨日なんて、珍しく、私の部屋に来たと思ったら、フィルランカを、引き込むための手立てが無いかとか、フィルランカの様子はどうだとか、ズーッと聞いてきたのよ」
リズディアのフィルランカへの勧誘は、事あるごとに行われていたので、モカリナも、その時の様子が、何となく理解できた様子で、表情を曇らせた。
「本当に、リズディア様は、フィルランカにご執心よね」
リズディアは、フィルランカを、あの手この手で、イスカミューレン商会に引き込もうとしていた。
モカリナは、リズディアによって、卒業後にイスカミューレン商会に入ることを強要されているが、それは、モカリナが望んでいたことなので、強要されたというよりは、ご褒美をもらったと言えよう。
ただ、モカリナとしては、卒業後にリズディアの元で働くにしても、リズディアが、フィルランカを引き込もうとしている様子は、なんとも言い難いのだ。
時々、あまりに、リズディアが、フィルランカに熱を入れるので、少し面白くない時もあった。
「あれだけ、リズディア様に気にいられているのに、フィルランカったら、どうしても、カインクムさんの店番をするって、その都度、リズディア様に断っているわよね」
モカリナの言葉にイルーミクも、フィルランカが、頑なに断る理由がよく分からないといった様子だ。
「そうなのよね、リズディア義姉様も、そろそろ、諦めてくれてもいいと思うんだけど、……。 本当に、リズディア義姉様は、人材に関しては、とても貪欲なのよね」
モカリナは、イルーミクの言葉に何か、引っかかったようだ。
「ねえ、それは、どう言う事なの?」
イルーミクは、モカリナに聞かれ、話してなかったことを思い出したようだ。
「ああ、リズディア義姉様って、時々、大学に来ることが有るでしょ。 あの時、目ぼしい生徒を探しているのよ。 場合によっては、クンエイ殿下にも報告をして、帝国の職員にしているみたいよ」
「へー、そうだったの」
モカリナは、リズディアが、時々、大学に赴いていたことは知っていたが、その際に、そんな事をしていたとは知らなかったのだ。
イルーミクから聞いて、感心したように答えた。
「ああ、でも、それは、義姉様が結婚前から行っていたみたいよ。 結婚しても、それは、続けられているみたいなのよ」
モカリナは、リズディアが皇位継承権を返上しても、帝国の仕事を行なっていると知って、改めて、皇女だったことを実感したようだ。
表だった皇族としての活動には、顔を出すことは無くなったのだが、表に出ない部分で、皇族だった事を利用して、優秀な人材を勧誘していたのだ。
結婚後は、その仕事を引き継いでいたこともあり、リズディアは、イスカミューレン商会の人材も同時に声をかけるようにしていたのだ。
「リズディア様は、やっぱり、皇族だったのですね」
モカリナが、感心したような表情で、ポロリと言った。
その表情には、フィルランカへの嫉妬心と言うよりも、リズディアの隠れた部分の公務の事が気になったようだ。
そして、ふと、モカリナは、何かを思いついたようだ。
「ねえ、ひょっとして、フィルランカだけじゃなくて、私も含めて、女子を優先的に、イスカミューレン商会に集めているのは、……。 行政府にしても軍にしても、男子がほとんどよね。 女子の採用って、明らかに、ごく僅かよね」
イルーミクは、今頃気がついたのかと言いたそうな表情をした。
「そうよ。 軍で採用される女子は、魔法が使えることと、大物貴族の息女だけよ。 だから、モカリナも希望したら、軍でも行政府でも、採用されると思うわよ」
イルーミクの答えを聞いて、鳩が豆鉄砲を食らったような表情をするモカリナだった。
モカリナが、驚いてしまい声を出せずにいると、あまりに、間が開くので、イルーミクは、ヤレヤレといった表情をした。
「モカリナ。 あなたって、高等学校は、飛び級で卒業して、しかも、成績も良かったのよ。 通常の飛び級なら、成績はギリギリなんて当たり前なのに、成績面も、3年間通った私より、良かったのよ。 それに、帝国大学の成績だって、常に上位をキープしているのよ。 それに侯爵家の出身となったら、本来なら、卒業後は、行政府に入るべきなのよ」
それを聞いて、モカリナは、ハッとした。
「リズディア義姉様は、イスカミューレン商会に入れる気だから、きっと、クンエイ殿下と、モカリナのことは、水面下での取引が有ったと思うわよ」
イルーミクは、何で私が説明するのかと思ったようだ。
そして、モカリナは、何だか、責任を感じた様子になった。
「ああ、でもね。 クンエイ殿下とリズディア様って、お母様も同じだから、とても仲が良いのよ。 だから、クンエイ殿下もモカリナの事は、了承済みだと思うわよ」
その話を、心配そうに聞いていたモカリナなのだが、返す言葉が見つからないといった様子で、イルーミクを見ていた。
その視線に気がついたイルーミクは、面倒臭そうな表情をする。
「リズディア義姉様は、モカリナの事を、相当に気に入った見たいなのよ。 きっと、モカリナと私、それと、フィルランカを迎えて、何かを行おうと思っているみたいなのよ。 だから、フィルランカと同じ位、モカリナの事が大事なのよ」
その一言で、モカリナは、顔をポッと赤らめ、とても、幸せそうな表情をした。
(全くもう、モカリナのリズディア義姉様好きは、本当に筋金入りよね。 これだけの話で、もう、舞い上がっているわ)
そんなモカリナを、イルーミクは、ジト目で見ていた。
「まあ、私たちも、フィルランカが、大学に入ってから、余計に、勉強熱心になったから、つられて、一緒に勉強したこともあって、入学してから、成績も上がったわ。 フィルランカの、あの一途に勉強に打ち込む姿は、見習うべきよね」
イルーミクが、モカリナに話かけたのだが、モカリナは、さっきのイルーミクの言葉で、頭の中が一杯になっているようなので、今の言葉は、耳に入らないようだ。
その姿を見て、イルーミクは、ヤレヤレと思ったようだ。




