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カインクムの反撃


 フィルランカは、カインクムの言葉に驚いていた。


 10歳の時の約束は、自分の都合で破って構わないと言われて、少し、怒り気味である。


(なんで、私が、あの約束を破ると言うのですか。 私は、あの時、本当は、とても恥ずかしかったのですよ。 でも、カインクムさんが、10年後にお嫁さんにしてくれるって、言ってくれたから、とても、嬉しかったのに、……。 なんで、今更、私から約束を破らないといけないの!)


 いつも、おっとりとした、フィルランカとしたら、大して怒ったような表情でなくても、珍しいので、カインクムとしたら、そのフィルランカの表情が、怖く感じたようだ。


 フィルランカとしたら、ここで引き下がったら、カインクムの嫁になる話は、終わりになってしまうだろうと思ったようだ。


 フィルランカは、何としても、カインクムの嫁になるため、カインクムの言った、約束は反故にして良いという言葉を、否定させるか、保留させるか、フィルランカが、今、行わなければいけないのは、嫁になるための道筋を残しておくことで、道筋を無くす事は、最悪な筋書きになる。


 なので、何としても、嫁になる道筋を残しておく必要があるのだ。


「カインクムさんは、言いました。 私が、10歳の時に、10年後にお嫁さんにしてくれると言いました。 その約束を、私が、破ることはありません。 ですので、来年には、私をお嫁さんにしてもらいます」


 フィルランカは、言い切った。


 それを聞いて、カインクムは、恥ずかしそうに顔を赤くした。


 流石に、耳まで赤くすることは無かったのは、大人の威厳を保ちたいと、無意識のうちに思ったのだろうが、頬は、赤くなっていた。


 その様子を見ていたフィルランカは、このまま、押し切ろうと思ったようだ。


「カインクムさんは、言いました。 10歳の時の約束は、私が反故にすることを前提にしたと言いました。 だったら、私は、その約束を反故にすることは、ありません。 ですので、約束の期日には、私を、お嫁さんにして、もらいます」


 カインクムは、フィルランカの言葉を聞いて、引き気味になっている。


 フィルランカが、本気で、カインクムの嫁になりたいと言ったことで、それを、どう、取り繕うのか、収集するためにはどうしたら良いのかと、必死になって考えていたのだ。


(おい、俺、どうするんだ。 こんな事って、あってのいいのか? フィルランカが、俺の嫁になる? 本気なのか? 冗談だろ! たしかに、皇族や貴族は、24歳差の嫁、……。 いや、それは、妾っていうか、側室だろう。 あの連中は、経済的に余裕が有るから、そんなこともできるんだ。 ああ、そうか)


 カインクムは、フィルランカに睨まれるように見られていたが、何か思いついたようになる。


「な、なあ、フィルランカ。 貴族や皇族は、経済的に余裕が有るから、歳の離れた側室をとることもあるけど、正室では、そんなに、歳の離れた、嫁は、いないと、思うぞ」


 カインクムの話の途中から、フィルランカの表情が、険しくなったので、カインクムは、少し声が、小さくなってきて、不安そうに、言葉も途切れ途切れになっていた。


「正室でも側室でも、お嫁さんになったのは、事実です。 だから、歳の差なんて、関係ありません」


 フィルランカの反論に、カインクムは、タジタジになっていた。


(フィルランカに、歳の差の言い訳は、通用しないのか。 うーん、困った。 どうしたら、この場を、乗り切れる。 フィルランカは、嫁にしろと迫ってくるのは、何でなんだ!  それにしても、10年後、……。 10歳の時の10年後だから、20歳だぞ。 それに、20歳は、大学生だ。 フィルランカは、学生のうちに結婚したいというのか? ……。 ん、大学? 学生?)


 カインクムは、何か気がついたようだ。


(そうだ、フィルランカが、20歳になった時は、まだ、帝国大学の学生だぞ。 その学生が、嫁になったじゃあ、学校にも申し訳ないんじゃないのか? 他の学生の事もある。 それに、学業が疎かになったら、まずいだろう)


 カインクムは、考えがまとまったようだ。


 落ち着いた表情で、カインクムは、フィルランカを見る。


「なあ、フィルランカ。 お前が、20歳になった時に、俺の嫁になるなら、帝国大学は、どうするんだ? 在学中に結婚となったら、周りの学生さん達は、どう思うだろうな」


 それを聞いて、フィルランカは、困ったような表情をした。


 そのフィルランカの表情を見て、カインクムは、わずかにニヤリとしたようだが、微妙な表情の変化だった事と、フィルランカは、帝国大学の事を言われて、動揺したので、カインクムの表情の変化には、気がつかなかったようだ。


(よし、フィルランカは、動揺した。 このまま、押し切る)


 カインクムは、この場のイニシアチブを握ったと思ったようだ。


「フィルランカは、この店を大きくするために、帝国大学へ入学した。 それなのに、在学中に、そんな浮ついた事で、いいのか? 俺も、フィルランカが店を大きくしてくれると言ってくれて、嬉しかったんだよ。 それが、在学中に、俺の嫁にとかは、無いだろう。 せめて、約束の話は、帝国大学を卒業してからだろう。 そして、店が大きくなった後の話じゃないのか?」


 カインクムは、それらしい話をする。


 ただ、大学生が結婚するとかの話は、帝国内にもある。


 そして、店を大きくするなら、2人が結婚して、二人三脚で大きくしても構わないのだが、カインクムは、最もらしい理由にして、フィルランカに伝えた。


 フィルランカは、カインクムの、もっともらしい話を聞いて、迷ったような様子になる。


(しめた! フィルランカが、悩んでいる。 これで、20歳の結婚は、無くす事ができる)


 カインクムは、確信した表情をする。


「フィルランカは、帝国大学に行きたいと、幼年学校の校長との面談で言っただろう。 その時の思いは、どうなるんだ。 せっかく、入ってくれた帝国大学だ。 無事にフィルランカが、卒業してくれると思ったのだが、大学生が、24歳も年上の鍛冶屋の嫁になったということで、問題にならないといいなぁ」


 カインクムは、フィルランカの、その悩んだような表情を見つつ、言葉を繋ぐ。


「どうだろう、約束の話は、大学を卒業してから、相談するということにしないか。 周りの学生さん達のこともあるから、学生の間は、嫁にするという話は、保留ということでどうだ?」


 フィルランカは、考えているようだ。


(よし、いい感じだ。 これから先、フィルランカの出会いの数を考えれば、やっぱり、約束は無かった事にして欲しいとなるかもしれない)


 フィルランカの様子を見ていたカインクムは、とりあえず、約束の期日を2年延ばすことの理由を見つけたので、それで何とか、この場を凌ごうと思ったようだ。


 すると、フィルランカは、カインクムを見た。


「そうですね。 帝国大学へ入れてもらい、卒業もせずに、嫁になるというのは、良くないですね」


 それを聞いて、カインクムは、ホッとしたようだ。


「そうだろう、難しい事を習っているのだから、一心不乱に勉強しないと、良い成績は取れないだろう。 ちゃんと勉強して、俺の店を大きくしてくれないか」


 フィルランカは、納得できないような表情をしているのだが、今の話を受け入れなければならないという表情をしている。


「わかりました、カインクムさん。 帝国大学を卒業するまで、約束は保留します。 勉強して、良い成績をとり、そして、カインクムさんの店を大きくします」


 カインクムは、保留になったことを安堵した。


 だが、ここにもう一つ、釘を刺しておく必要があると思ったようだ。


「ああ、フィルランカ。 約束というのは、その約束を知る人が少ない方が、その約束が叶うという話を知っているか?」


 カインクムは、話をでっち上げているのだが、フィルランカの心には響いたようだ。


「特に、恋愛に関する願いというのは、当事者以外に知られると叶わないと言われているんだ。 だから、本当に、その約束を叶えたいなら、エルメアーナにも、モカリナ様達にも言わないことだよ」


 カインクムは、優しく、フィルランカに言った。


「わかりました。 そのようにします」


 フィルランカは、カインクムのでっち上げの話に納得した様子で、答えたので、カインクムは、ホッとしたようだ。


(とりあえず、卒業までは、乗り切った)


 卒業までの時間を得たカインクムは、その間に、フィルランカの心移りを期待したのだった。


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